はじめて見た。
あるんだ、タイムマシンって。
大学の地下に。

そうじゃなくって……。

悠真

ボクの持っているイメージと違うかもしれないです……。

悠真

タイムマシンっていうより、なんか悪の組織のロボットっぽくないですか?

主人公が乗った新型ロボットに倒される感がハンパない。







……そうか。

新型ロボットって言うことは、悪役ロボットの方が旧式ってことだから、先に作られていたってことになって、こっちの方が作り易いってことなのかもしれない。

吉良

私は球形にするつもりだったんだが、彼が絶対これがいいと言ったんだ。

栄井

悠真くん、ひさしぶり。

ロボットの裏から栄井健史(さかいたけし)さんが顔を出した。
ちょっと危なっかしい足取りで降りてこっちに来る。

栄井さんは運動神経が良くないけど、成績はいいそうだ。

悠真

あ、ども。

ぺこっと頭を下げた。

栄井さんは科学同好会のメカニック担当だって姉は言っていた。
工学部の大学院生だそうだ。

ちなみに姉も工学部で、吉良先輩は経済学部の大学院生らしい。

ぽいっちゃぽいんだけど……。
お金好きそうな顔してるし……。

悠真

栄井さんが作ったんですか?

例のアレを指さして聞いた。

栄井

そうだよ。
やっぱり、こういうのはこうでなくちゃね

超嬉しそう……。
こういうのって、どういうのだ?

栄井

悪の組織……。

あ、しまった。

作った人にそんなことを言うつもりはなかったんだけど、つい本音が……。

栄井

いいね。
そう言ってくれるなんて、作った甲斐があったよ。

悠真

……。

まともな人だと思ってたのに……。

吉良

今回は、形は遊んでもらったんだよ。

悠真

へー、そうなんですか……。

意味分かんないし……。

「形は」って、そもそもあんた、遊ぶ以外に何してるんだよ。

栄井

遊んでいるとは失礼な。
これでも機能的になっているんだ。

どこが?

栄井

吉良が言った機器を全て乗せるには、この形が最も無駄なく乗せられるんだ。

趣味入ってますよね、絶対趣味入ってますよね。

栄井

球形だと無駄な空間が増えて、大きくなってしまう。この形だと、必要な広さだけで済むんだ。

いや、これもかなり大きいっすよ……。

悠真

これ、乗って動かせるんですか?

ちょっとだけ、ロボットアニメの夢を見た。

栄井

動かせない。

ボクの夢ははかなく消えた……。
この形で動かせないって、詐欺だろ?

栄井

タイムマシン用の機器を組み込むだけでいっぱいになってるからね。
関節を動かす機器は入れられなかった。
動くようにはなっているけど固定してある。

栄井

でも、目は光るよ。

悠真

……嬉しいです。

ほんのちょっと……。

栄井

今回は動く必要がないからこれでもいいんだよ。
亜光速で飛ぶのは中身だし。

亜光速? 中身?

亜光速は、「光の速さよりも遅いけど、それくらい速いよ」みたいな速さのことですよね?

つまり、ものすごく速い……。

ところで中身って何?

悠真

この形の意味、ないんじゃないですか?

栄井

あるよ!

強く言われると、反論しづらい。
でも、丸とか四角とか、UFOみたいな形でもいいんじゃ……。

栄井

戦うことがロボットの役目じゃないんだ。

栄井

ロボットは人が行けないところに代わりに行ったり、できないことをやったりしてくれるんだ。

悠真

でも、動けないんですよね。

栄井

将来的には動けるようにして、どこでもタイムリープができるようにするんだ。

なるほど………。

悠真

それなら、もう少し動きやすい感じの方がいいんじゃないですか?
車みたいな……。

栄井

……。

趣味だよね。
どう考えても趣味だよね……。

栄井

キミは、ロボットにロマンを感じないのか? ロボットを操縦して、それからタイムリープをするということに憧れないのか?

悠真

…………。

悠真

……憧れます。

栄井

いつか、作ってあげるよ。

悠真

じゃ、出来上がった時に、
呼んでください!

そう言って、帰ろうとした。

栄井

こらこら、何、帰ろうとしているんだよ。
これでも十分にロマンがあるだろ。
タイムリープできるんだから。

悠真

どっちかっていうと、ロボットを操縦して悪と戦いたいです。

これ、どっちかっていうと、悪の組織のロボットだし。

麻里亜

搭乗員は操縦ができませんが、プログラミングされているので操縦する必要がないんです。

殿村麻里亜(とのむらまりあ)さんだった。
科学同好会のSE。
工学部の情報科って聞いた気がする。

悠真

こんにちは。

麻里亜

こんにちは。

必要なことだけをしゃべる姉の親友。

以前、二人が出かけるというのでついて行ったら、喫茶店に入って2時間ほど本を読み続けてほとんど話していなかった。

テレパシーでも使っているのか? と思った。
姉は「とっても仲良しだ」と言っていた。

麻里亜

これに1時間入っているだけで、未来に行けます。

悠真

光の速さに近づくほど、時間の流れが遅くなるっていうアレですか。

麻里亜

そうです。

さっき、中身が亜光速って言ってたし……。

アインシュタインの相対性理論とかで、「光の速さは一定である」となっている。

光には速さがあって、一秒間に30万km進む。
一秒あれば、地球を7周半できることになる。
ただ、光はひたすらまっすぐ直線に進むから、7周半も回ってはくれない。

反射や屈折など、物にぶつかって曲がることもあるけど、そうでなく曲がっている時は、空間が歪んでいることになるそうだ。
これとかは、光の性質ってことなんだけど。

とにかく、光の速さはどんな時でも何があっても変わらないそうだ。

それで、タイムリープに関係がありそうなのは、光速に近い速度で動く物質は、光速に近づけば近づくほど時間の流れが遅くなるらしい。

それで、どんなにがんばっても、光速よりも早い速度にはならないそうだ。


タイムマシンって言うくらいだから、この理論は出てくるだろうとは思う。

麻里亜

このロボットの中身は亜光速で動くので、1時間走行すれば、私たちのこの世界はもっと時間が経っているので、ある意味、未来に行けるタイムマシンということになります。

ロボットの中身って何?

麻里亜

電車に乗っている時もそうでしょう?
悠真くんは運転しないけれど、目的地には着きます。

悠真

なるほど!

言われてみれば、そうだ。

麻里亜

二次元に動くのか、四次元に動くのかの違いです。われわれに任せてください。

悠真

ん?

悠真

ボクが乗るの?

麻里亜

嫌ですか?

悠真

…………。

SFは好きだ。
ものっすごく大好きだ。

ロボットアニメも大好き。
タイムマシンも大好きだ。

でも、SFはサイエンスフィクションの略で、科学的にウソだよって意味だよね?

悠真

乗ってみたいとは思うけど、命の保証とかってあるわけ?

麻里亜

100%安全とは言い切れません。

悠真

……。

絶対に安全ですって言われるよりはいいけど……。
ちょっと言い方がアレだよね。

100%っていうのがなんか怖いなあ。
もうちょっと具体的な感じがいいな。

99%でも、50%でも5%でも「100%安全とは言い切れない」ってことになるよね?

しかも、亜光速で動くんだよね?
そんなにパーセンテージが高いとは思えないんだけど……。

悠真

……。

悠真

……。

悠真

……。

悠真

帰ります。

ボクは出口に向かう。
姉がここにいないのも変だし。

麻里亜

ちょっと、待ちなさい。

悠真

ボクである必要ってないですよね?

悠真

そこにリンゴが飛んできて、思わずそれを取ってしまった。

吉良

その反射神経だよ。

悠真

意味がよくわからないんだけど……。

吉良先輩は、栄井さんにゴムボールをゆるやかに投げた。

栄井

え?
あ、おっと!

手足をばたつかせたあげく、落した。
栄井さんならそうなると思うけど……。

吉良

キミは、スプリンターとしては並みだが、障害物競争では常に一位だそうだね。

吉良

悠衣がそう言っていたよ。

二人でどんな話してるんだよ!

悠真

小学校の時の話ですよ。

吉良

知能もまあまあ高いし、反射神経も良い。
何かあった時、それなりの対応ができるだろう。

悠真

亜光速じゃ対応できませんよ!

吉良

悪くないね。

何が? 意味分からないんですけど!

吉良先輩が二人に目配せをすると、

麻里亜

……。

栄井

……。

彼らはうなずいた。

悠真

ちょっと!
何するんですか!

二人はボクを悪役ロボットのようなタイムマシンに放り込んだ。

悠真

ロボットの背中が開くんだ~。

じゃなくて……。

悠真

出してください!

とにかく叫んで、出ようとした。
でも、栄井さんと麻里亜さんが通せんぼをして出してくれない。

そして、無常にも扉が閉まる。
ただ、扉を閉める間際に、麻里亜さんが

麻里亜

大丈夫よ。
あなたが選ばれたのは、それなりの理由があるの。

悠真

……なんですか?

麻里亜

会長のモチベーションが上がるのよ。

科学同好会の会長は吉良先輩だ。

悠真

そんな理由なんですか?

麻里亜

あなたは悠衣の弟だもの。

麻里亜

ほぼ100%で助かるから安心しなさい。

そう言って、麻里亜さんは扉を閉めた。

悠真

もうちょっと信憑性のある根拠がほしかった……。

はじめて見た。あるんだ、タイムマシンって。大学の地下に。

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