翌日、目を覚ましたのは10時を少し過ぎた頃だった。
携帯を手に取りメールの確認をする。
今までは家族以外とメールや電話をすることなんてほとんどなかったのに、ここ数日で突然良く使われるようになった。

受信メールは四通。
三通は兄さんと弟と露種から何かあったら連絡できるようにメールアドレスを登録しておけ、という内容のもの。
露種からのものは内容だけ見ると何を言いたいのかわからないが、兄さんに言われてメールしてくれたんだろう。
短文だが返事を返しておく。
四通目は俺を助けてくれた彼からのメールだった。

『おやすみ』

昨夜寝る前に連絡をくれたようだ。
そういえば、彼の名前を知らない。
その事に気が付き返事を返すついでにと聞いてみる。

『おはようございます。そういえば、名前を伺い忘れてました。』

『おはよう。名前?秘密』

俺の知らない人だろうに名前を秘密にする必要があるのか?
もしかしたら何かで有名な人なのかもしれない。

『もしかして、有名人?』

『どうだろうね』

何か事情があるのかもしれないし、深く気にしないほうがいいだろう。
しかしそうなると、

『んー、なんて呼んだら良いですか?』

『じゃぁ、ソラって呼んで?』

『わかりました。今日も、良い天気ですね。』

それからは、日常的な会話をしたり色々と質問をしてみた。
俺はソラについて知らないことばかりなのにたいし、何故か彼は俺について良く知っているように感じた。

テレビを見たり漫画を読んだりしながらメールを続けていると、気がついたら外が暗くなり始めている。

カーテンを閉め、電気をつけ。
人工的な明かりに眩しさを感じ、僅かに眉間に皺がよった。

『もうこんな時間か、そろそろ母親と姉貴が帰ってくる…。』

『嫌?』

『嫌ではないけど、少し騒がしくなるなって…。』

歳を聞くと、ソラは俺と同じ歳だという。
そこで敬語はやめるよう言われた。
雰囲気や話し方から年上だと思い込んでいたせいで違和感はまだ抜けない。
母と姉が二人で買い物に出ていたため今日は珍しく静かな一日だった。
明日からまた学校だと思うと、ほとんどサボっているとはいえ憂鬱な気分になる。



晩飯を食って風呂に入り部屋へ戻る。
時計を見ると、もう夜中と言える時間でそろそろ布団に入らなければ明日の朝が辛い。

『潤壱にとって、明日は素敵な一日になるよ』

『素敵な一日?』

『そろそろ寝るね、おやすみ』

『あぁ、おやすみ。』

どういう意味かは良くわからないが、少しだけ明日が楽しみになる。
俺がちょうど布団に入ろうかと思ったときにソラからおやすみと言われ、その偶然への驚きも楽しみな気持ちと同様僅かに内心に残っていた。


次の日の朝、月曜日。
出されていた宿題は勿論やっていない。

潤壱

孝、はよ

はよー

席に座ったところで、入口で他の同級生と話していた孝が寄ってきた。

宿題、やってきた?

俺がやってくるわけねぇだろ

ははっ、こらー

俺の机の上に顎を乗せて笑う。
いつもの事ながら朝から驚くほど爽やかな笑顔。
ダルさや眠さは全く見えない。

俺のノート見せてやるから写すくらいしとけー

おー、助かる

まったく、潤壱君は手間がかかる子だ

んなこと言うともう飯作ってやんねぇぞ?

あー、それは駄目ーっ

人並みに料理が作れるというだけで、プロが作るような料理にはならない。
それなのに、一人暮らしをしている孝の家に行くと飯は必ず俺が作らされる。
孝は食うたび美味いと言ってくれるからそれなりに作りがいもあるし、嫌だと思ったことはない。

潤壱の飯がなきゃ生きていけないー

あ、そういえばプリンの作り方覚えた

やったーっ

チャイムが鳴ると宿題のノートを置いてプリン、プリンとはしゃぎながら席に戻っていった。
すぐに担任が教室に入ってきて朝礼を始める。
ノートは朝礼の間に写してしまい、授業は基本的に寝て過ごした。

じゅーんーいーちーっ

思いきり揺すられたと思ったら、耳元でデカイ声で名前を呼ばれ不快な気分とともに目が覚める。

あ゛ぁ…?

呼んだらしい人の方を、眉間に皺をよせ目は細め嫌な顔で睨んでやる。

潤壱怖いー

孝か、なんだよ…

他にそんな起こし方をする奴はこのクラスにはいないだろうが、やはり相手が孝だとわかり再度机に顔をふせ寝起きで掠れた声で要件を聞く。
他のクラスメイトが昼食を食べに教室から出ていく足音が聞こえる。

HappyBirthdayっ

ん?

潤壱今日誕生日だったろ?

ぁー、そうだっけ?

そうそう、ほら

何かを差し出され顔をあげる。
目の前には真っ白な包装紙に包まれ青いリボンのついた長方形の箱。

早くあけてあけてーっ

あぁ…

家族以外から貰った初めてのプレゼントに思わず涙腺がゆるみそうになる。
まだ出会って一年にもみたない友人が浮かべるへらへらとした締まりのない顔にじんわりとした暖かみを感じた。
リボンをほどき包装紙を丁寧に剥がしていると孝に若干ちゃかされたが気にしない。

キーホルダー?

ははっ、俺とお揃いー

リボンと同じ綺麗な青色の石がつけられたキーホルダー。
孝からは携帯に付いた赤い色の石が付いた同じ形のキーホルダーを見せられる。
初めてのプレゼントに初めてのお揃い…。

………今度お前ん家行ったとき、好きなもの作ってやる

小声でそう呟いた。

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