引き続き、姫の特訓をしなければいけない勇者たち一行。だんだんと希望が見えなくなっていく中、剣闘士が特訓をすることになった。

剣闘士

じゃあ次はわたしか

よろしくお願いします。剣闘士様

剣闘士

て言われてもなあ、教えられることなんかないぞ

困った顔をしながら、剣闘士はうんうんうなっていた。

なんでもいいですよ。例えば剣闘士様がどういうことを考えながら戦っているかとか

剣闘士

そうだなぁ……。とにかく敵をぶった切るってことくらいかな

剣闘士は剣を振り下ろしながら答える。剣を振り下ろす度に風を切る音が響いた。

……なんかよく見ると剣闘士様の剣って少し大きくないですか

剣を振る姿を見ていた姫は、ふと呟いた。

剣闘士

そりゃあでかいほうが威力でるだろ

そういうものなんでしょうか……

戦ったこともないのに疑うことしかしない姫。彼女には信じる心というものを持っていないのだろうか。

本当に知らないんです!

私はなにも知らない。

剣闘士

とりあえず振ってみるか、姫

私、一人でですか?

剣闘士

わたしが手伝ったら邪魔だろ

むしろ手伝っていただきたいのですが……

剣闘士

大丈夫だって! よっ

剣闘士

ほらっ

剣闘士は地面に剣を突き刺すと、姫に抜くように促す

うーん……やってみますね

姫は不安そうな顔をしながら剣に持ち、上に向けて引っ張った。

んんんんんんん!!

無様な体制になりながらも懸命に剣を抜こうとする姫。

……はあ

しかし、貧弱でひ弱でヒョロヒョロの姫の力では剣は微塵も動かなかった。

いくら何でも言い過ぎじゃないですか!

私はなにも知らない。

剣闘士

姫、もしかして抜けないのか?

もしかしてもなにもぜんぜん動きません

剣闘士

姫ってほんとに力ないんだな……

皆さんと一緒にしないでください……

こうして、剣も抜けないまま、剣闘士による特訓は終わった。

魔法使い

あたしは別に姫に教えることなんてないのになー

剣闘士様も同じことを言ってましたけど、絶対意味は違いますよね

魔法使い

そうは言ってないよ。ただ姫は戦えないままでもいいかなーって

どういうことですか?

魔法使い

だって姫は、あたしの作る薬の被験者になってもらわないと困るからね

笑顔でなんてこというんですか!

姫の脳裏に、魔法使いの作った薬を飲んだときの記憶が蘇る。

あのとき姫は、気持ち悪い姿になり、気持ち悪く動き、気持ち悪くおぎょぽんと鳴いていた。

思い出させないでください!

私はなにも知らない。

魔法使い様、なんでもいいんです。勇者様たちをサポートできるような魔法は……

あ、回復とか

魔法使い

そんな都合のいい魔法がある訳ないでしょー。そんなのがあったら医者が商売できなくなっちゃうじゃん

至極まっとうなことを言う魔法使い。

魔法使い

それに少し教えた程度じゃ、魔法は使えないからね

そうですか……

魔法使い

それはそうと姫。出来立てほやほやの薬があるんだけど

ごそごそと裾から一つの瓶を取り出す魔法使い。

嫌です、飲みません! というかいつの間に作ったんですか

魔法使い

姫が特訓してるときにね。使えそうな野草はいっぱいあったし

そんな短時間で作れるんですね

魔法使い

そんな複雑な薬じゃないからね。
だから姫、はい

魔法使いは薬の入った瓶を姫に渡す。中には薬と一緒に何かの実も浮いていた。

なんか液体以外のものが入っているんですが……

魔法使い

必要だったんだから仕方ないでしょー

ほんとに飲むんですか?

魔法使い

変なことにはならないから

うぅ……わかりました

渋々といった様子で薬を受け取ると、姫は中身を酒をあおるように一気に飲み干した。

…………あれ?

少しの間、きつく目を瞑っていた姫だったが、なにかを感じたようで身体中を見回し始めた。

なんだか、少し身体が軽くなったような気がします。特に足の方が

魔法使い

だーいせーいこー

姫の言葉を受け、魔法使いは万歳する。

魔法使い

その薬は傷薬。外傷だけじゃなくて体の疲労とかもある程度はとれるの

すごいですね。これがあれば、今後は勇者様達にペースを合わせてもらうこともなくなりますね

魔法使い

まあ、うまくいってればなんだけどねー

え?

その言葉を聞いた姫の顔は徐々にゆがんでいき、お腹を抱えるような体勢になっていった。

あの……魔法使い様……。すごく……お腹が痛くなってきたんですが……

魔法使い

あー、やっぱりそうなっちゃうんだ。効果が良い分、強い野草ばっかりになっちゃうからどうかなーとは思ってたんだけどね

そんなもの飲ませないでください!

姫はそう叫ぶもすぐにお腹を抱えてうずくまってしまう。

魔法使い

でも良かったじゃん姫。ここまで歩いてきた疲れも特訓の疲れもなくなったんだし

その代償で動けないくらいお腹が痛いんです! なんとかならないんですか!

魔法使い

ちょっと横になってれば治まるから

うぅ……痛い……痛いです……

こうして、得ることのなさそうなまま姫の特訓が終わろうとしていた。

姫が横になり休んでいる間、勇者達は出発の準備をしていた。

勇者

姫、調子はどうだ。そろそろ動けそうか?

旅支度を整えた勇者は、そう姫に声をかけた。

はい、なんとか大丈夫そうです

勇者

無理そうならおぶって行ってもいいが

結構です。もう変なこと言われたくないので

勇者

変なことって……。別に姫くらい重くも何ともないぞ

そういうのが嫌なんです!

大変面倒くさい姫である。

あなたもすごく失礼です!

私はなにも知らない。

勇者

……姫。悪かったよ、オレの発言も含め、無理に戦わせようとして

勇者は謝罪するも、姫はそっぽを向いたままである。

勇者

これからもオレたちは姫を守っていく。もちろん姫だけじゃない。みんなを守っていく

そこまで勇者が言ったところで、ようやく姫が向き直った。

勇者様が、私達のことを大切に思ってくれてるのはわかってます

私は戦えませんが、そのほかのところで必ずお役に立って見せます

勇者

ああ、期待してるぞ、姫

はい!

結局、姫は戦えないまま特訓は終わり、魔王討伐のために勇者たち一行の旅は続くのだった。

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