深い黒目の奥に広がる闇は彼女の声を、言葉を一切反映させることはなく、ただひっそりとこちらを見つめ続け、それは一度も遮られることは無かった……。
彼女は、瞬きを一度たりともしなかった。
深い黒目の奥に広がる闇は彼女の声を、言葉を一切反映させることはなく、ただひっそりとこちらを見つめ続け、それは一度も遮られることは無かった……。
彼女は、瞬きを一度たりともしなかった。
高畑先生?
おっ……お前……い、一体……
無い距離を更に詰めようと向陽が体を傾けると、高畑は逃げるように後退りして距離を取る。
一体何なんだ……向陽、お前は……
あ、まだその動画止まってませんよね!?
赤いランプの点滅を発見し、向陽が高畑に飛びかかった瞬間。
ドアが叩かれる。
高畑先生―? いますかー?
っ!?
あ、社先生!
ドアの向こうの声を聞き、向陽が駆け寄ってドアを開けるとそこには肩を上げ下げして息切れしている社がいた。
トレードマークの眼鏡が傾いている。
どうしたんですか? 先生
あれ?
どうして向陽さんがこの教室に……って、あの高畑先生?
空き教室の真ん中で、高畑は丸く縮こまっていた。
どうかされたんですか?
や、やしろ…………先せ……
もしかして向陽さんと二人っきりで空き教室に!?
ダメじゃないですか~男女の教師と生徒は一対一で教室にいてはいけない、って決まり。あるじゃないですか
そうなの?
向陽は目を丸くしたが、高畑の方はそれどころではないようで、社の言葉を聞きつつもまともに受け答えが出来そうになかった。
あのー……高畑先生―……もしもーし……
あ……あ……
……向陽さん。きみ、高畑先生に何したんですか?
?
何もしてませんよ?
あ、でもその携帯は止めて欲しかったので! つい……
つい飛びかかってしまった。
それだけです。
そう、それだけ。
向陽はただネットに動画は上げないで欲しいと頼み、ただ携帯を奪い取って動画を消してしまいたかった。
それだけだった。
高畑先生。とにかく、どうして向陽さんとこの教室にいたのか説明してもらわないと……この教室、そもそも生徒は立ち入り禁止になってますよね?
いや、それは……向陽が……あの……
…………
ようやくまともに返事が出来るようになったのを確認し、社は眼鏡を外す。
向陽。ドア閉めろ
はいっ!
命令通り、ドアが閉められるのを見て、再び高畑の脳内は混乱し始める。
さて、高畑。これでもう終わりだな
……社、先生……だよな?
あぁそうとも、もちろん。同じ顔だろ?
わざとらしくニッコリと笑い、首を傾けると黒髪がサラリと揺れた。
向陽、回収して確認しろ
はーい!
回収? 確認?
向陽は高畑の携帯に目もくれず、スタスタと教室の窓に近付くと、
乱雑に寄せられた机の中の一つから小さな機械を取り出した。
その機械には、小さなレンズの付いた機械も繋げられている。
えー……バッチリです!
何から何まで綺麗に撮れてます!
よし。これで完成だ
……社。
お前……いや、お前らは一体……
変態教師、一つ質問したいことがある。あの貼り紙はお前の仕業か?
貼り紙……い、いや違う!
アレは俺じゃない!
見つけたのは俺だが……っ
はーん……お前じゃないのか。……じゃ、そのことはまあいいや
学校一の人気を誇る教師の極端な裏側。
そんな教師に異常な執着を見せ、彼の指示に声のトーンを上げる女子生徒。
一変した現状に、圧倒されるしかない。
身に覚えのない貼り紙を一番に発見しても処分しなかった……ってことは、オレにそのまま擦り付ける気でいた訳だな? ロリコン野郎
……
だがまぁ残念だったな。
今回誘った相手も相手、身代わりに選んだ相手も相手……人選ミスも大ミスだ
……もしかして、向陽の今までの……あのやり取りは、お前の指示……じゃ
あぁ……誘導の指示はしたけどあんな長台詞誰が言わすかよ。気持ち悪い
気持ち……悪っ……!?
オレがオマエに指示出してたら、って話が気持ち悪いだけだっつーの。好き語りなら気が済むまで、それこそ死ぬまでしてればいい
!
……はーい!
社が手を出すと、その手には隠されていた機械が渡される。
恐らくこれは、先程の一連のやり取りを録画していたのだろう。
小さいが、値の張りそうな機械だ。
女子生徒への暴行、性行為未遂、脅迫等々……もっと集めるなら向陽自身から搾取すればいい。
……で、どうする?
高畑の手から滑り落ちた携帯は床を滑り、社の足にぶつかる。
と踏みつけられて、
と、画面が割れる音が聞こえた。
どこに送りつけて欲しい?
校長か? 教育委員か?
それともネットか?
や……やめ……
または
!?
反対の空いてる手を、差し出す。
『買い取らせてください』……か?
スカーフどこ?
そこでやっと向陽は辺りを見回した。
続く...