謎が多すぎる

経次郎

イモ、追加、買ってくる。
聡士もいる?

ポテトって言いなさいよ……。

聡士

ボクはいいよ。
そろそろ帰るし。

経次郎

もうこんな時間か。

ほんとだ。
17時になる。

経次郎

じゃ、テイクアウトにしようかな。

そう言って、経次郎は席を立つ。

静香

ポテト好きなの?

そういえば、経次郎の好みとかって、知らないかも。

経次郎

あ……。

方向を変えたヤツと、目が会った……。

経次郎

静香?
なんでそこに?

ヤバいと思って頭を下げたけど、意味なかったから、すぐに上げた……。

静香

……。

経次郎

慶子と柚葉ちゃんも?
仲良しなんだね。

経次郎は、こっちの席を見て、物珍しそうにそう言った。

静香

違う……。
断じてそれは無い。

でも、それが言える感じじゃなかった……。

聡士

さっきからいたよ。

それを聞いた経次郎は、聡士に近寄り、耳元に顔を寄せる。

経次郎

気付いてたのか?

聡士

ごめん。
なんか言うタイミング、
逃した。

経次郎

いつもと感じ違うなって思ったけど、そういうことだったのかよ。

聡士

だから悪いと思ってるよ。

経次郎

余計なこと言っちゃってただろ?

聡士

いつもよりは
マシだったんじゃないか?

経次郎

自分はいい子ちゃん
ぶりやがって。

確かに、聡士の方がいい人っぽかった。

静香

いつもは違うの?

柚葉

何、ひそひそ話してるんですか?
先輩、ポテト、買って来てくれるんでしょ?

経次郎

ああ、うん。

聡士の彼女は、いつの間にか向こうの席に行っていた。

静香

早いわね……。

柚葉

私たちの分も、お願いしますね。

経次郎

わかった。
ポテトだけでいい?

さっきはイモって
言ってたのに。

柚葉

はい。

経次郎はこっちの席に来た。

経次郎

慶子と静香も行きなよ。
一緒に食べよ。

そう言って、椅子をひとつ隣に移動させた。
それから、カウンターの方に向かったけど、弁慶は何も言わずについて行く。

静香

おめーが行くなよ。
彼女は私なのよ……。

が、言えない……。

しかたがなく、聡士の彼女がすでに座っている隣の席に移動して、経次郎の隣の椅子に座った。

気まずい……。

静香

聡士の今カノ元カノが
同じテーブル……。

静香

弁慶のやつ、
それに気付いてあっち行ったのか?

ヤツならありうる。

弁慶

ふっ

静香

あいつ
意外と策士っつうか……。

柚葉

聡士先輩、
いつも経次郎先輩と会ってるんですか?

静香

あ、ナイスな質問かも。

それは私も聞きたかった。

聡士

そんなに会ってるわけじゃないよ。
経次郎と話すようになったの、わりと最近だし。

柚葉

あんなに仲がいいのに?

聡士

去年のクリスマスくらいじゃないかな?
よく話すようになったの。

え?

静香

1年の時、
同じクラスだったんでしょ?

聡士

その頃は、
あんまり話してないよ。

聡士

校外の友達の方が多いみたいで、経次郎はクラスにあんまりいなかったんだよ。

静香

校外の友達?

そんなのがいるの?

静香

良く考えたら、経次郎のこと、あまり知らないのかも……。

まだ付き合って
そんなに経ってないし。

静香

静も義経とは
そんなに長くいなかったな。

せいぜい1年か2年……。

静香

教室だと、地味で暗いとか?

ヤツの情報、ちょっと教えてもらうくらい、いいよね?

静香

彼女だし。

聡士

そんなことないよ。
明るくて人当たりもいいし。

聡士

ただ、放課後になると、
すぐに帰るって感じだったな。

静香

校外の友達と会うために?

聡士

ゲームかも……。
駅とかでスマホしてたし。

静香

駅でゲームって……。

柚葉

なんで仲良くなったんですか?

聡士

日曜かなんかに、駅でばったり会って、
話したらやけに気が会ったんだよ。

静香

昔からそういうところあったな。
初対面の人間でも、心を許しちゃうみたいな。

聡士

それからも何度か駅で会って、
「茶でも行く?」
って感じだったかな?

柚葉

経次郎先輩が女性だったら、
強力なライバルになっちゃいますね。

聡士

そういうのじゃないよ。

静香

……。

静香

あれ? でも駅?
経次郎、電車は使わないはず。

彼の移動はだいたい徒歩で、遠い場合もチャリだ。

電車を使うのは県外に行く場合で、しかも長期休みの時しか発売されない各駅停車のみのお得な切符だって言ってた。

柚葉

どういう話、してたんですか?

経次郎

主に恋バナ。

ポテトとナゲットを持った経次郎が戻ってきた。

柚葉

え?

静香

男同士でするなっ
そんな話……。

男二人で恋バナ……。

静香

やってたか……。
昔から……。

経次郎

柚葉ちゃんのこと、
相談受けてたんだ。

聡士

言うなよ。

経次郎

さっきのお返し。

静香

子供か?!

心が狭い……。

柚葉

そうなんですか?

経次郎

うん。

静香

それで私が振られたんじゃ……

こいつのせいか!

静香

いいんだけどさ……。

経次郎

あ、そうだ。
はじめましてだよね。

ポテトとナゲットをテーブルの真ん中に置いて、席に座る。

弁慶は経次郎がすでに置いていた椅子に座った。
ちゃんとヤツの隣だ。

慶子

……。

静香

弁慶に隣に来られても困るけど、
ホントにぴったり寄り添ってるよね。今も、昔も……。

経次郎

聡士から話を聞いてたから、
そんな気あんまりしなくて。

柚葉

私も皆さんから話は聞いてたんですけど、話すのは「はじめまして」ですね。

柚葉

はじめてお話しするって気がしません。

経次郎

ボクもそうかな?

静香

ほんっとに、
もう……。

経次郎

静香の彼氏です。

静香

軽っ……。

柚葉

聞いています。
義経さんなんですよね。

経次郎

そんな話までしてるの?

柚葉

はい。
先輩には、いつも優しくしてもらってます。

静香

ネコかぶんな!

経次郎

そうなんだ。

静香

お前も
信じるなよ!

まったく、今も昔も疑わないっていうか……。

静香

嫌いじゃないわよ
そういうとこ!

経次郎

そうだっていう確証はないけど、
それっぽい記憶はあるよ。

柚葉

わ~。聞かせてもらってもいいですか?

経次郎

いいよ。

そして、彼は面白い逸話を話し出して、みんなそれに引き込まれた。

静香

変わらないな……。
彼の周りは、
空気が穏やかだった。

静香

陽だまりの中にいるみたいな、
そんな気持ちになる……。

経次郎

あははは。

静香

バカっぽいけど
一緒にいると、
なんだか落ち着くのよね……。

この空気、嫌いじゃない。
昔から、ずっと……。

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