フロストは一座に加わりたいなんて
言ったけど、
なんでそんなことをっ!?
兄弟のイジメに耐えかねて家出したいとかっ!?



……いや、コイツはそんな繊細で脆い
心の持ち主なわけがない。

むしろキッチンを我が物顔で闊歩する、
あの『黒い悪魔』くらいに
しぶといはずだもん。
 
 

フロスト

なんというか、
外の世界を見てみたいってヤツさ。

フロスト

幸いにも僕は演奏ができる。
一座のメンバーってことなら、
目立ちにくいだろ?

フロスト

報酬は言い値を出そう。

 
フロストの雰囲気から、
冗談を言っているようには見えなかった。
だからこそ、
私たちは一様に当惑していたんだけど。

これが冗談だったら、どれだけ気が楽か……。
 
 

フロスト

どうかな、みんな?

ミリア

…………。

 
私はどうも腑に落ちなかった。
何か別の思惑があるんじゃないかという
気がしてならなかったからだ。

だって『外の世界が見てみたい』なんて理由、
ベタすぎるもん。


それにフロストはこの町の中でなら、
普段からお忍びでウロウロしているわけだし。
少しくらい外の世界を知っていても
おかしくはない。
 


私が訝しげにフロストの表情を
観察していると、
アランが椅子の背もたれに大きく寄りかかって
静かに口を開く。
 
 

アラン

いいんじゃないのか?
オイラは別に構わないぞ。
何者なのかも
ハッキリしてるんだしさ。

アーシャ

私も特に異存はありません。

フロスト

本当かい?
ありがとう、2人とも!

 
――その直後、
アルベルトが思いっ切りテーブルを叩いて
立ち上がった。

表情はいつになく怒りに満ちていて、
ちょっと怖い感じ。



こんなに怒っているアルベルト、
初めて見るような気がする……。
 
 

アルベルト

俺は反対だ!
いくら相手が王族でも勝手すぎる!
それに万が一のことが起きたら、
責任を取らされるのは
俺たちなんだ!

フロスト

それは問題ない。
全て自己責任ということで
構わないよ。
僕は一般庶民の演奏家として
一座に加わるわけだからね。

アルベルト

もし加わるとしても、
新入りとしての待遇になるぞっ!
その覚悟は
できているんだろうなっ?

フロスト

もちろんさ。
どんなにキツイ仕事を
任せてもらってもいい。
失敗をしたら
ムチで仕置きをしても構わない。

 
涼しい顔で即答するフロスト。
その表情にはどことなく余裕すら感じられる。

それにはさすがにアルベルトも
肩すかしを食ったようで、
目を丸くしながら何も言い返せずに口ごもる。


少しの間のあと、
アルベルトはフロストを
憎々しく睨み付けてから座長へ声をかける。
 
 

アルベルト

……座長、どうします?

ルドルフ

さて、どうしたものか……。

フロスト

座長自身はどう考えているのです?

 
その問いかけに、
座長は目を瞑ってひと呼吸。
そのあと、しっかりとフロストを見つめる。
 
 

ルドルフ

どちらかといえば、私は賛成です。

アルベルト

なっ!?

アルベルト

座長! 冗談だろっ!?

 
座長の言葉が想定外だったのか、
アルベルトは狼狽えながら叫んだ。

そのあと奥歯をギリリと噛みしめ、
怒りに満ちた瞳で座長を睨み付ける。
今にも殴りかかりそうな、険悪な雰囲気だ。

それでも座長は一切動じず、
落ち着いたまま深いため息をつく。
 
 

ルドルフ

……俺にも色々と
考えがあるんでな。

 
そう言うと、座長は私やアランの方へ
チラリと視線を向けた。

すると今まで憤慨していたアルベルトは
小さく息を呑み、
すっかり大人しくなってしまう。
 
 
 
――どうしたんだろう?

なぜ座長は私たちを見たのだろうか?
それによってアルベルトが
急に大人しくなった理由も分からない。



座長とアルベルト、何か様子がおかしい。
よく分からないけど、心がモヤモヤする……。
 
 

アルベルト

……チッ。分かったよ。
勝手にすればいい。

アルベルト

ただし、少しでも
役に立たないと思ったら、
すぐに一座から追い出すからな?

フロスト

それで構わない。
ありがとう、アルベルト。

アルベルト

ふんっ!

 
そのままアルベルトは椅子にドカッと座り、
腕組みをしながらそっぽを向いてしまった。

依然として苦々しそうな顔をしている。
 
 

ルドルフ

ミリア、お前はどう思ってる?

ミリア

えっ?

ミリア

私は……別に構わないけど……。

 
少し迷ったけど、私は同意した。

別に悪人という感じではないし、
アランの言うように
身分だってハッキリしてる。

完全に油断はできないけど、
とりあえずは大丈夫だと思ったから。


興行を通じて一緒に演奏をしてみたいって気も
少しはあるし……。
 
 

フロスト

よし、決まった。
座長、全員が賛成なら
問題ないよね?

ルドルフ

分かりました。
ただし、一座にいる間は
一般庶民かつ新人として扱います。
よろしいですな?

フロスト

もちろんだ。
一座にいる間に
起きたことについて、
のちに咎めるということもしないと
神に誓おう。

フロスト

では、執事や王室内部の連中には
僕から話をつけておく。

フロスト

明日の夕方、
キミたちの宿で合流しよう。
サットフィルドまでの
短い間になるが、
よろしく頼むよ。

ルドルフ

……承知しました。

 
こうしてなんとフロストが期間限定で
私たち一座に加わることになった。


――なんでこんな展開になっちゃうんだろう?


フロストが一座に加わりたいっていう理由が
やっぱり唐突だし、
完全には納得できない。

それに座長やアルベルトの様子とか、
色々と気になることだってある。


アランやアーシャは旅の仲間が増えて
嬉しいくらいにしか思ってないだろうけど、
私は不安の方が大きいかも……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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