ゲームの話をしています

経次郎

聡士の国で
家臣やったことあるよ。

聡士

何それ……?
ゲームの話か?

経次郎

そうそう。
ネトゲ。

経次郎

カマっぽかったよ。
キモ~って言いながらしてた。

聡士

それ、ボクじゃないから……。

静香

相変わらず、
失礼なヤツね……。

でも、憎めないって、ずるくない?

経次郎

姫若子の
「姫」が利いてただけだと思うよ。

経次郎

顔は良かったけど、話すとキモかった。

聡士

ボク、キモい?

経次郎

ゲームの元親だよ。
聡士はキモくない。

聡士

違うと思っても、
なんか嬉しくないな。

経次郎

わかる。
たまにひどいよね。

今、そのひどいこと言ってたのよ?

聡士

義経が女になってる話、
見たことあるぞ。

経次郎

あー、あるある……。

経次郎

いくらなんでもそれはない、
って思ったけど……。

経次郎

…………。

その間は何?

経次郎

どっちだったっけ?

何、言っちゃってるのよ!

聡士

ボクに聞かれても……。

そりゃそうよ……。

経次郎

マンガとか読んでると「あ、これもアリかも」って思っちゃって、わかんなくなることがあるんだよね。

静香

読んでるの?

……自分のこと大好きだものね。

聡士

現代人の創作に飲み込まれるなよ……。

静香

激しく同意するわ……。

柚葉

どっちだったんですか?

好奇心旺盛な目で、聡士の彼女が聞いてきた。

静香

男に決まってるでしょ!

何を言い出すんだ、この女まで!

柚葉

ですよね~。

静香

ばっかじゃないの!

どこまで冗談だかわからない……。

静香

あれ?

でも、それだと合点がいくようなことがいくつかあるような……?

静香

…………。

男、絶対に男だった。

慶子

…………。

静香

なぜ、お前は黙っている?!

聡士

ホモとおかまだったら、
どっちが嫌だろう……。

経次郎

ボクはホモじゃないぞ。
女装趣味もないからな。

静香

…………。

多いけどね……。
そういう扱いされてる作品……。

経次郎

あ……、

聡士

どうした?

経次郎

牛若のころ、
妹から衣を借りたかも。

何?

経次郎

「冷えるからどうぞ」って言われて、コートみたいなヤツ。

聡士

羽織っただけだろ?

経次郎

弁慶に「女か。なら通れ」って言われて、ブチ切れた。

静香

……。

思わず弁慶を見た。

慶子

……。

ゴスロリになった弁慶から、特に何か情報は得られなかった。

聡士

五条大橋?

経次郎

場所はそこじゃないけど。

経次郎

一条長成様のお屋敷から、
鞍馬山に帰る途中だった。

経次郎

長成様は母上の再婚相手で
牛若の義理のお父さん。

経次郎

ちなみに妹は清盛様の娘。

聡士

複雑な家庭だな……。

兄は源氏の頭領の息子、妹は平家の頭領の娘、ついでに一条長成の息子もいて、この弟は公家……。

静香

良く考えるとすごい……。

常葉御前、美人で有名だったし……。

経次郎

妹がとってもいい子でね、

お兄様、お寒うございますから
私の衣をお持ちください。

経次郎

って言って、綺麗な衣を貸してくれたんだ。

そういえば、シスコンの気もあったんだわ。

経次郎

絹の超いいヤツ。

静香

こいつは……。

ホント、ひがみっぽい……。

月の綺麗な夜だった。

京の都を出てすぐの道の脇に、図体のでかい男が座ってたんだ。

牛若

なんで、
こんなところに
こんな時間に?

牛若

女に間違えられて、襲われたくないな。
ここまででかいと面倒くさいし。

妹の衣は女物で、それを頭からかぶっていた。

だって、京の冬はマジ寒いし。
夏でも涼しい鞍馬までの道は特に寒い。

あまり関わりにならないように、できるだけ目立たないように通り過ぎようとした。

弁慶

なんだ、女か……。

吐き捨てるように言われた。

牛若

…………。

思わず睨みつけると、

弁慶

女に用はない。
とっとと去れ。

それを聞いてプチっときた。

牛若

ふっざっけんなよ!
ボクのどこが女なんだよ!!

思わず、かぶっていた衣を地面に叩きつけていた。

牛若

あ、しまった。
妹から借りた高価な衣を……。

慌てて衣を拾うと、泥がついてしまっていた。

弁慶

男だったのか?

牛若

男だし。

確認しなくても、見ればわかるだろ?

静香

そうかしら?
なよっとしてて、私でも「弱そうだしカマっぽい」って思ってたけど……。

牛若

そんなことより!
お前のせいで衣が汚れただろ!

弁慶

やっぱり女だろ?

牛若

違うっつってんだろうが!!

弁慶

ならば相手になろう。

そう言って、その男は立ち上がった。

牛若

こいつ、そっちか!

静香

……。

牛若

多すぎなんだよ。
マジムカつくし。

で、刀を抜いて突っ込んだ。

弁慶

こそこそとしておれば
見逃してやったものを。

牛若

長引くと面倒だから、
先手必勝。

止められた。
でも、天狗の師匠にはいつも簡単に止められてたから、気にならなかった。

弁慶

…………。

なんか、驚いている感じがしたけど、斬りつけた。

牛若

力は強いけど、
師匠より遅いし隙も多い。

弁慶の刀を落として、首元に刃を付けた。

牛若

…………。

何で戦ってたのか、忘れていた……。
だから、適切な捨て台詞が思い浮かばなかった。

結構マジでやりあっていたようだ。

静香

忘れんなよ……。

牛若

ま、いっか。
動いてすっきりしたし。

ボクは刀を納め、夜道を歩きだした。

弁慶

待て、お主……。

それが、弁慶との出会いだったのか?

静香

なぜ聞いている?

聡士

あれって実話なのか?

経次郎

さぁ?

はい?

経次郎

テレビとかで
記憶が置き換えられたかも。

聡士

じゃあ、今のは?

経次郎

ボクがカッコ良く見えるように
脚色あり?

静香

はいはい、
どうせそうだろうと
思ったわよ……。

経次郎

現世での小さい頃の記憶もあいまいなのに、前世のはもっとあいまいになるだろ?

聡士

覚えてるのって、けっこうインパクトの強いやつだよね。

経次郎

うん……。

五条大橋はそんなにインパクトないってこと?

静香

そうか……。
その後、源平合戦になるから……、

そっちの方が強烈なのかも。

経次郎

ところどころはちゃんと覚えてるよ。

柚葉

どうだったんですか?

聡士の彼女が、もう一人の当事者である弁慶に聞いた。

慶子

ふっ

コイツは鼻で笑った。

静香

……。

慶子

殿はまっこと
お強かった……。

静香

……。

酔ってる?
自分に……。

慶子

はじめは私も見くびっておった。
こんななよっとしたヤツ、
強いはずがないと。

静香

確かになよっとしてた……。
ぜんっぜん強そうじゃないのよね。

義経


文系っぽかった。
賢くもなかったけど……。

慶子

だが次の獲物は
千本目の記念すべき物

静香

マジで千本集めとったんか?

「牛若丸」という昔話では、五条大橋にいた弁慶は、善良な市民から999本の武器を奪っていて、千本目に義経と出会い、負かされて家臣になるというお話になっている。

慶子

幼き頃より、コツコツと集めておったら、いつの間にか千本になっておった。

静香

そんなもん、
コツコツ集めんなよ……。

慶子

コツコツやらねば
千本も集められるわけがなかろう。

静香

……。

盗人をコツコツやってたって言われても……。

慶子

そういうわけでな、

静香

さらっと流した……。

慶子

簡単に手に入れられては、
面白味もなくすというもの。

慶子

ゆえに、
見逃そうと思っておったのだ。

慶子

しかし、これがどうして……。
殿はお強うてな。

静香

……。

慶子

あっさりと負けてしもうた。

晴れ晴れとした顔で弁慶は言った。

静香

こいつが弱かっただけなんじゃないの?

慶子

殿の剣さばきは
ほんに美しゅうて……、

慶子

月の光に輝く刃

慶子

未だに
忘れることができん……。

弁慶は、懐かしそうな目をして、微笑んだ。

柚葉

そうだったんですか。

静香

……。

ほんのちょっとだけ、いい話に聞こえた。

慶子

後で、天狗どもにこってりとしぼられたがな……。

静香

……。

999人に迷惑かけてるもんね……。

慶子

だが、
殿のお供は、楽しかった。

柚葉

いいですね。

慶子

うむ。

慶子

現世でも
殿のお供は楽しいぞ。

静香

……。

経次郎

ところで、
何の話してたんだっけ?

聡士

…………。

経次郎

そだ、オカマだオカマ。

経次郎

オカマ、嫌だったな。
カッコはよかったんだけど……。

元親に話が戻った……。

経次郎

カッコイイだけだと、
キャラが立たなかったんだろうな……。

聡士

そういう事情は
うすうす感じる……。

経次郎

それで、やっぱりカッコいい大名がいいってことになって、次は伊達政宗の家臣になったよ。

その感覚、すでにおかしくない?
カッコで決めるなよ……。

聡士

政宗は普通だったんだ……。

経次郎

そうでもなかった。

聡士

あ、そう……。

どんなゲームなのよ。

聡士

やっぱメジャーなのに行くんだな……。

経次郎

ドラマの影響?

経次郎

それがなくても政宗は平泉を擁護してくれてたみたいだから、悪い印象ないし。

経次郎

愛姫のカード可愛かったし。
クジですぐ出てくれたし。

何の話をはじめたわけ?
愛姫って誰よ……。

柚葉

愛姫は政宗の正妻です。

静香

…………。

静香

そんなに分かり易い?

柚葉

ゲームの話はともかく、
愛姫のことはわからないだろうなって思ったんです。

静香

……そうね。
たしかにわからなかったわ。

静香

教えてくれて、
ありがとう。

柚葉

いえいえ。

何なのよ……。

経次郎

最近は行ってないけどね。

静香

そういえば、ゲームしてる姿はあんまり見てないな。

経次郎

静香といる方が良いから

静香

ばっかじゃないの?!

柚葉

よかったですね。
ゲームに勝てて。

静香

別に……、
嬉しくなんてないわよ。

……ゲームに勝てたところで。

慶子

お前と付き合う前に、
飽きてたみたいだがな。

静香

こいつマジうぜえ……。

聡士

やっぱり、オカマの方が嫌じゃないか?

経次郎

オカマのお笑い芸人とか
面白いから好きだけど。

聡士

テレビとかで観てる分にはいいよ。けど、自分がそうって言われるのは嫌だな……。

経次郎

聡士のこと言われてるわけじゃないし、いいんじゃないの?

聡士

そうでもないんだけど……。

聡士の言い分の方が、まともじゃない?

経次郎

やってみたら?
聡士なら似合うよ。

なんてこと言うのよ……。

静香

ちょっと見てみたいけど……?

聡士

やだよ。

そうよね……。

経次郎

それで柚葉ちゃんと出かけて、
女子トークとかしたら?

だからなんで聡士の彼女が「柚葉ちゃん」なのよ。

静香

「ちゃん」はやめろ「ちゃん」は。

柚葉

聡士先輩の女装、
見てみたいかも~♡

静香

そのまま目覚めちゃったらどうするの?

柚葉

大丈夫だと思いますよ?

静香

意外とはまると思うわよ。

柚葉

そうなったらそうなったで考えます~。

静香

そう……。

恐ろしいまでのポジティブ……。

聡士

経次郎は、男に誘われたら
ついていくか?

経次郎

行くわけないだろ。

聡士

それと一緒。

聡士

ボクはオカマじゃないし、
経次郎もホモじゃない。

聡士

わかった?

経次郎

わかった。

聡士

現代人の妄想に、
乗っかる必要は
ないんだからね。

経次郎

うん。

そして、二人は残っていたポテトをつまんだ。

柚葉

美しい男の友情ですね。

静香

そうかしら?

そういう共通点もあったのね……。

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