すき焼きすき焼きでっきたーぁっ!

露種の初めての料理であり、サイズがバラバラになってしまっているがなんとか美味そうに出来た。
机に皿や箸と一緒に並べ、四人で食べ始める。
無事に作り終えたことで一先ず安堵する。

露種、凄くおいしいよ

すげぇ俺ぇーっ!ひゃははっ

んー、まぁまぁ

食べながら、頭の中は色々と考えはじめる。
晩飯が食い終わったら次は俺が食われるかもしれないが、昨日の事から今まで全て漫画やアニメの世界のような出来事ばかりで現実感がない。
今にも目が覚めて夢落ちに終わりそうだ。

しかし、このすき焼きの美味さもソファのふかふかさも現実のもので、夢なんかではないリアルな感触が身にしみる。
目が合わせられないまま三人の顔をこっそり窺う。

潤壱、おいしくなかった?

今にもこの三人に食われるんじゃないかなんて心配していた俺を、兄さんはそう言って心配してくれる。
今までに会った人の中で一番大人っぽくて、格好良い。
人見知りをするせいか友人は少なく、普段人と話すことはあまりない。
普通がどういうものかと聞かれると、比べる対象が少なく、それでこんな俺でも普通じゃないと分かるような奴等と呑気に晩飯を食うことができるんだろう。

いや、美味いです…

そか、よかった

安心して優しく微笑んでくれる。
純粋に人に気遣ってもらうことなんて皆それほどないだろう。
もしかしたら、純粋な心配なんかじゃなく何か裏があるのかもしれないが、今死んだところで心残りがあるわけでもないし別にいいか。という気分にさせられる。
これすら作戦の内かもしれないなんて、開き直ると少し笑えてくる。

兄、おかわり

今日は良く食べるね、露種は?

俺も俺も俺もぉーっ!

ただ、痛いのだけは勘弁…。

俺も、おかわりください

食事が終わり、片付けをしてソファでまったりとする。
そういえば、

露種、なんで俺は此所に連れてこられたんだ…?

テイが言ったからぁーっ!

露種につられて、俺も兄さんの膝に頭を乗せてソファでダラダラしている弟に視線を向ける。

あー?兄が呼べって

テレビのリモコンに手を伸ばしながら此方に一瞥もくれずにそう言った。
今度は兄さんに視線を向ける。

んー、潤壱の顔を見たかった、から?

兄…

弟は先程までのダルそうな感じが嘘のように、じとっと兄さんを見る。

アフラが運命の人を見つけたって騒いでただろ?

あぁ、一昨日の夜のか…

それが、潤壱のことらしいんだ

うわー…

何故か憐れみの目を向けられる。
アフラが誰かはわからないが、さっき話に出てきた良くないものと同一人物だとわかる。
そして、好かれて喜べる相手じゃないことも…。

駄目駄目駄目駄目ぇーっ!

隣に大人しく座っていた露種が、突然叫んだかと思ったら飛びついてきた。
反応しきれずにソファから二人で落ち頭をぶつけた。

あーんな変態に潤ちゃぁんはあっげなぁーいっ!

つ、露種…

潤ちゃぁんの目玉がえぐり出されるぅーっ!

アフラは変態なのか?
そんで俺の目玉がえぐり出されんの?
疑問を消すことができないうちに、新しい疑問がいくつも生まれ収拾がつかなくなってしまった。

ぁー…。そういうことなら、俺はそろそろ帰ろうかな…

露種、潤壱をおくってあげな?

ぅーーーー…っ、了解ぃ

未だに耳元で騒いでいた露種がやっと大人しくなった。
また同じ道を露種に抱き上げられて帰る…。
家に着き窓から部屋に入ると、部屋の中は普段と何も変わらない静かな空間だった。

潤ちゃぁん、またねん

綺麗な笑みを残し、露種は真っ暗な中に帰っていった。
後ろ姿は暗闇に紛れすぐに見えなくなる。

思い返してみると、俺は兄さんに呼ばれてあそこに行ったってことか。
結局何事もなかったが、あの三人が普通の人間じゃないことは確かだ。
それに、アフラって奴についての事は少し心配が残る。
しかし、会ったこともない奴の事を勝手に想像したところで心配は増すだけだ。

あぁ、疲れた。
何も考えずにもう寝よう…。

靴を玄関に戻しに行くのも億劫で、明日の朝で良いかとその辺にあった袋の上に置いておく。
目蓋は重く、身体は布団に沈んだようで、眠気にあらがうことなくすぐに意識はなくなった。

深い眠りについたその隣で、黒い携帯がメールを受信したことを知るのはまだもう少し後のことになる。

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