忘れろって
言ったから……
忘れろって
言ったから……
時間も時間だったし、帰ろうということになった。
ちょっと騒がしかったかな?
ちょっとじゃなかったけどな。
悪ぃ。
しょうがないな。
あれをこれで済ますのか?
「単純」という言葉が脳裏をかすめる……。
じゃ、またな。
今度はほどほどにしろよ。
そうするよ。
ありがとな。
うん。
またな。
聡士は彼女と駅方向に行き、私と経次郎と弁慶は反対方向に行った。
聡士とだと
前世の話し、しやすい?
ん?
バーガー屋でのこと。
学校中、探しちゃったんだからね。
探してくれたんだ?
嬉しいな。
茶化すな。
ごめん……。
静香には、あんまり前世のこと、
言いたくなかったんだ。
どうして?
辛い思い出もあるだろ。
それは……、
まあ。
人の一生分の記憶……。
それは確かに重く、辛いものも多かった。
静香には、静香として、
生きてもらいたいから。
そんな気を
遣わなくてもいいよ。
一緒に乗り越える
つもりだし……。
…………。
ありがとう。
少し悲しそうな目で、彼は笑った。
それに、けっこう
楽しそうにしてたじゃない。
辛い思い出を話しているようにはみえなかった。
辛いっていうか、
ヤツが言ってたのは恨みの念か?
悪い思い出ばかりじゃなくて、
いい思い出も多いから。
でも、ボクにとってはそうでも、
キミには違うかもしれない。
そういうことも、
あるかもしれないけど。
それでも、言ってほしい……。
楽しい記憶の合間に、
とても辛い記憶が紛れているんだ。
あまり酷いヤツは、
さすがに覚えていない。
記憶を整理していると、
それが出てくるんだ。
どうしたらいいか、
わからなくなる時がある。
……。
思わず、唇をかみしめていた。
さっきから黙ってるけど、
どうしたの?
また怒ってるの?
「また」って言うな……。
なん……、でも……。
涙が出てて、後が言えなかった……。
嫌なことを、思い出していた。
もう、彼に会えなくなった、時のこと……。
静香?
呆れられちゃうね……。
「一緒に乗り越える」って、言ったのに、私が泣いてるんだもの。
泣きやまなきゃ。
じゃないと、
また捨てられちゃう……。
……。
彼は、小さくため息をついた。
呆れられてる……。
自分が情けない……。
でも、彼はそっと私を抱き寄せた。
ごめんね……。
耳元で聞こえる、優しい声。
すごく悲しい響きを持っていて、そのまま消えてしまいそうだった。
謝らないでよ。
なんで、謝るの?
ごめん。
……。
そのまま、どこか遠くへ行ってしまいそうな、そんな恐怖を感じた。
すると、彼は……
ボクは、ここにいるよ。
と言った。
ボクは生きていて、
ちゃんとここにいる。
びっくりして、顔を上げた。
すると、ニコっと笑いかけてきた。
ちゃんといて、
ずっとキミと一緒にいるよ。
ボクは、キミがいないと、
ダメだから。
そ……、そうなんだから。
離れてなんか、やらないからね。
うん。
無害そうな笑顔で、キスしてきた……。