職員室のイタズラから一週間後。


 結局、イタズラの心当たりや犯人の自首等は予想通り現れず、
 新入生へのレクリエーションも終わって学校の空気が落ち着いた頃。

 
昼休み

 自分のデスクで昼食を摂っていた高畑はその日の放課後を楽しみにしていた。

 メールは既に送ってあり返信もある。

 あとは今日の仕事を片付けて、こっそりあの空き教室へ向かうだけ……。



高畑

新入生が廊下を通ったりするスリリングもたまらなかったが……






 彼の頭の中であられもない女子高生の姿が想像されていようと、そんなことは誰一人として気づきはしない。











 高畑という男は至って平凡な男だ。










 容姿も能力も可もなく不可もなく、生徒からも平均的な評価を受けている。


 ノリはあまり良くないが、厳しくはない教師。

 しかし、まさかこんな普通な男が十代女子にしか欲情出来ない等と誰が思うだろう?





 言葉を簡単に、簡潔的にしてしまえば〝ロリコン〟のそれだ。




 だが彼は今年度の初め早々にとても良いモノを見つけた。


 そして手に入れた。







 向陽眞桜という女子生徒。








 触ると想像通りの柔らかさ、肌の弾力、摩擦抵抗の無い肌。

 香水をつけてもいないのに甘い香りがするのは少女達が持つ〝不思議〟だ。

 
 だが一つ、断言しておきたいのは……






 致してはいない。





 曲がりなりにも自分は教師だ。

 そこまでいけばもう戻れなくなるのは知っているし、それだけは……と本人からも拒否されている。

 それを破るのはいけないことだ。








 ……いけないことは、したくなるものでもある、が。







 時はあっという間に過ぎ、遂にお楽しみの時間となる。

 生徒達は部活動に、家に、遊びに向かい、教師は残され自分の仕事をする。

 高畑はその日の仕事を半分残し、

高畑

ちょっと部活の方顔出しに行きます


と職員室を出た。

 仕事を残しておけば気分転換だろうと多くの人間が勝手に汲むのだ。

 人気の失せた夕方の校舎は随分と明るく、閑散としていた。

 階段を二つ上がり、廊下の突き当りにある空き教室に鍵を使って入ると、合鍵を渡しておいた向陽は大人しく椅子に座っていた。


ドアを開ける音に気付き、こちらへ振り返る。

高畑

待たせて悪いね、仕事があって……

向陽 眞桜

高畑先生

高畑


 いつもこのように言い訳をすると、気持ちよく相づちを入れてくれるのが向陽という少女だ。

 それなのに、今日は相づちが無い。

高畑

どうした?
何か急用か?
なら早く済ませ……

向陽 眞桜

今日であたし、終わりにしますね

高畑

……は?

向陽 眞桜

今日で、というか……もう今日はこのまま帰ろうかなぁーって思ってたんですよ!



 緊張も、作り笑いとも見受けられない彼女の笑顔に、初めて苛立ちを覚えた。

高畑

……どういうことだ?
バラしてもいいって言うのか?

向陽 眞桜

そんなそんなとんでもない!
でももう……なんていうかー……もういいかなって

高畑

……

向陽 眞桜

先生偉いですよね!
あたしが『初めては取らないでください!』ってお願いしたら律儀に聞いてくれるし、何だかんだ触るだけで満足出来るなんて……とんでもなく強靭な自制心を持ってるなって……!

高畑

……何が言いたい

向陽 眞桜

えっと……そのー……

高畑

言いたいことがあるならハッキリ言えと言っているんだ!








 怒声が教室に響き渡る。


 

 だが、大の大人の怒鳴り声を聞いても……向陽はケロリとしている。






 この人は、どうして怒っているのだろう? と。





向陽 眞桜

先生言ってくれたじゃないですか。『最中はあの男のことでも考えてればいいから』って。でもそんなの出来るはずないんですよ!

高畑

……ハッ、何だ。『社先生はそんなことしないです!』ってか?

向陽 眞桜

いえそうではなくって!

あんなテクで想像出来るはずないじゃないですか。
下手くそセンセ



 音が教室に響き、ドサリとその場に向陽は倒れた。

向陽 眞桜

 アイタタ……




 叩かれた額をさすりながら上体を起こすと、目の前の高畑は息を荒くし、目を血ばらせている。



高畑

ガキが……なめたこと言ってくれるじゃねぇか……

向陽 眞桜

そんな急に怒らなくたって……あ、もしかして。図星なんですか?

高畑

うるせぇ!



 高畑の蹴りを腹に食らった向陽はうめき声をあげ、その隙をついて彼は彼女に馬乗りになった。





 細い手首を片手で押さえつけ、空いた片手でネクタイを緩める。



高畑

可愛い奴だと思って今まで我慢してやってたけどな、お前がそうだってんなら……そうだな、ベタな手だが写真でもネットにばらまくか?

向陽 眞桜

写真?
イタタタタ!

 きつく締めつけられ、ネクタイと手首がすれて音を上げる。


 向陽が身動きを取れなくなったことを確認してから、高畑は内ポケットから携帯を取り出した。

 しばらく操作していると、背面にあるカメラの横の赤いランプが点灯する。



高畑

再生回数どれだけ伸びるだろうなぁ……?
出来が良ければそういうオファーも来るかもしれないぞ?

向陽 眞桜

ネット……再生回数……



 復唱し、言葉を理解してから向陽の顔は急激に青ざめていった。

 そんな彼女の顔を見てまた、高畑はゾクゾクと背筋に快感を走らせる。



高畑

やっとわかったか……向陽。だがな、今謝れば許してやらなくもないぞ?
先生は優しいからなぁ

向陽 眞桜

ネットに……上げられちゃう……

高畑

『先生への失言、誠に失礼しました』……ってな。そして、明日からもココに来るって言うんなら……この映像はどこにも上げたりしないよ





 スルスルと白い布の上を手が滑り、赤いスカーフへ到達すると手際よくそれを解き、取ってしまった。


 だがそこでおかしいことに気付く。

高畑

……向陽?

向陽 眞桜

あ、あげ……たら……

高畑



 向陽のリアクションが全くないのだ。



 高畑の言葉も届いておらず、スカーフを取られたことにも気付いていないように、ブツブツと何かを呟いている。

高畑

おい、……向陽、聞いてるのか

向陽 眞桜

ネッ……あ……せ……

高畑

おい……! 聞いてるのかとっ





 息が顔にかかるぐらいの、距離。









向陽 眞桜

ダメです







 二つの大きな瞳は、ゼロ距離でこちらの目と目を見つめていた。

向陽 眞桜

ネットに上げたら他の人が見ちゃうじゃないですか。知ってますか?
今のネットって本当に、それはそれは簡単に拡散されて、保存されて、転載されて、編集されて、第三、第四、第五と……他人がどんどんいじられるものなんですよ?
そんなことになったら、あたしの写ってるイケナイ動画があれこれ編集されてそれが万が一にも……いえ、本当にあり得ない話だとはわかっていますが!
先生の目についたら大変なことなんです!
一大事なんですよ!?
先生の趣味嗜好だって考えて下さい!
あたしが先生の嫌いな物、気持ち悪いと思う物、生理的に受け付けないことをするはずないんです!

向陽 眞桜

一つ二つならまだしも……ネットの海に放たれでもしたらいくらあたしでも回収し切るのに時間がかかってかかってしょうがないじゃないですか!
そんなことになったら……もしそんなことになったら……高畑先生に責任とってもらいますからね!?
もちろんお金は払ってもらってもいいですけど、それではあたしの気持ちは収まりません!
肖像権の侵害というよりも、万が一先生があたしのイジられた映像でも見てしまった日には先生の頭の中からその映像に関する記憶を消してもらわなきゃならないんですから!
その為にはどんなことでも協力してもらいますからね!?

向陽 眞桜

先生に無理を強いるのは本来なら許されないことですが、先生が目にしてしまった不快な映像を思い出す度に気持ちを害するなんて……しかもそれがあたし耐えられません!
しかもその気分を害する原因があたしなんてし……もう死ぬしかないじゃないですか!
死んで詫びても許してもらえないかもしれないんですよ!?
いえ、それはあたしだって死なないで一生寿命が来るまで先生の手足となって家畜奴隷のように日々ご奉仕するのは嬉しいことです。……でもそんなのもう毎日やってるから今更って話なんですよ

向陽 眞桜

だったらこの命を捧げて……いえあたしの命ごとき先生に捧げるにも値しない物だからゴミ箱に捨てた方がまだいいのかもしれませんけど……死ぬことになったらあたしの死体の処理とか手続きとかやってもらいますからね!?
あぁ……でもあたしの死体が見つかりでもしたらほんの少しでも先生に影響が及ぶかも……そんなこと許されません……火葬・埋葬じゃダメです、焼いた骨を粉砕してコンクリートに出も混ぜて海に沈めてもらって、未来永劫あたしの死体が出てこない様にしなきゃ……



 眉をハの字に、困った顔で、目に涙を浮かべて向陽は訴えた。


続く...

01.純真可憐、ストーカー女子高生(4)

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