いつも、こんな感じなんですか…?

んー、どんな感じ?

俺みたいな奴に、優しくしたり…

ははっ、潤壱みたいなのは珍しいよ

…?

そんな話をしていると、やっと言い争いが終わった二人が寄ってきた。

おい、あんま兄に近づいてんなよ

兄さんの膝に座りながら弟は俺を見てそう注意する。
可愛らしい見た目に反して、その瞬間は弟の目に本気差が見え少し威圧された。
二人の関係がまだ良くわからない。

潤潤潤ちゃぁーんっ!

っわ!

ソファの後ろから露種に抱き着かれ、前屈みの体勢になる。
首から小さく嫌な音が聞こえた気がする。

一緒ぉーにごはん作ろぉーっ!

馬鹿か露種、お前料理なんてできねぇだろ

できるできるできるぅーっ!今日は潤ちゃぁんがいるもぉーんっ

潤壱、お前は料理できんのか?

少しなら…

あの母に姉だ、いつか家から追い出されるだろうことを考えて少しずつ作れる料理を増やしている。

作ろ作ろ作ろぉーっ!

ははっ、今日の露種はまた一段と機嫌が良さそうだな

煩いだけだろ

兄さん、俺まで飯一緒していいんですか?

大歓迎、大勢の方が楽しそうだ

潤ちゃんー、何作るぅー?

とりあえず、冷蔵庫見てから

早く連れていけ

露種を離してソファから立ち上がり、兄さんに台所まで案内してもらう。
冷蔵庫を開くと、食材は沢山あり何でも作れそうだった。

露種も一緒に作るなら簡単なのにするか

ぇーーー…っ

鍋系がいいかな

やったぁーっ!

キム、すき焼きにしよう

赤を見ると、露種のあの姿を思い出す。
今はこんな風に料理を手伝っているが、初めて露種に会ったときのことはまだ忘れない。
あの時の震えも手の冷たさも頭の冴えていく感覚も、忘れることのできるような記憶じゃない。
しかし、今思うと初めて会ったときのあれはただの見間違いだったようにも感じる。
普通に考えて人間の腕をくわえていたなんておかしい。

ケイーっ、食後のおやつはぁーっ?

あのおじさんなら昨日仕事前に食べてたでしょ?

そうだぁー、悲しーい…

…。
背筋を冷や汗がつたい鳥肌がたつ。
すぐ後ろには、人の肉を食いたがっている露種がいる。
日常会話の様な雰囲気で恐ろしい話をしている二人に、恐怖を感じた。
昨日見たのが、そのおじさんの腕だとわかり食欲はなくなる。
それどころか、俺が食後のおやつにされるかもしれない状況だ。
今更ここから逃げる方法も思いつかないし、すき焼き用の牛肉が冷蔵庫に入っていることだけが唯一の救い。
今まで牛や豚に感謝が足りなかったと、初めて心の底からそう感じた。

つ、露種…

潤ちゃんどーしたのぉー?体調悪いぃー?死んじゃうのぉー?

自分でも顔色が悪くなっていることが分かる。
そんなことを言いながら顔を覗き込まれるが、今は露種に言われたことが冗談に聞こえない。

だ、大丈夫だから、とりあえずこの白菜を切ってくれ…

はいはいはぁーいっ!

よろしく…

三歩程後ろに下がってから指示を出し、露種の動向をうかがいながらすき焼きを作り始める。

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