オーク

はあ、はあ、どうにかふりきったか?

アキト

そうみたいだな。

オークは膝についていた手をはなすと、
大きく空を仰ぎ見て息を吐いた。

オーク

あいつらもしつこいな。鬼火のやつらめ。

アキト

まあ、それだけ俺たちの名が広まってるってことだろ。

オーク

お、おう!こうなるのは想定済みだぜ!どんどんかかって来てもらわないとな!ハハハ!

アキトの言葉に、オークはさっきとは打って変わって嬉しそうに言う。

オーク

それにしても、ここまで来るのはあっという間だったな。仲間も、最初は俺たち二人だったのに五人も増えたし。まあ、それも、お前の船長としての力量があるからなんだけどな。俺なんて、いつも大騒ぎしてるだけだからなー。

オークはそういうと、もたれかかっていた甲板の壁から船の先端のほうへ歩き出した。そして、アキトはオークの言葉に今まで閉じていた目をゆっくりと開き、地平線のはるか彼方を見つめる。


その時、突然船内から一人の男が慌てた様子で飛び出してきた。

マサ

オ、オークさん、アキト船長!積み込んだ荷物の中に心当たりがない物があって・・・。

その言葉に、オークとアキトは無言で顔を見合わせた。


マサに連れられて、二人は船内の荷物置き場に案内された。

マサ

これです。

マサが指さした荷物は、明らかにその他のものと異なっていた。あらかじめ用意していたものはすべて麻袋に入っていた。だが、それだけ大きな木箱に入っているのだ。

オーク

鬼火がきたから慌てて出航したもんなー。尾の時に紛れ込んだんだろう。

アキト

だが、危険なものかもしれない。一応確認はしておいたほうがいい。

アキトの言葉にオークはうなずくと、木箱にそっと手をかけた。固く結ばれた紐にナイフをあてる。結び目をすべて切ると、恐る恐る箱のふたを開ける。

まず目に入ってきたのは、箱にぎっちりと詰め込まれた布地。そして次に・・・・・

オーク

か、髪の毛!?こ、これってもしかして人なのか?

オークの言葉に、アキトも目を見開いて固まっている。だが、ゆっくりと近寄ると髪の毛を横に払った。そして箱のそばにかがみこむと、じっくりと見つめた。

アキト

・・・・・・生きてる。

オーク

まじか!あーーよかったー。ん?いや、よかったのか?

アキト

どちらにしても面倒なことになったのには変わりないな。さっきの港に引き返すこともできない。それに、次の島までどれくらいかかるかもわからない。

アキトは額にしわを寄せながら言う。その時、ずっと箱の中の人物を見ていたオークがおもむろにアキトの方を見ると、ぽつりとつぶやいた。

オーク

なあ、こいつ、見た感じ・・・・・女・・・だよな?

・・・・・・・・・・・・・・・・。

箱に入れられていた人物は、150センチほどの小柄な体格で長い髪が顔全体を覆い隠していた。


その女を箱から出し、空き部屋に運び込みしばらく様子を見ていた。そして、数時間が立った時、女は身じろぎをしてうっすらと目を開けた。

オーク

気付いたか?

オークの声に、女は一瞬びくっと肩を震えさせた。そして、周りのアキトやマサにも気が付くと怯えた表情を見せた。

アキト

お前はいったい何者なんだ?

・・・・・・・・・・・。

アキト

俺たちはお前に危害を加えるつもりはない。もし、お前が俺たちを欺こうとしてこの船に乗り込んだっていうなら別だがな。だから、今から聞く質問には素直に答えてほしい。

アキトは、ゆっくりだがはっきりとした口調で言った。その言葉に、女はおずおずとうなずいた。

アキト

じゃあ、まずさっきも聞いたがお前はいったい何者なんだ?

わ、わかりません・・・・・・。

オーク

お前、さっき言ったこと聞いてたのかよ!

アキト

まあ、落ち着け、オーク。わからないというのはどういうことだ?

・・・・・・・・思い出せないんです。

女はうつむきながら、今にも消え入りそうな声で言う。

アキト

そうか。じゃあこうしよう。俺たちは訳あってもときた島には戻れない。だから、次の島までお前を乗せてやる。だが、少しでもおかしな真似をしたらその場でこの船から降りてもらう。いいな?

アキトの有無を言わせない口調に、女は無言で小さくうなずいた。

アキト

そうだ、お前、自分の名前も覚えていないのか?

アキトの突然の質問に、女は一瞬驚いた顔をしたが、うつむいたままで答えた。

・・・・・・・・リ、リリー

アキト

そうか。

それだけ言い残すと、アキトは部屋から出て行った。




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