シンデレラ~
おう、親友。珍しいじゃねえか。何事だ?
あれから数日。
親友が俺の下へやって来た。
普段なら夜の掃除を終えた頃にやって来るのだが、今日は違った。
継父たちが出かけてすぐにやって来たのだ。タイミングを見計らっていたのだろう。
大変だよ!
何が大変なんだ?
それは私が説明するわー
うおうっ!?
うわっ!?
突然現れた第三者に二人一緒に声を上げる。
そこにいたのはあの魔法使いだった。
あら、美味しそうな鼠ね
ひ、ひぃいいっ!?
おい
涎を垂らして親友を見る魔法使いを睨む。
こいつ、ちゃんと見張ってないと親友を食べそうで怖い。
うふふ。冗談よー
本当かよ……
そんな事より大変よ。王子様が男を探しているの
男を? 誰だ?
ガラスの靴を履いた紳士ですってー!
ガラスの……ん?
それって、あの魔法の力で変身した時に履いた靴の事じゃねえか?
いや、そりゃないか。魔法は零時に解けたはずだし。
けど、落したには落としたなあ。
どういう訳か貴方が落としたガラスの靴を復元したみたいでね
復元ー!?
そそ
んな事、出来るのか?
出来ちゃったのよねー、これが
まじかよ。
王子様すげえな。
それでねシンデレラ。その王子様がお城の方で靴に会う人を探してるんだって
へえ……もしかして
ええ。あなたの継父とお兄さんたちも一緒に向かったわ
ふーん
靴なんてサイズが合えば誰でも履けるからなあ。
別人が見つかるんじゃね?
それは無いわ
心読むなよ
あの靴は魔法の靴。決められた人しか履けない細工がされているの
話聞けよってか、マジか
だからシンデレラしか履けない
……ほう
シンデレラ
親友が俺の服の裾を引っ張る。
オペレーション・シンデレラは、まだ終わってないんだよ
……
まさか、親友がそれを口にするとはなぁ。
何時も俺の話を聞いてくれていた親友。
作戦会議、なーんて子供染みたものにも付き合ってくれた大事な親友。
そんな親友から、その言葉を言われたんじゃあ……
やるしかないだろ。
魔法の力で変身する?
必要はねえ。俺しか履けないんだろ? それは魔法が解けていてもか?
ええ。理論上はそうなるわ
なら、行くしかねえだろ
相棒のモップを使って立ち上がる。
このみそぼらしい格好を見て、王子は失望するかもしれない。
けれど、王子にだけは俺の素を見て欲しいと思った。
一目ぼれなのかもしれない。
あの人が好きだ。
だから、その気持ちを正直に伝える。
偽りの姿でぶつかれば成功する事だろう。
けど、それじゃあ意味が無いんだ。
俺が、俺としての、本当の姿で臨まなくちゃ。
オペレーション・シンデレラ──再開だ
止まってしまった時計の針が、動き出した。