そう言う兵士の下にぞろぞろと何人もの男が押し寄せている。
このガラスの靴を履く事が出来た者を王子の夫として迎える!
そう言う兵士の下にぞろぞろと何人もの男が押し寄せている。
場所は城内の舞踏会が行われた地。
そこで王子は椅子に腰を掛けながら、挑む者を見下ろしていた。
くっそ! 何で履けねえんだ!?
サイズとしては同じはずが、一向に履けない兄の姿。
苛立ちながら足をはめようとするも、拒絶するように靴から弾かれてしまう。
も、もう一度だ!
見苦しいぞ! 次っ!
どうやら次の出番はもう一人の兄のようだ。
その兄も同じように弾かれてしまい、先の兄の上に重なる。
くっそ!
何だよこれ!!
文句を言う兄たち。
と言うか何で継父までいるんだ。
お袋はどうした?
そういやあの人旅行に行った切りだったな……
ちぃっ!?
あーあ、弾かれてるよ。
その後も何人もの男が挑戦したが、一人として成功する者はいなかった。
誰もいないのか!
王子が叫ぶ。
この靴を履ける者が、必ずいるはずだ!
その王子の瞳が、俺と合った。
俺は思わず笑みを浮かべる。
王子が肩を震わせた。
魔法使いは言っていた。
魔法使いのように魔法が使える者に対し、認識疎外は効果を発揮しないと。
ならば靴を復元した人物がその対象に含まれるのではないか。
馬鹿な頭をフル回転し考えて考えて、考え抜いて導き出した結果。
あの王子は、俺の本当の姿が見えていた。
ならば、この姿の俺を受け入れて見せろよ。
なあ? 王子様。
次は俺だ
貴族の中、一人だけ混じる貧相な姿の俺。
何だ貴様は?
挑戦者さ
兵士が俺に槍を突きつける。
お前、冗談が下手だな?
冗談じゃないさ
ふざけるな!!
兵士が激昂する。
貴様のようなみそぼらしい人間の底辺が! 王子の夫に相応しいはずがない!!
そう言って兵士は槍を構え直す。
ありゃシンデレラか?
だな! でも馬鹿だな!!
おう! あいつが靴の主な訳ねえだろ!
こりゃ死んだか?
死んだな!!
継父たちが俺の様子を見て馬鹿笑いしている。
継父だけじゃない。周りにいる全ての者が、俺を馬鹿にし、見下す。
心配そうな顔をする王子。
俺は王子の方を見て、片目でウィンクをしてやった。
貴様ァっ!
それが目に入ったであろう兵士。
遂に槍を突き出して来た。
貴族たちは思っただろう。
俺が刺されて死ぬと。
──だけどな。
遅い!
何!?
俺の相棒、モップでそれを受け流す。
くそ! お前ら! こいつを拘束しろ!!
ハハッ!
兵士たちがわらわらと俺を取り囲む。
なるほど。さっき俺を突き刺そうとしたのはこいつらの隊長か何かか。
なら……余裕だな。
食らえ!
はあっ!
兵士たちが次々と俺に襲い掛かってる。
だが、遅い。
遅いんだよ!
華麗に全ての攻撃を躱しながら、モップで奴らを気絶させて行く。
ば、馬鹿な……!
最後に残った隊長が一歩引いた。
おいおい、それで本当に隊長か?
っ……! 舐めるなぁっ!!
動きが変わった。
高速で突き出される槍。
油断していたからか、頬に軽く傷を負ってしまう。
シンデレラ!
王子の声が響いた。
あいつ、俺の事知ってるのか。
……あの声色。素の声か? どうにも女の子っぽい声だったな。
それに、どっかで聞き覚えがあるような……
っと! 考えるのは後だ!
相棒を構え直し槍を捌く。
馬鹿なっ!
せいっ!
相棒の柄の部分で隊長の胸元を突き出し、バランスが崩れたところで蹴りを入れて壁へと叩きつける。
精鋭とまで言われた国の兵士が俺一人にあしらわれるのを見て、辺りは騒然となり、静寂が訪れた。
んじゃ、挑戦させて貰うぜ? 王子様
……ああ
王子が頷いたのを確認し、ガラスの靴を足へ嵌める。
それは俺を弾く事も無く、すんなりと嵌った。
馬鹿な……!
あ、ありえん! 何かの間違いだ!
兄たちが騒いでいるが無視だ無視。
俺が靴を履いたをの確認した王子様がゆっくりと階段を下りてくる。
そうして俺の前に立つと、その手を取って宣言した。
この者こそ、私が追い求めていた夫に違いない! 彼の技量を見ただろう!? 我が国の精鋭を一人で捌き切った勇敢なる姿、我が夫に相応しい! この者を我が夫とし、王家へと迎える! 異論はあるか! あるなら言ってみろ!
い、異議あありっ!!
ならば我が夫に打ち勝ってみろ!!
い、良いだろう!! シンデレラ……覚悟ぉっ!!
おいおい、まじかよ。
継父が剣を抜いて俺へと襲い掛かって来る。
が、兵士より明らかに遅いし、捌く程でもねえな。
うぉうっ!?
横へちょっと移動して足を引っかけたらこけた。
馬鹿だろこいつ。
俺に挑戦する奴はいるか? この国の隊長に勝ったこの俺に!! 言っとくが今度は手加減しねえぞ? やるなら殺す気で掛かって来い!
今までの様子を見ていたであろう貴族たちは、俺の手加減しないと言う言葉と、殺す気で掛かって来いと言う言葉で完全に折れたらしい。
襲い掛かれば逆に殺される、とでも思ってるんだろうな。
どうやら誰もいないようだな。ならば、異論はないな!
王子の言葉に渋々頷く貴族たち。
その様子を見て横でほくそ笑んでいると、王子がそっと呟いた。
シンデレラ。やっと会えたね
……その声……まさか……?
いつの日か、俺が助けた一人の少女。
王子の声はその少女と同じ、綺麗で、可愛らしいものだった。
シンデレラ。好きだ
俺も、気づいたら好きになってた
目を瞑る王子、いや、ロードピス。
その唇にそっと口づけを交わし、俺たちは結ばれた。
こうしてオペレーション・シンデレラは完遂された。