シェリル様は私の方をジッと見つめていた。
どんな評価が下されるのか、
固唾を呑んで私はその瞬間を待つ。
シェリル様は私の方をジッと見つめていた。
どんな評価が下されるのか、
固唾を呑んで私はその瞬間を待つ。
ミリアさんの演奏は
演奏家としては並のレベルです。
楽譜通りに演奏をしているだけ
という感じですね。
なるほど、
やはりシェリルもそう思ったか。
…………。
それは分かりきった、当たり前の評価――。
今さら驚くことではないのに、
すごくショックだった。
それはきっと、
少しは褒めてもらえるんじゃないかという
淡い期待が心のどこかにあったからだと思う。
そうだよね、
宮廷楽師様から見れば私の演奏なんて
素人に毛が生えた程度のもののはずだもん。
それなのに……それなのに……
何か悔しい……。
ぐ……。
あふれ出しそうな感情を堪えようと、
私は強く下唇を噛んだ。
それで少し切ってしまったのか、
口の中に血の味を感じる。
――でもですね、
ミリアさんの演奏には
特筆すべき点があります。
えっ?
ただ、これは演奏そのものの
評価とは少し視点が
違うのですけどね。
それは何なのですか、
シェリル?
聴き手を惹きつける力と
いいましょうか、
聴いていて心地の良い演奏です。
しかも人形劇と音楽が一体になって
見る人間はお話の世界に
入り込まされます。
このバランスが絶妙で、
音楽と劇がお互いを邪魔せず、
むしろ相乗効果を生んでいます。
これは誰にでも
できるわけではありません。
っ!?
悔しいですけど、
この能力は私にはありません。
ミリアさんが羨ましい。
シェリル様はなぜか寂しそうな顔をしていた。
わずかに瞳を潤ませて、私を見ている。
何か思うところでもあるのだろうか?
えっ! そんなっ!
シェリル様の演奏の方が
何倍も素晴らしかったですよっ!
……そう言ってくださると
私は嬉しいです。
さすがシェリルだ。
僕も似たようなことを感じたけど、
キミの方がより具体的で
分かりやすいよ。
これでミリアも少しは
自分の演奏の長所が
理解できたんじゃないかな?
あ……。
もしかしてフロストのヤツ、
そのために私たちを屋敷に呼んで
劇を披露させたんじゃ?
ま、まさかね……。
意地の悪いコイツがそんなことを
考えるはずないよ……。
……なるほど、
フロストが私にミリアさんの演奏を
聴かせたがった理由が
分かりました。
一石二鳥というわけですか。
さすがですね、フロストは。
何のことかな?
フロストとシェリル様は顔を見合わせると、
お互いにプッと吹き出した。
なんか和やかで温かい雰囲気だ。
2人を見守るエステル様もなんだか嬉しそう。
私にはさっぱり状況が掴めない。
しかも一石二鳥ってどういう意味なのかな?
ミリアさん、
もし機会があれば一緒に
音を奏でましょう。
は、はいっ!
私なんかでよければ!
約束ですよっ?
では、私は自室へ戻ります。
演奏の練習をしたいので。
それなら私も一緒に。
少しなら練習にお付き合いします。
ありがとうございます。
フロスト、
今夜は素敵な時間をありがとう。
いえいえ、
お楽しみいただけたのなら
幸いです。
それから程なく、
エステル様とシェリル様が部屋を出ていった。
クーゴさんやメイドさんもそれに付き添う。
その場には私たち一座とフロストだけが
残された。
――といっても、
ドアの向こう側には警備の人たちが
いるかもしれないけど。
さて、姉上たちも帰ったことだし、
皆さんにあの話を切り出そうかな。
あの話?
ルドルフ一座の皆さんに
お願いがあるんだ。
突然、フロストは真顔になった。
そして私たち全員を順番に見やってから、
小さく息をつく。
お願いとは
何でございましょうか?
僕を一座に加えてほしい。
そしてサットフィルドという町で
興行をしてもらいたいんだ。
何ですとっ!?
っ!?
なっ?
っ……。
…………。
それは青天の霹靂だった!
一座に加わりたいってどういうことなの?
なんでそんなことをっ!?
次回へ続く!