視線をそらしたまま思案していると女性の視線を感じた。
 周りを見回してもこの部屋には寝ている優時と女性以外僕しかいない。
僕の家の客間だしあたりまえなんだけど……。

エル

この寝顔が可愛い彼の名前教えてくれない?

 名前、知らないの……?
 この人名前も知らない人に跨がって服乱してんの?
 教えない方がいいんだよね、たぶん……。

リクト

い、言えません……

エル

えーっ!何でよっ!!

リクト

な、何でって、知らない人に教えられないです

エル

知ってる人ならいいのね。
私の名前はエル、よろしくね

リクト

あ、僕はリクトです。よろしくお願いします

エル

私が知りたいのは貴方の名前じゃないのっ!!

優時

っ、うるせぇっ!!

リクト

うわぁっ!!

エル

ひゃぁあっ!!

気持ち良く眠っているのにすぐ近くで騒がれて怒ったのか横になっていた優時が勢い良く起き上がった。
僕もエルも突然のことに腰を抜かして座り込んだ。
エルなんて寝台から転げ落ちてしまっている。
目が覚めた優時はまだ寝ぼけているようで、「此所、何処だ……?」と首を傾げたり周りを見回したりしてる。

リクト

目、覚めたの……?

優時

ぁー……。あぁ、リクトか

リクト

そうだよ、お昼ご飯食べよ

 やっと落ち着いた優時をじっと見ていたエルがバッと立ち上がった。

エル

ちょっと!放置しないでよっ

優時

……誰?

エル

私の名前はエル。
昨日町で貴方を見かけて気になってたの

真面目な表情を作ったエルが、今度は優時に名乗った。
やっぱり、知り合いじゃなかったんだ……。
昨日優時は人が苦手だって言ってたけど、大丈夫なのかな。

優時

気になってたって?

エル

顔が、凄く私好みだったから……。姉様に冒険者を一人連れてくるよう言われてたし、貴方に決めたわ

優時

って言われても俺予定あるんだけど

優時は自分を見つめにこにことそう言ったエルを一目見ると答えた。
 特に悩んだ様子もないし断るつもりみたいだ。

エル

その予定は別の日にして私と行こっ!

優時

無理

全く食い下がる気の無さそうなエルを気にせず、優時は寝台から降りて部屋を出ていってしまった。
エルも慌てたようにそれに続いて部屋を出る。

階段を降りる音が通り過ぎ一人になったとたん、ついさっきまで騒がしかった客間はシンと静かになった。


ふっと風を感じ視線を向けると部屋の窓が空いていた。
エルが入るために開けたんだろう。

僕は開いたままの窓を閉めようと近づいて、向かいの建物の屋上から誰かがこちらを見ていることに気がついた。
 大通りを挟んで向かい側の白い建物の上、真っ白な服だからよく見ないとわからない。

相手は気づかれているとわかっているはずなのにその場からまったく動かず、さわさわと薄茶色い髪だけが風に揺られている。

 結局痺れを切らせた僕が窓とカーテンを閉めて姿を隠した。
この部屋の様子を窺っていたようだけど、誰だろう……。
知らない人だし思案してもしょうがないと僕も昼御飯を食べるため客間をあとにした。

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