CIAの工作員

今、私が撃ち殺したのは、痴女の『成体』よ

MI6の諜報員

成体?

CIAの工作員

あいつらは、ものすごいスピードで成長する。およそ1時間でオトナの痴女になる。オトナの痴女になると、人間を襲う。痴女に変える

KGBの職員

それじゃ、今まで倒してきたのは?

CIAの工作員

痴女に変えられた人間ね

MI6の諜報員

そして、これがオリジナルの痴女か

CIAの工作員

ええ。ちなみにあの男性は、幼体が成体になるための『マユ』よ

MI6の諜報員

ん? 幼体→マユ→成体……って成長するのか?

KGBの職員

ということは

CIAの工作員

卵よ。オリジナルの痴女は、卵→幼体→マユ→成体という完全変態をおこなう――新種の生物。人間にとてもよく似ているけれど、でも、まったく別の生き物よ

KGBの職員

なるほど、それは分かったが

MI6の諜報員

その卵は、どこから産まれてくるのか。いや、だいたい予想はついてるが

CIAの工作員

痴女は、アリやハチによく似た生物。すべての痴女の母親……クイーンがいる。それが卵を産むの

KGBの職員

そういうことか。これで痴女が爆発的に増えた謎が解けたわ

MI6の諜報員

うむ。市の人口より明らかに多いからな

KGBの職員

そしてこれからも、どんどん増え続けるのね

………………

 私たちは言葉を失った。

 沈黙が流れた。

 しばらくするとMI6のお姉さんが言った。

MI6の諜報員

いや待ってくれ。ここに倒れている男は、痴女の『マユ』だろう?

KGBの職員

ということは、すぐ近くに卵がある?

CIAの工作員

そうなるわね

MI6の諜報員

だったら、そのクイーンとやらは近くにいる?

CIAの工作員

まず間違いなく

KGBの職員

格納庫にいる、のか?

CIAの工作員

おそらくは

 お姉さんたちは、お互いの顔を見た。

 それから同時にうなずいた。


 私たちもツバを呑みこんだ。

 再び沈黙となった。



 私はじっくり考えた。

 そののち、お姉さんに訊ねた。

あのっ。どうやったらやっつけられるんですか?

ちょっと!?

智子!?

私たちは、お姉さんたちに護ってもらってます。それは分かってます。足手まといなのも分かってます。クイーンの恐ろしさだって分かります。だけど、クイーンをこのままにしちゃダメなことだって、私たち中学生にも分かるんです

CIAの工作員

………………

MI6の諜報員

………………

KGBの職員

………………

役に立ちたいんです

 私は一心に言った。


 深い考えや計算など、まったくなかった。

 ただ単純に、理性よりも感情が先にたった。

 それだけだった。


 このままにしてはおけない、クイーンはやっつけなければいけない。


 私は、きつくそう思ったのだ。

CIAの工作員

OKぇ。それじゃ武器を持ちなさい

ありがとうございます

MI6の諜報員

キミたちは、どうする?

えっ!?

KGBの職員

あの子と一緒に戦う? それともここで待ってる?

それはっ

KGBの職員

もちろん『マユ』は、すべて処分してから行くわよ

…………

…………

 いつきと小夜は、目と目を合わせた。

 それから、ゆっくりと噛みしめるようにうなずいた。


 私を見た。

 笑顔だった。

 だけど、その瞳には闘志がみなぎっていた。

やろう

いつまでも一緒だよ

……ひとりで決めてごめんね

ううん

もう、いつものことじゃないっ

ほんとごめんね

 私たちは、かたく握手をかわした。


 するとお姉さんが、ドライヤーのような機械をくれた。

 それからこう言った。

CIAの工作員

自動クギ打ち機よ。トリガーを引くとクギが発射されるわ

MI6の諜報員

銃よりも扱いやすい

KGBの職員

至近距離で頭を狙うのよ

うっ、うん

CIAの工作員

ヤツらは人間に似てるけど、でも人間じゃないの

うっ、うん

CIAの工作員

ヤツらは、学校のみんなを痴女にした、人間によく似た化け物よ

 お姉さんは、はげますようにそう言った。

 この言葉に、私たちは闘志をかきたてられた。

CIAの工作員

それと『痴女じゃらし』もあげる。殺傷力はないけれど、足止め効果が期待できるわよ

この太くて長い黒光りした警棒みたいなものが……痴女じゃらし

CIAの工作員

根元のスイッチを押すと、ぐいんぐいん動くわよ

MI6の諜報員

キミには、私のをあげる

KGBの職員

じゃあ、私のはあなたに。これで1人1本ずつだね

 お姉さんたちは、なぜかほほを赤らめた。


 私たちは、首をかしげながらも、うなずいた。

 カバンに『痴女じゃらし』をしまった。

 それから自動クギ打ち機を手にとった。


 そして格納庫に向かうのだった。――

 格納庫に入った。

 そこには、いくつもの死体があった。

CIAの工作員

やはりマユにされている。ここは痴女牧場よ

MI6の諜報員

ん? 死体が持っている銃は、カラシニコフだ

KGBの職員

ということは、自衛隊でも米軍でもないわね

MI6の諜報員

こいつらは、いったい何者、いや、どこの軍隊だ……

 お姉さんは、ぼそりとつぶやいた。

 それから大きく息を吐くと、顔を上げた。

 私たちも前を見た。


 死体の先には大量の卵があった。

 さらにその奥には、輸送機があった。

 ただ、その輸送機はクモの巣のようなモノでおおわれていて、その中心には、禍々しくも神々しい、美しく巨大な裸体がそびえ立っていた。

   ………………   

………………

………………

………………

 私たちは、ひどく場違いなところに来てしまったことを、今頃になってようやく理解した。

 身にしみて、身がすくんだ。

 その場に立ちつくした。

MI6の諜報員

……あれがクイーン

KGBの職員

そして3匹、4匹、5匹。強そうな痴女があらわれたわ

CIAの工作員

インペリアル痴女。クイーンの近衛兵よ

 お姉さんはそう言うと、自動小銃をかまえた。

 銃口を、私たちとインペリアル痴女の間にある卵にむけた。

 そして乱射した。

CIAの工作員

さあ来なさい!

MI6の諜報員

まずはインペリアル! 貴様らだ!!

KGBの職員

容赦しないわよ!

むきゃああぁぁぁああああ!!!!!

やばい! こっち見た!!

痴女の演技しなきゃ!

うん!

 私たちは、いっせいにスカートをめくった。

 そのとき、足もとに転がる死体が視界に入った。

 男の人だった。


 私は羞恥に身もだえた。

 妙なゾクゾクが、つま先から這いあがり、頭のてっぺんまで駈けぬけた。

 恥ずかしさに腰をくねらせた私は、痴女そのものだった。



 だけど、インペリアル痴女は、仲間だと思ってくれなかった。

 さらに激怒した。

むきゃああぁぁぁああああ!!!!!

CIAの工作員

あなたたち、なにやってるの!

MI6の諜報員

スカートめくってる場合じゃないぞ!

KGBの職員

もう、ふざけないでよ

えっ!?

えぇ――!?

だってえ

 私たちは、ほっぺたをふくらませた。

母なる痴女『ザ・クイーン』〈2〉

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