姫の特訓をすることになった勇者たち一行。初めに勇者が姫の特訓をすることになった。

勇者

じゃあまずはオレからだ

え、勇者様だけ? みなさんで教えてくださるんじゃないんですか?

勇者

みんな戦い方が違うからな。それぞれに教わって一番しっくりくる形をとってくれ

なんか結構アバウトですね

小言ばかり言う姫である。そんな姫に勇者はまず質問を投げかけた。

勇者

姫、剣を持ったことは?

ありませんよ

勇者

じゃあ喧嘩したこととか

基本的にお城にいたのでそういうことはなかったですね

勇者

なにか戦いについて書いてある本を読んだことは?

むかし読んだ絵本で悪と戦うものはありました

勇者

…………………………

三つ目の質問をしたところで勇者は口を閉ざして深刻そうな表情をする。

勇者

これは思った以上に大変だ……

そんな深刻そうな顔しないでください! 仕方ないじゃないですか、兄弟もいないですし、お城の外に出ることなんて滅多になかったんですから

まるで一国のお姫様のような口振りである。

私は一国の姫です!

私はなにも知らない。

勇者

それじゃあ剣を持ってみるか

勇者は腰に下げた鞘から剣を引き抜くと、姫に持たせる形で手渡す。

え…え?

しかし姫は戸惑ったようなようすで手を出したり引っ込めたりしていた。その奇行に勇者は不振そうな顔で尋ねる。

勇者

なにしてんの?

いきなり持って大丈夫なんですか? 持った瞬間身体が八つ裂きになったりしませんよね

勇者

そんなことは絶対にないから

勇者の手から剣が離れ、姫の手に握られる。この時はまだ誰もあのような惨劇が起こるとは思ってもいなかった。

どうしてそんな不吉なこと言うんですか!

私はなにも知らない。

んしょ、と。うわ、結構重いんですね

勇者

そうか? 支給品の剣だから普通だと思うけど

勇者様達はしっかり鍛えてますけど、私はそんなことしていないんです

勇者

そういえばそうか。言っちゃえば剣も鉄の棒からな

そういうと勇者は姫の後ろに回り、姫の手を覆う形で手を握った。

ゆ、勇者様、いきなり何してるんですか!?

勇者

重いのに一人で持つと危ないだろ、だから支えておく。じゃあ振り方を教えるぞ

……は、はい。よろしくお願いします

姫は勇者の動きに合わせてゆっくりと剣を振る。

………………

勇者

そうそう、そうやって相手をしっかり狙っていくんだ。よし、次は踏み込みだ

そう言いながら勇者は足を一歩踏み出す。それによりただでさえ近づいていた姫とさらに密着することになる。

ひ、ひぁ……。ゆ、勇者様……

勇者

ん? どうした姫

いえ……その……近いです

まるで赤い果実のように顔を赤くしながら姫はぽそぽそと呟いた。

勇者

一人で持つと危ないだろ。これだけ近づかないと支えられない

勇者様がよくても私が……

姫の顔がさらに赤くなり、勇者はようやく合点がいった顔をする。

勇者

大丈夫だよ、姫。別に臭くないから

その瞬間、姫が突如剣を後ろに向けて振り、ブオンと風を切る音がなった。

勇者

うおっ! 姫、危ないだろ!

勇者はぎりぎりのところでそれを避けると姫に向かい注意をする。しかし姫の方は興奮したように構えた剣を下ろそうとしない。

私、臭くなんかないです! 毎日身体を拭いてますし、川があったら水浴びもしてます!

勇者

いや、だからオレも言っただろ

いいえ、勇者様はわかってません! デリカシーに欠けます!

勇者

デリカシーって……

もう勇者様には教わりません。ありがとうございました

勇者にはわからない繊細さが姫にはあったようであり、剣が返却され勇者による姫への特訓が終わった。

騎士

……次は私

………………

騎士

……どうしたの

騎士様、私って臭いですか?

先程の勇者の言葉を気にしていたようである。

騎士

……別にそう感じたことはない

そうですか、よかったです

騎士

……勇者となにかあった?

いえ、その、少しだけ……

騎士

……勇者も気を使ってくれている。なにがあったかわからないが気にすることはない

少し落ち込んだような顔をしながら言う姫を見て、騎士がそう助言した。

そうですね。ありがとうございます、騎士様

姫の表情が元に戻ったところで、騎士による特訓が始まった。

騎士様も剣を教えてくださるんですか?

騎士

……私は騎士になるときに訓練した内容を教える

それって私でもできるものなんですか?

騎士

……姫用に少し変えてある。これならできるはず

そうですか。なにからすればいいですか?

騎士

……まず体力作りとして走り込みを10キロ

じゅ……

騎士

……そのあとに筋トレ各種を100回10セット。インターバルは各1分

ひゃ……じゅう……

騎士

……次に体術。組み手の相手がいないから型の動きを30分

ちょ、ちょっと待ってください!

騎士の言葉を遮る形で姫は悲鳴のような声を上げた。

騎士

……まだ途中

まだあるんですか!?

勇者の時とは打って変わって姫は青い顔をしている。

騎士

……これでも相当緩くしたほう

騎士様はいったいどんな訓練をしていたんですか……

騎士

……騎士になるためには常に鍛錬が必要

ごめんなさい、私には絶対にできません。そんなのしたら死んじゃいます

騎士

……そう

こうして、騎士による特訓は内容説明だけで終わったが、しかし、姫の特訓はまだまだ始まったばかりなのであった。

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