早くそこから出ろっ

はーぁい…。潤ちゃん潤ちゃん潤ちゃーぁんっ!!!

…っと

戻すぞ

露草に抱きつかれふらついた身体を孝に支えられた。

教室が元の姿に戻るまではあっという間で、弟がぶつぶつと何か呟いたと思ったら炎が消え窓も机も綺麗に元に戻った。
夕日は沈み、外は真っ暗。
教室が壊れるほど暴れていたのに、何故か誰も来ない。

潤壱、俺達はもう帰るよ

ぁ、はい。助かりました。
弟も露草もありがとな

兄さんは弟と露草を連れて玄関の方へ向かっていった。
俺は振り返って孝の様子をうかがう。

孝、大丈夫か…?

うん、大丈夫だよ

へらりと笑った顔は、疲れきったというように重たげだった。
肩を貸して、ゆっくりとした足取りで学校を出る。
校内にいる間は外に人の気配を感じなかったが、道路を見れば車が走っているしどの建物も電気が付いていて何処からか夕飯の良い匂いが漂ってきた。

潤壱…

ん…?

あれ、どういうこと

俺もまだ、良くわからない…

そっか…。
何かあるなら、ちゃんと相談しろよ?俺も協力するしっ

ありがと、頼もしい

ははっ、本当にそう思ってんのかーっ?

思ってるって

いつの間にか孝の顔色は戻っていて、いつもの調子で話をしていた。
突然のことに驚いたはずだし、恐怖だってあったはずだ。
しかし、俺を気づかってかそんな様子は見せない。
いつだって孝は、俺に明るく接してくれる。

あいつの辛そうな表情なんて、見たくない…。

次の日も、平然と何事もなかったかのように朝がきた。

いつも通りの学校に、いつも通りの教室。
人気のテレビ番組について話す奴や、今日の部活について話す奴、朝から何の用か廊下を走っている奴もいる。
昨日一昨日と、たいして変わり無い平和な一日…。

潤壱おっはよー

あぁ、はよ

昨日の事なんて忘れたかのように、爽やかな笑顔で手を振る孝に安心する。

今日数学で小テストあるけどちゃんと勉強したー?

ぁー、忘れてた

ほらほら、ノート見せるから勉強しよー

ありがと…

今言った一言は、何にたいしての言葉だったのか。
自分でもよくわからない。

それから三日ほどたっただろうか。

セットしておいた目覚ましの時間より早く目が覚め、時間があるからとのんびりテレビを見ていた。
朝のぼーっとする頭では内容はあまり入ってこない。
特に見たい番組があるわけではないが、リモコンを手にしてチャンネルを変えていく。

数日前から姿を消していた放火魔が…

アナウンサーのその言葉にぱっちりと目が覚めた。
暫く謎の放火事件についてのニュースを見ないと思ったら、犯人が姿を消していたらしい。
今回の被害者は小学生の女の子で、現在意識不明の重体だという。

朝から重たい気分になってしまったが、家を出なければならない時間が近づきテレビを消す。

潤壱、どうしたー?暗い顔してんな

席についてすぐ近づいてきた孝は、俺の表情の変化にすぐ気がついたらしい。

なんでもねぇよ

そうかー?ぁ、そういえば昨日すっげぇ可愛い猫見てさーっ

気にしてほしくないのがわかったのか、すぐに話はそらされる。

放課後になっても気分は沈んだままで、俺はこんなに繊細な人間だったかと失笑がもれた。
帰り道の途中にある公園。
花壇に咲いていた花に視線を向けると、少し落ち着くことができた。

うわぁぁんっ

子供の泣き声?
何処からか聞こえる声に、辺りを見回す。

キィー、キィー

ブランコだ。
ブランコに小学生くらいの男の子が座っている。

おい、どうした…?

うわぁぁあぁんっ

迷子か…?

近づいて声をかける。
しかし、少年は小さな身体を更に小さくして泣くばかりで、どうしたらいいのかわからない…。

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