潤壱、帰るぞー

肩を揺すられ目を覚ますと、教室には目の前で俺を呼ぶ孝以外誰もいなかった。
辺りは鮮やかなオレンジ色の明かりに照され、部活動に熱心に取り組む生徒達の声が聞こえる。

ほら、鞄持って

ぉー…

眠気が覚めないまま筆記用具のみ鞄に入れ肩にかける。
孝を見ると、先に扉に向かっていた。

っ…!?

後を追おうと足を踏み出した瞬間、一枚の窓ガラスが突然耳障りな音をたてて割れた。
破片が辺りに散らばり、飛んできた一枚のガラス片で薄く頬が切れ鋭い痛みがはしる。

潤壱…っ!!

すぐに驚いた表情の孝が駆け寄ってくる。

血がっ

大丈夫、少し切れただけだ

悲痛な表情に変わった孝を安心させるよう微笑を向けると、ポケットから取り出したハンカチで優しく頬の血を拭われた。

…誰だ

…勝手にお邪魔して申し訳ございません

ガラスの踏まれる音に目を向けると、一人の見知らぬ男が立っていた。
真っ黒なコートと真っ黒なハット。
怪しい男の姿に、俺は孝を背に隠すように前に立った。

我はアフラ、と申します

…お前が

イエス、潤壱のアフラでございます

…俺、の?

顔を上げると、アフラは服装に反し明るい色の髪をしていた。
貼り付けられたかのような笑みでこちらをまっすぐ見ている。

あぁ、何が目的で突然こんな場所に現れたのか問いたいようですねぇ

…っ

心が読まれたかのように的確に考えていたことを当てられ、咄嗟に半歩ほど後退してしまう。

何故考えていることがわかったか、ですか?

ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべたアフラにまた考えを読まれる。

ああぁ、愛らしい。わかりやすく表情に出ていますし、視線とタイミングからこの程度の事はわかりますとも。考えを読むなんて凡人の我にはできません。ひひっ

視線が全身を舐めまわすようなものに代わった。
そのせいか、先ほどから眉間によっていた皺が更に深いものに変わる。

…おい

おっと、失礼。愛しい愛しい潤壱と少しお話がしたかっただけで、危害をくわえるつもりはありません。これほど近くで姿が見られるだなんて…っ

は、話って…

我はただ、潤壱と親しくなりたい

親しく…?

友人になりたい、ということか?
それほど怪しい人間じゃないのかもしれない。

それはもう、親密に…

…っ

アーフーラーくぅーんっ!!潤ちゃぁんは俺のぉー、勝手に遊ぶの禁止禁止禁止ぃーっ!

…露草?

っ、邪魔すんじゃねぇよ塵野郎がぁっ!!!!

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