オーク

ほかの四人と交代で、部屋の外に見張りをつけておけ。

アキトが後にした部屋で、オークはマサに指示を出した。

マサ

了解です!

マサはそういうと、あわただしく部屋から出て行った。

日が傾き始めたころ、見張りのためにドアの横の壁にもたれかかって座り込んでいたマサは、退屈そうにぼんやりと宙を眺めていた。すると、そんなマサの目の端に人影が映った。

マサは軽く体を起こし、そちらに目を向けた。そこには、この船のコックをしているレンの姿があった。

レン

よお、見張りお疲れさん。晩飯作ったから、食って来いよ。少しの間交代してやるからさ。

レンの言葉に、マサは首を傾げた。

マサ

ん?お前の手にある皿が俺の飯じゃないのか?

レン

ああ、ちげーよ。これはこのドアの向こうの方の分だよ。

マサ

なるほどな。じゃ、ありがたくいかせてもらうよ。

マサが食堂に向かったのを見届けると、レンはドアを軽くノックした。しかし、中からの反応はない。試しにもう一度ノックしてみるが、やはり同じだった。

そこで、レンは小さく息を吸うと中に向かって声をかけた。

レン

おーい、少しドアを開けるぞ。ここに飯を置いとくから、食ったら皿だけ外に出しておいてくれ。

レンは要点だけを簡潔に伝えると、ほんの少しだけドアを開けて中に皿を押し込んだ。そして、静かにドアを閉めると、壁に背をもたれさせて床に座り込んだ。

レン

まあ、いきなりどこかもわからない場所で、知らない男がたくさんいる船に自分がいるってことがわかったらそりゃ不安になるだろうな。小さい船だから不便もあると思うが、乗ってる奴らはみんないいやつだ。実際初めて会って顔も見たことない奴にこんなこと言われても、どうしようもないよな。まあ、なんだ?とりあえず飯食って元気出せよ。少しは気がまぎれるんじゃないか?

レンがひたすら一方的に話しかけていると、食事を終えたマサが戻ってきた。

マサ

悪いな、レン。かわるよ。なあ、お前今中のやつと話してたのか?

レン

いや、独り言だ。それじゃ、俺は戻るな。

そういうと、レンは立ち上がり食堂のほうへ歩いて行った。

部屋に一人になったリリィは、どうにも落ち着けないでいた。気が付いたら知らない人しかいないし、いつの間にか船に乗っていたというのも全く身に覚えがなかった。そして、一番の不安要素はこの船に乗る前のことをまったく覚えていないということだった。

リリィはぼんやりと部屋の窓から外の景色を見つめた。そうしているうちに、いつの間にかさっきの会話のことを思い返していた。

見ず知らずの私をこの船に乗せてくれるんだから、悪い人たちではないんだろうけど・・・。

リリィは知らず知らずのうちに、自分の肩を抱いてうずくまっていた。彼らからなにかされたわけではないのに、なぜか体が震えてしまうのだ。リリィはどうにかして気を紛らわせようと、ひたすら心を無にして窓の外を見つめた。


どれくらい時間がすぎただろうか。気が付けば海が夕焼けで赤く染まっていた。すると、ふいに部屋の外から人の声が聞こえてきた。

リリィは思わず、少し身構えてドアの方を見つめた。
すると、突然ドアがノックされた。リリィはビクッと肩をあげ、ドアをじっと見つめた。黙ったままでいると、再びドアがノックされた。今度は今まで聞いたことのない声が聞こえてきた。

レン

おーい、少しドアを開けるぞ。ここに飯を置いとくから、食ったら皿だけ外に出してくれ。

声が途切れると、ドアがほんの少しだけゆっくりと開いた。そこからスープ皿とスプーンが入れられた。そしてまたゆっくりとドアが閉められたが、その間リリィはその場から全く動けないでいた。

すると、ドアの外から再び声が聞こえてきた。だが、今度はさっきのように声を届かせるような話し方ではなく、むしろ独り言のような感じだったので言葉をはっきり聞き取ることができなかった。それでも、ゆっくりとして優しいその話し方に、リリィは少しだけ緊張が解けてきた。

しばらくして、また別の人物の声が聞こえてきた。おそらく見張りの交代なのだろう。再び静かになったところで、リリィはゆっくりとドアの方に近づくと、床に置かれたスープ皿を手に取った。それを部屋にある小さな机に持っていく。ひとくちスープを口に入れると、何とも言えない優しい味が口いっぱいに広がった。リリィはそのスープを一口一口しっかりと味わいながら飲んでいった。

気が付くと、リリィはこの部屋に来た時よりも幾分か落ち着いていられていた。

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