むきゃああぁぁぁああああ!!!!!

 インペリアル痴女がやってきた。

 意外と素早い。

 お姉さんが銃をかまえる。

 撃つ。

 乱射する。

あはぁん

うふぅん

らめえぇ

 それを痴女が舞うように避ける。

 緩急のついたメリハリのある動きで痴女はかわす。

 あっという間に近づいてくる。

CIAの工作員

まずい!

MI6の諜報員

接近戦だ!

KGBの職員

吸いつきに注意よ!

 お姉さんたちは、自動小銃を放り投げた。

 ナイフを手に取り、腰を落とした。


 私たちは浮き足立った。

 パニックになって逃げまわった。

無理! あんなの絶対無理!!

えぇ!? 智子がそれ言う!?

それって、ひどくない?

ごめん!

でも!

だって!

 私は叫びながら、痴女を振り払った。

やっぱ無理!

 夢中で痴女じゃらしを突きだした。

 

 痴女じゃらしが、痴女のお口にずっぽり入った。

 スイッチを入れてみた。

 

 痴女じゃらしがマッサージ器のような音をたてる。

 インペリアル痴女の、のどがふるえた。

 すると。

あはぁん

 インペリアル痴女は、恍惚の笑みで仰け反った。

 そしてそのままぶっ倒れた。

 私は、痴女をやっつけた。

やった……

智子すごい!

勝てる! 私たちだって勝てる!!

うん

 私たちは、闘志を取り戻した。

 だけど、最終的には逃げまわるだけになった。


 お姉さんたちは、格納庫の真ん中で、インペリアル痴女と激闘を繰り広げていた。


 私たちは、そのまわりをぐるぐる回るようにして逃げまくった。

 やばそうなときは、自動クギ打ち機を使った。

 でも上手く当たらないし、痴女もひるまない。

 痴女じゃらしのほうが有効に思えた。


 というより。
 実はそんな冷静な判断なんかとっくにできなくなっていて、私たちはただ一心不乱に痴女じゃらしをふりまわし、わめきながら逃げ惑ってるだけだった。

 それで。

 みんなと、はぐれた私は――。

あっ

………………

 気がつけば、ひとり、クイーンと相対していた。

……あのっ

………………

 クイーンは黙ったままだった。

 しかも動けないようだった。


 私は振りかえって後ろを見た。

 遠くでは、お姉さんが痴女と戦っていた。

 いつきと小夜が逃げ惑っていた。

 みんなは、こっちを見る余裕などまるでなかった。


 というより、これはもう完全に私が隙をついたかたちだった。

………………

 私は、痴女じゃらしを握りしめた。

 自動クギ打ち機をカバンから出した。

………………

 こうしている間にもクイーンは、次々と卵を産んでいた。……。


 おそろしい勢いで卵が増えていく。

 痴女が増えていく。

 そして、すべてが痴女になる。

………………

 私はクラスメイトや先生を思い出した。

 お父さんとお母さんを思い出した。

 親せきや近所の人を思い出した。

たぶん、もう、きっと……

 私は自動クギ打ち機をクイーンに押しあてた。

 


 

むきゃああぁぁぁああああ!!!!!

 クイーンが崩れ落ちる。

 私は、痴女じゃらしを胸に抱き、クイーンに突進した。


 クイーンの体のその中心に、痴女じゃらしを突き刺した。

 腕ごと突っこんだ。


 クイーンは、ものすごく艶っぽかった。


 ぬるぬるしていて、うぶ毛なんかなくて、つるつるしていて、ねちゃねちゃで、そこだけは脂っぽくて、吸いこまれるようだった。貝みたいにうごめいて、ほのかに桜色で、赤ちゃんみたいに無垢だった。

 それでいてクイーンの微笑みは、すべてを包みこむ母性に満ちたものだった。


 私はその微笑みに反発した。


 みんなを返してよ――と、思った。

 

 私は、痴女じゃらしを念を押すように刺し入れ、それからスイッチを入れた。

あ……あんんっ! ぁんんんっ!!

 クイーンは絶叫した。

 頭を打ちつけるように仰け反り昏倒した。

 それから二度三度、魚のようなけいれんをした。

 泡をふいた。

 白目をむいた。

 動かなくなった。

 それでクイーンは終わりだった。

倒した。倒しちゃった

 私は、ぺたんとその場に座りこんだ。

 そこにお姉さんが駆けつけてきた。

CIAの工作員

大丈夫!?

えっ?

CIAの工作員

大丈夫のようね

MI6の諜報員

というか、倒したのか

KGBの職員

美味しいところを持っていかれちゃったわね

……みんなは?

CIAの工作員

無事よ。インペリアルはすべて倒したわ

MI6の諜報員

そしてキミがクイーンを倒した

ということは?

CIAの工作員

やったのよ! これで、もう痴女は産まれないわ

MI6の諜報員

今までに産まれた痴女どもが、まだたくさんいるが、しかし

KGBの職員

残りはザコだけよ

CIAの工作員

ああ、まだふるえが止まらないわ

うっ、うん……

智子!

智子ぉ……

 いつきと小夜がやってきた。

 ふたりは状況を理解すると、やはり私と同じように、ぺたんと座りこんだ。

 私も、そんなふたりを見ると、思いっきり弛緩した。

 そして今頃になってようやく実感がわいてきた。

もう。死体とかいろいろ思い出してきた

ほんと凄いとこまで来ちゃったよお

うん、襲われたり撃ったりとか、いろいろあったよね

私なんかおもらししたし、今もノーパンだよお

私もおもらししちゃった

えっ?

安心したら漏れちゃった

って、今!?

 私は思わず飛び退いた。

 すると小夜は、ぷっくらと可愛らしくほっぺたをふくらませた。

 それから、いつきと一緒に、私をうらめしそうな目で見た。

 そして言った。

智子。空気読みなよ

智子も、おもらししなよお

え?

ねえ、私たちずっと一緒だよね?

ひとりだけとかズルイよね?

いやっ

 3人そろって、おもらしするのは、さすがにマズイと思う。

 私まで漏らしたら、おもらし3人組になってしまう。

 作品のテーマが変わる。ブレてしまう。


 そして私たちは、きっと開き直ってしまう。

 人前でも平気でおもらしをするような、そんな痴女になってしまうような――気がする。

ダメ、絶対ダメ!

 私には主人公としての責任があり、また責任感があった。

 だから私は、おもらしをしなかった――のだけれども。


 そのかわり、涙があふれでた。

 うわぁん

……智子。智子は頑張ったよ

ほんと凄いよお

違うよ、みんなが凄いんだよお

うんうん。おもらしはまた後にしよう?

今は頑張った自分を褒めようよお

……うん

 私たちはお互いを褒め、はげましあい、涙で顔をぐちゃぐちゃにして、顔以外もぐちゃぐちゃにしていることには目を背けつつ、いつまでも抱き合っていた。

 つかの間の安息を喜んでいたのである。――

母なる痴女『ザ・クイーン』〈3〉

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