リクト

明日で、良いですか?僕達も明日図書館に行こうと思ってたので……

優時

ありがと。お金を貰える場所だけ教えてもらえる?神様が幾らか入れてくれてるみたいだからそれで宿を借りたいんだけど

リクト

今日は僕の家にどうぞ。僕も聞きたいことがあるし、預かり所も明日行きましょう

優時

ありがとう。助かるよ

修平

意外だな

優時

ん?

 今までに静かに椅子に座っていた修平がちらりと優時を見て声をかけた。
優時は誰に声をかけられたのかわからなかったようで周りをキョロキョロ見回している。
普通ぬいぐるみが話すとは思わないもんな……。

修平

おいっ、気づいてんだろっ

 今度は修平の方にすぐに顔を向け面白そうに笑った。
 口調の柔らかさと対象にずっと無表情だった彼が、初めて見せたわかりやすい表情だ。

優時

あぁごめん。ベタな反応とか好きなんだ。それで、君は誰?

修平

灰坂修平

優時

あれ?冒険者なんだ。この世界のキャラクターかと思った

 そうか、ステータスがあるから僕じゃなければ修平、草食ウルフが話しかけたってわかるよね。
彼らのいたゲームの世界ではぬいぐるみが動き話すのはそれほど驚くことじゃないらしい。
人が生き返るような世界だと言うし、やっぱり凄い……。
あれ、でも、冒険者だと驚くのか……。

リクト

どうぞ、座ってください。お茶出しますね

優時

あぁ

 優時は修平の隣に座って耳や腕を触り不思議そうにしている。
 僕は店の奥に入ってお茶を入れる。
お湯を沸かす傍らお茶っ葉を探すが、普段一人でいるから買い足すのを忘れていた。
赤桃茶しかないけど、二人とも飲めるかな。

優時

へー。それでこんな姿に……。
本当にファンタジーの世界なんだ……

修平

みたいだな

リクト

お待たせ

 お盆を持って部屋に戻ると、修平がぬいぐるみの身体をしていることについて話していたようだ。

優時

まだリクト君には自己紹介してなかったよね。優時です。改めてよろしく

リクト

リクトです

 手を握り挨拶すると、少し距離が近くなったような感じがした。
 修平は特別だけど、冒険者はやっぱり僕達と同じ人間なんだな……。
僕がさっき入れた赤桃茶を出すと、二人とも何故かお茶の赤さに驚いていた。けど美味しいと飲んでくれている。

修平

こんな身体でも飲めるのか……

優時

布に染み込まない?

リクト

ねぇ、さっきの意外って何だったの?

 優時が来たとき修平が言っていたけど、結局何のことか聞けてなかった。

修平

あぁ、あんな風にリクトを助けようとするような奴が他の奴等を行かせて一人でいるとは思わなかったから、意外

 確かに、優時は見た目に反して他の人達を放っておけないタイプな気がする。
 知らない世界に来て動転していたはずなのに、あの場で唯一僕を助けようとしてくれたんだ。
 変化の少ない表情や声音からよく思われないこともあっただろうが、優しい人に違いないと思う。

優時

この世界に来た人の中には他にもいると思うけど、人が苦手なんだ。ぬいぐるみと子供は大丈夫だけど

リクト

そうなんだ……

優時

修平も返信したんでしょ?パソコンに届いたあのメールに

修平

あぁ、『この世界から抜け出してゲームのような世界へ行くことができるとしたら、君は何をしたい?』ってメールか

優時

普段なら絶対無視するんだけど、何でだろ

修平

神様の力だろ

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