魔王討伐のため、旅だった勇者たち一行。彼らは、次の町に向かう途中の草原を歩いていた。

勇者

みんな、野生動物とか魔物に注意しろよ

騎士

……特に気配は感じない

勇者

まあ、警戒は怠るなよってことだ

先頭には、仲間たちにもしっかり気を配る勇者と、突然の奇襲にも対応できるよう、警戒を怠らない騎士が歩いていた。

剣闘士

いやー、気持ちいいなー

魔法使い

野草とかも自生してそうだね。薬の材料を探すのもいいかもね

その少し後ろには、無邪気に草原に寝転がる剣闘士と、散策をしている魔法使いがいた。

あのう……置いていかないでください……

そのさらに後ろから、勇者のパーティに相応しくない人物がついてきていた。

勇者

姫、遅いぞ

勇者が遥か後方にいる人物に話しかける。
その人物はお姫様であった。

遅いぞ、じゃないです! 何度も言ってますが、なんで置いていくんですか!

剣闘士

zzz

姫は剣闘士が寝息を立て始めた頃に、ようやく勇者の元に追いつき、一行に向かい諭すように話し始めた。

勇者様、私は戦えないんですよ。離れてるときに魔物に襲われたらどうするんですか

自分が戦えないことを棚に上げての発言をする姫である。

勇者

このあたりは見晴らしがいいから大丈夫だ。それに魔物なら魔法使いが魔力に反応してくれる

その魔法使い様は野草摘みに夢中じゃないですか!

姫は魔法使いを指差しながら言う。人を指さしてはいけないと教わらなかったのだろうか。

あとなにさっきから失礼な地の文を書いてるんですか!

私はなにも知らない。

魔法使い

失礼だなー、姫と一緒にしないでよ。野草摘んでたって魔物が近くにいれば気づくからね

いくつかの野草を抱えた魔法使いがなんとも不服そうに言う。

そうなんですか? すみません、そうとは知らず失礼な事を言ってしまって

きちんと魔法使いに謝罪をする姫。謝罪はしっかりできる人間のようである。

できるに決まってるじゃないですか!

私はなにも知らない。

魔法使い

まあ、魔物に気づいても助けられるかどうかは別の話だけどねー

それじゃあダメじゃないですか! 聞きましたか勇者様!

さらりと言い放つ魔法使いに、一国の王女とは思えない形相でキレる姫。

その横にいる勇者は少し悩んでいるような表情をしていた。

騎士

……勇者、どうしたの

その様子に気づいた騎士が勇者に声をかける。

勇者

いや、姫のことを守ると約束はしたんけどな

勇者

万が一のことを想定して、姫も自衛くらい出来るようになった方がいいかと思ってな

そんな! 勇者様!

不満そうに抗議の意思を示す姫。

彼女の心からはもう、魔王を倒すと誓ったあの日のことはなくなってしまったのだろうか。

そんな日はありません! というか私は連れてこられたんです!

私はなにも知らない。

魔法使い

まあ、戦えない人が一人でもいると、急に戦いづらくなるからねー

あの、遠まわしに邪魔者扱いしてます?

騎士

……私が守る

姫の存在価値が揺らぎ始める中、騎士ははっきりと言った。

騎士様……

魔法使い

騎士ー、姫をあんまり甘やかしちゃダメだよー。癖になるから

人をペットみたいに言わないでください!

守ってもらい、養ってもらっている身なのだから、そのように言われても仕方ないだろう。

うるさいです!

私はなにも知らない。

勇者

騎士、もちろんオレだって守るようにはするさ

勇者

でも、もし強敵が現れたり、すごい数の魔物を相手にしなくちゃいけなくなったらどうするんだ

騎士

……死ぬ気で守る

勇者

死んでほしくないから言ってるんだ。
今後、どんな敵が出てくるかわからない

勇者

それに魔王との戦いも簡単にはいかないと思う。オレは仲間の命を第一に考えたいんだ

仲間のことをきちんと考え、一人一人への危険が少なくなるように行動できる。わがまま姫の自分勝手な意見とはまったく異なる、勇者の勇者足る所以である。

いちいち私を引き合いに出さないでください!

私はなにも知らない。

でも、私のせいでみなさんが危険にさらされるのは嫌です。命を懸けて守られても嬉しくありません

騎士

………………

勇者

そういうことだ、騎士。あんまり一人きりで無理するなよ

剣闘士

おっしゃあ! じゃあ姫の特訓始めるか!

草原で寝転がって、寝息をたてていた剣闘士が、突然起き上がりそう言った。

剣闘士様、寝ていたんじゃ

剣闘士

ああ、寝てたんだけどさ、なんか昔から寝てるときに聞いた話ってちゃんと覚えられるんだよな

魔法使い

え、それって……

騎士

……睡眠学習

頭についた葉っぱを払う剣闘士を、魔法使いと騎士は不思議そうに見つめた。

勇者

まあ、状況が分かってるなら早い。みんなで姫に特訓だ!

お手柔らかにお願いします

こうして、戦えない姫を戦えるようにする特訓が始まったのだった。

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