雪上車は、市街地を疾走した。

 眼前に自衛隊駐屯地の門が迫る。

CIAの工作員

突っこむわよ!

 雪上車が門に衝突する。

 思いっきり前につんのめる。

MI6の諜報員

いくぞっ!

うわっ!?

 私たちは雪上車から、前方に放り出された。

 それと同時に、真っ白な光につつまれた。

 気がつくと私たちは、お姉さんに抱かれ、地面に伏せていた。

KGBの職員

最後の閃光弾よ。これでしばらくは大丈夫だけど

MI6の諜報員

ここが痴女の巣窟であることに変わりはない

CIAの工作員

急いで行きましょう

うっ、うんっ

 私たちは、痴女のなかを小走りで進んだ。

 痴女のほとんどは、気絶して倒れていた。

 なかには立ってる痴女もいたけれど、襲ってこなかった。

 頭を抱えて、ふらふらしていた。

KGBの職員

長くは保たないわ。痴女の演技で進みましょう

 

ROUND4
母なる痴女『ザ・クイーン』

 私たちは、痴女の演技で格納庫を目指した。

 そこにはきっと輸送機やヘリがある。


 ただ、それは他の人たちも思っていたわけで――。

CIAの工作員

格納庫に近づくほど、痴女が増えてくわ

MI6の諜報員

というより、痴女は格納庫を中心として増殖しているようだな

KGBの職員

間違いないわね。進むほど痴女化したてのヤツに会う

そんなあ

CIAの工作員

輸送機は格納庫、痴女の巣も格納庫。手間がはぶけたじゃない

そんな簡単に言わないでくださいよお

KGBの職員

ほらっ、文句ばっかり言わないの

MI6の諜報員

痴女の演技がおろそかになってるぞ

ひゃあっ

 いつきの真っ白なお尻が、また見えた。


 だけど私と小夜は、今度は笑わなかった。

 否。笑えなかった。

 なぜなら私たちも恥ずかしい姿だったから。


 私たちは、両手でスカートをめくり、下着を露出しながら歩いていた。

もう、死ぬほど恥ずかしいよ

こんなことなら、もっとカワイイのをはいてくれば良かったよお

ほんとそうだよ

って、智子のカワイイじゃん

ちょっと見ないでよっ

智子だって、さっきからチラチラ見てるじゃん

見てないよ。っていうか、見られてるの分かってて隠さないんだ?

だって隠したら痴女の演技にならないじゃん

そっか

もう

 私たちは、痴女の注目を集めないように、コッソリ笑った。

 すると、いつきが歩く速度をゆるめた。

 私たちとの距離がどんどん縮まった。

 いつきは私たちの横に来るとこう言った。

ちょっと、ふたりでなにコソコソ笑ってんの?

えっ?

私のこと笑ってるでしょ

そんなことないって

なによ。私がおもらししたからって避けないでよ

違うよ、避けてないよ

っていうか、いつきが前を歩くって言ったんじゃん

なによぉ

横に並ぶと見えるからって。見えちゃうからって先に行ったんじゃん

 小夜はそう言って、視線を下に落とした。

 私もつられて、いつきの下を見た。

やだっ!?
ちょっと見ないでよ!!

 いつきは、ばっとスカートを下ろした。


 すると痴女がいっせいに、いつきを見た。

 襲いかかろうとした。

もうっ!

 いつきは、いきおいよくスカートをたくしあげた。

 いつきのハリのある真っ白な太ももとその奥が露わになった。


 すると痴女は、視線を泳がせた。

 いつきを見失った。

 やがて腰をくねらせ、自らの胸をもみしだき、自分の世界に没入した。



 私たちは、ほっと安堵のため息をついた。

 いつきは、おそるおそるスカートのすそを下ろした。

 だけど大切なところは、しっかり見えたままにした。

ちょっと、じろじろ見ないでよ

ごっ、ごめん

もう、最低だよ。私、汚れちゃったよお

そんなことないよ。いつきは綺麗なままだよ

うんっ。ほんと綺麗

……それって、なんかエロい意味で言ってない?

そんなことないよっ

そうだよ。エロい意味でも綺麗だけど、エロい意味じゃなくても綺麗だよ

もう、どっちなんだよお。というか、褒めてるのかバカにしてるのか、よく分かんないよお

うっ、うん。どっちの意味でも綺麗だよ

 よく分かんないけど。

 ほんと言ってる自分でもよく分からなくなっちゃったのだけれども。


 でも。

 それでも少なくとも、いつきの太ももは真っ白で、つるつるしていて、すらりとしていて、ひどくうらやましくって嫉妬するほど綺麗だった。

もうっ

ごめんね

ごめん

うん

 いつきは、くやしそうに笑った。

 それから肩をぶつけてきた。


 私はやりかえした。

 すると、いつきだけでなく小夜にもぶつかった。


 小夜は、イタズラな笑みでやりかえした。

 いつきにも体当たりした。

 と。

 そんな感じで私たちは、クスクス笑いながら格納庫に向かった。

 スカートをめくり、恥ずかしいところを見せつけるようにしてである。――

 格納庫につながる長く広い通路だった。

 その壁面には、たくさんの武器があった。

 そして、床にはたくさんの死体があった。

CIAの工作員

これは……

MI6の諜報員

男の死体、それも大量の死体だ

KGBの職員

いやっ、かすかに息をしているわ

CIAの工作員

………………

MI6の諜報員

たしかに生きている。しかし眠っているというか、昏睡状態というか

KGBの職員

むっ!? 腹が動いた。というより、どれもお腹が大きいわね

MI6の諜報員

まるで妊婦のようだ。……男だが

 MI6のお姉さんはそう言って、私たちをかばうように前に出た。

 それから拳銃を男に向けた。


 そのとき男のお腹がさらに、異様なまでにふくらんだ。

 CIAとKGBのお姉さんが、反射的に銃をかまえた。

MI6の諜報員

おい、これはどうなってる?

CIAの工作員

えっ?

MI6の諜報員

あんた、知ってるだろ? この件にアメリカは深く関与している。そうだな?

CIAの工作員

………………

MI6の諜報員

別に、あんたを責めるつもりはないし、事故の原因に興味はない。知りたいのは、こいつがどういうモノなのか、それだけだ

CIAの工作員

………………

KGBの職員

言いなさい。この子たちの安全のためにも

CIAの工作員

……分かったわ

 CIAのお姉さんは、沈痛な面持ちでうなずいた。

 と。

 そのときだった。

 男のお腹が裂けた。

 そして中から血まみれの、

 血まみれの小さな、

 小さな痴女が。










 姿をあらわした。

KGBの職員

うわっ!?

MI6の諜報員

見るなっ

 MI6のお姉さんが、私たちの視界をさえぎろうと前に出た。

 KGBのお姉さんが、私たちの肩を抱いて、身を盾にした。


 そしてCIAのお姉さんは――。

 無表情で、無感情に、無慈悲にも、その小さな痴女を。

 撃ち殺したのである。

CIAの工作員

………………

母なる痴女『ザ・クイーン』〈1〉

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