タイムマシンの中?

別名:ロボットの中?

扉が閉められ、ロックをかけられたような音が響いた。

悠真

お姉ちゃん!
お姉ちゃん!

閉められた扉に向かって叫んだ。
でも、反応はなかった。

厳重な感じのドアに、何をしても無駄な気がした。

悠真

もし、お姉ちゃんがいたら、吉良先輩なんて押しのけてボクを助けてくれるはず。でも、そうならないってことは、お姉ちゃんはいないんだ……。

姉がいなければ、ボクの自由は認められない……。

悠真

だってあの吉良先輩だもの……。

悠真

「ほぼ100%」かぁ……。

そんな、根拠のないデータを言われても……。

悠真

お母さんにはお姉ちゃんが連絡入れてくれるかな?

姉のスマホはボクが持ってるけど、麻里亜さんから借りたりできるよね……。

ていうか、帰れるの?

悠真

はぁ……。

ため息をつき、扉の反対側を向いた。

悠真

何? この……
部屋?

悠真

タイムマシンの中
なんじゃないの?

栄井さんと麻里亜さんに、ロボットのような物の中に放り込まれたはずなのに、みごとな畳にちゃぶ台……?

悠真

初めて見たかも……。
これがあのちゃぶ台……。

昭和のオヤジが怒った時にひっくり返すという、あの伝説の品物なのか?

そのちゃぶ台は、畳の和室にとてもよく似合っていた。
窓から見える外は、ごく一般的な景色……。

悠真

ここ、地下七階だよね?

鳥のさえずりでも聞こえてきそうな、のどかな風景……。

ここが、栄井さんが言っていた中身?

悠真

コックピットみたいな感じ、
想像してたんだけど……。

あのロボットの中のはずなのに……。
ちゃぶ台には数人前のお寿司……。

横にはお茶まである……。
猫舌なボクでもちょうどいい感じの温度。

悠真

食べていいの?

恐る恐る、つまんでみた。

悠真

お姉ちゃんとランチしようと思ってたから、お腹すいてたんだよね。

腐った感じはなかったし、カビも見当たらない。

悠真

あ、おいしい。

少しお腹に物が入って、落ちついた。

悠真

外は騒がしかったのに、ここは無音に近い。きっと防音なんだ。

のどかな鳥のさえずり……。
さっきまでの地下基地とはかなり異なっていた。

悠真

ホントに鳥のさえずりが聞こえてきたし……。

何だろう?
この落ちついた雰囲気……。

悠真

なんかいい感じ?

ほのぼの落ちつく……。
ボクはちゃぶ台の前に座った。

悠真

あのロボットの中とは
思えないんだけど……。

確かにボクは、コレ↓

に放り込まれたはずなのに……。

悠真

畳って、なんかいいかも~。

思っていたより畳がよかった。
一個くらいならいいけど、勝手にガツガツお寿司を食べるのも気がひけたので、昼寝でもしようかと思っていると、

悠真

鳥の羽?

が降ってきた。
何かいるのかな?

悠真

……何だこれ?

さっきの鳴き声の主だろうか?
ちゃぶ台の上のお寿司の横にちょこんといた。

悠真

寿司でも食べに来たのかな……?

そっとご飯粒をつまんで鳥の口の前に差し出してみた。

悠真

ほら、食うか?

鳥は身づくろいをしていたが、ご飯粒には見向きもしなかった。

悠真

魚、食うか?

マグロの赤身をちょこっとつまむ。

…………。

鳥はしばらくじーっと見て、

ぱく

と、それを食べた。

悠真

うまいか?
ほら、もっと食え。

もうちょっとつまんで口先に持って行く。

もぐもぐ
もぐもぐ

鳥は美味しそうな顔でそれを食べた。

悠真

なんかいいかも……。

しばらく鳥と遊んでいると、

悠真

え?

鳥から音がした。

悠真

うわっ

耳をつんざくハウリング。

あー、あー。
聞こえるか?

鳥から吉良先輩の声が聞こえてきた。

悠真

鳥型のスピーカー?

え?
生きてるわけじゃないの?
何だ? これ……。

悠真、聞こえているのか?

慌てて鳥に向かって声をかける。

悠真

あ、はい。
聞こえてます。

お、無事だったか。
どうだ? 中は。

こっちの音を拾うマイクにもなっているのか?
鳥型インターフォン?

話ができるようだったので、鳥に向かって話しかける。

悠真

思っていたより快適ですよ。
もっとぎゅうぎゅうなコックピットみたいなのを想像していたんですけど。

ふっふっふ。
そうだろうそうだろう。

それは今回初のタイプなんだ。

この鳥、吉良先輩の会話と連動して表情が変わっている?

悠真

どれだけすごいんだ?

窓の外から飛んできたし……。
ロボットなのか、生きている普通の鳥なのかもわからない……。

悠真、聞いているのか?

悠真

あー、ハイハイ。
聞いてます。

うむ。

いつもはデ○リアンなのだが、今回はド○えもんなのだよ。

悠真

そういう分け方なんですか?

うむ。

デ○リアンは車が走っていくタイプってことだろう。
ボクははじめ、こっちを想像していたんだけど……。

引き出しに入っていくと、もやっとした空間があって、そこにタイムマシンがあるヤツだ。

悠真

もやっとしていませんよ。くっきりはっきり日本の伝統的な景色です。

ロボットの中にそんな景色、あるわけがないだろう?

ロボットって言った……。
やっぱりロボットなんだ?

タイムマシンじゃないの?
ロボット型タイムマシン?

悠真

まあ、そうですね……。
はい……。

ワームホールで別空間に飛ばしたんだ。

悠真

へー……。

ずいぶんでっかいワームホールができたんですね……。

ロボットが机に当たるんだ。

外見はなんでも良かったんだよ。

まあ、いずれはこのロボットを動かせるようにして、どこにいてもタイムマシンが起動できるようにしたいんだけどね。

悠真

大きさが難点だと思いますよ。

これ、置ける場所、そうそうないよ……。
大体、大学の地下7階から、どうやって出すつもりなんだ?

私はフィギュアサイズにしてほしかったんだが、栄井がどうしてもこのサイズが必要だと言ってね。

今回はメカニックの意見を尊重したのだよ。

悠真

今回は……?

っていうか、栄井さんの趣味だよね……。
で、吉良先輩も嫌いじゃないよね?

ところで、寿司の状態はどうだ?

悠真

あ、はい。
いただきました。

何?
食ったのか?

悠真

はい。
いけませんでしたか?

いや。元々そのつもりだからいいんだが。

全部は喰うなよ。後で皆で食べる予定だからな。

悠真

こんなに食べきれませんよ。

うむ。

で、味はどうだったか?

悠真

美味しかったですよ。

そうか、そうか。

タイムリープができていたことがわかったので、本番いこうか。

悠真

は?

その寿司は一週間前にそこに入れたのだよ。

悠真

え?

ガビガビしてないよな。

悠真

していません。

吉良先輩がウソを言っているのではないかというくらい、寿司は新鮮だった。

悠真

ラップもしてないのに……。

うむうむ。

そうだ、ラップはしておいてくれ。

人が乗っている場合、もう少しスピードの調節を行うから、戻って来た時ガビガビになっている恐れがある。。

私も美味しい寿司が食べたいからね。

悠真

はい……。

言われた通り、畳の上に転がっていたラップを寿司にかけた。

悠真

かけておかないと、後で何されるかわからないし……。

準備はできたか?

悠真

はい。

予定では、こちらで48時間後。
悠真は1時間後にまたこうして話せるようになる。

悠真

はい……。

やっぱりホントに行くの?

緊急時には、その生命維持装置(鼠色のツナギ)が作動する。

その中にいれば、異空間程度なら安全だ。

悠真

異空間程度……。

悠真

ボクにこんなもの(鼠色のツナギ)を着せるなんて、吉良先輩でも自信がないってことですか?

そうだよね。
いくらなんでも、タイムリープだもん……。

自信はあるぞ。
失敗するはずがないだろ。

サラッと言ったよ、この人……。

ただ、予期せぬ事象というのは、起きてしまう。その可能性を排除してしまうほど愚かなことはない。

万が一にそなえて、二重三重の防護策を考えるのが大切なんだ。

悠真はそこで、α波にまみれて惰眠をむさぼっていなさい。

何かあったら、脳みそをフル回転して助けてやるから。

じゃ、行くぞ。
ごー、よん……。

え?
3と2と1は?

悠真

面倒になったのかな?

悠真

あれ?
音が……。

それまでは静かでのどかだったのに、一面から音がしだした。

悠真

うわー、音に包まれる……。

悠真

え?
お寿司が浮いた?

体が急に軽くなった……。

それまでの、のどかな風景が一変した……。

悠真

あれ?

急加速のせいか、部屋が揺れた。

体が浮く……。

悠真

お……、お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん……。

悠真

お姉ちゃ~ん

ボクはその畳の上から落ちた。

……落ちたというか、浮いた?

吉良

何かあったら、脳みそをフル回転して助けてやるから。

悠真

これ、その何かなんじゃないの?

脳みそをフル回転している吉良先輩が浮かんでしまった……。

ボクはもやっとした空間に投げ出された。

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