私たちは言葉を失った。
沈黙が流れた。
しばらくするとMI6のお姉さんが言った。
今、私が撃ち殺したのは、痴女の『成体』よ
成体?
あいつらは、ものすごいスピードで成長する。およそ1時間でオトナの痴女になる。オトナの痴女になると、人間を襲う。痴女に変える
それじゃ、今まで倒してきたのは?
痴女に変えられた人間ね
そして、これがオリジナルの痴女か
ええ。ちなみにあの男性は、幼体が成体になるための『マユ』よ
ん? 幼体→マユ→成体……って成長するのか?
ということは
卵よ。オリジナルの痴女は、卵→幼体→マユ→成体という完全変態をおこなう――新種の生物。人間にとてもよく似ているけれど、でも、まったく別の生き物よ
なるほど、それは分かったが
その卵は、どこから産まれてくるのか。いや、だいたい予想はついてるが
痴女は、アリやハチによく似た生物。すべての痴女の母親……クイーンがいる。それが卵を産むの
そういうことか。これで痴女が爆発的に増えた謎が解けたわ
うむ。市の人口より明らかに多いからな
そしてこれからも、どんどん増え続けるのね
………………
私たちは言葉を失った。
沈黙が流れた。
しばらくするとMI6のお姉さんが言った。
いや待ってくれ。ここに倒れている男は、痴女の『マユ』だろう?
ということは、すぐ近くに卵がある?
そうなるわね
だったら、そのクイーンとやらは近くにいる?
まず間違いなく
格納庫にいる、のか?
おそらくは
お姉さんたちは、お互いの顔を見た。
それから同時にうなずいた。
私たちもツバを呑みこんだ。
再び沈黙となった。
私はじっくり考えた。
そののち、お姉さんに訊ねた。
あのっ。どうやったらやっつけられるんですか?
ちょっと!?
智子!?
私たちは、お姉さんたちに護ってもらってます。それは分かってます。足手まといなのも分かってます。クイーンの恐ろしさだって分かります。だけど、クイーンをこのままにしちゃダメなことだって、私たち中学生にも分かるんです
………………
………………
………………
役に立ちたいんです
私は一心に言った。
深い考えや計算など、まったくなかった。
ただ単純に、理性よりも感情が先にたった。
それだけだった。
このままにしてはおけない、クイーンはやっつけなければいけない。
私は、きつくそう思ったのだ。
OKぇ。それじゃ武器を持ちなさい
ありがとうございます
キミたちは、どうする?
えっ!?
あの子と一緒に戦う? それともここで待ってる?
それはっ
もちろん『マユ』は、すべて処分してから行くわよ
…………
…………
いつきと小夜は、目と目を合わせた。
それから、ゆっくりと噛みしめるようにうなずいた。
私を見た。
笑顔だった。
だけど、その瞳には闘志がみなぎっていた。
やろう
いつまでも一緒だよ
……ひとりで決めてごめんね
ううん
もう、いつものことじゃないっ
ほんとごめんね
私たちは、かたく握手をかわした。
するとお姉さんが、ドライヤーのような機械をくれた。
それからこう言った。
自動クギ打ち機よ。トリガーを引くとクギが発射されるわ
銃よりも扱いやすい
至近距離で頭を狙うのよ
うっ、うん
ヤツらは人間に似てるけど、でも人間じゃないの
うっ、うん
ヤツらは、学校のみんなを痴女にした、人間によく似た化け物よ
お姉さんは、はげますようにそう言った。
この言葉に、私たちは闘志をかきたてられた。
それと『痴女じゃらし』もあげる。殺傷力はないけれど、足止め効果が期待できるわよ
この太くて長い黒光りした警棒みたいなものが……痴女じゃらし
根元のスイッチを押すと、ぐいんぐいん動くわよ
キミには、私のをあげる
じゃあ、私のはあなたに。これで1人1本ずつだね
お姉さんたちは、なぜかほほを赤らめた。
私たちは、首をかしげながらも、うなずいた。
カバンに『痴女じゃらし』をしまった。
それから自動クギ打ち機を手にとった。
そして格納庫に向かうのだった。――
※
格納庫に入った。
そこには、いくつもの死体があった。
やはりマユにされている。ここは痴女牧場よ
ん? 死体が持っている銃は、カラシニコフだ
ということは、自衛隊でも米軍でもないわね
こいつらは、いったい何者、いや、どこの軍隊だ……
お姉さんは、ぼそりとつぶやいた。
それから大きく息を吐くと、顔を上げた。
私たちも前を見た。
死体の先には大量の卵があった。
さらにその奥には、輸送機があった。
ただ、その輸送機はクモの巣のようなモノでおおわれていて、その中心には、禍々しくも神々しい、美しく巨大な裸体がそびえ立っていた。
………………
………………
………………
………………
私たちは、ひどく場違いなところに来てしまったことを、今頃になってようやく理解した。
身にしみて、身がすくんだ。
その場に立ちつくした。
……あれがクイーン
そして3匹、4匹、5匹。強そうな痴女があらわれたわ
インペリアル痴女。クイーンの近衛兵よ
お姉さんはそう言うと、自動小銃をかまえた。
銃口を、私たちとインペリアル痴女の間にある卵にむけた。
そして乱射した。
さあ来なさい!
まずはインペリアル! 貴様らだ!!
容赦しないわよ!
むきゃああぁぁぁああああ!!!!!
やばい! こっち見た!!
痴女の演技しなきゃ!
うん!
私たちは、いっせいにスカートをめくった。
そのとき、足もとに転がる死体が視界に入った。
男の人だった。
私は羞恥に身もだえた。
妙なゾクゾクが、つま先から這いあがり、頭のてっぺんまで駈けぬけた。
恥ずかしさに腰をくねらせた私は、痴女そのものだった。
だけど、インペリアル痴女は、仲間だと思ってくれなかった。
さらに激怒した。
むきゃああぁぁぁああああ!!!!!
あなたたち、なにやってるの!
スカートめくってる場合じゃないぞ!
もう、ふざけないでよ
えっ!?
えぇ――!?
だってえ
私たちは、ほっぺたをふくらませた。