どうやらシェリル様はバイオリン、
フロストはフルートを演奏するようだった。
エステル様は当然ピアノだ。
それぞれ楽器を手にして
簡単に音合わせをしたあと、
シェリル様が前へ出て小さく咳払いをする。
どうやらシェリル様はバイオリン、
フロストはフルートを演奏するようだった。
エステル様は当然ピアノだ。
それぞれ楽器を手にして
簡単に音合わせをしたあと、
シェリル様が前へ出て小さく咳払いをする。
では、これより演奏を
披露させていただきます。
曲目は組曲『優しき勇者』より
『戦う勇気』です。
えっ?
それってフロストと出会った日、
人形劇の中で
私が演奏した曲の1つだ!
…………。
…………。
♪~♪♪♪~♪♪≡
シェリル様が目顔で合図を送り、
演奏が始まった。
聴き慣れている曲だけど、
こうして複数の楽器による演奏だと
かなり印象が違う。
やっぱり迫力と壮大さ、奥行きがあって深い。
それに3人の息もピッタリだ。
何度も一緒に演奏したことがあるんだろうな。
……悔しいけど、
フロストは演奏がうまいと認めざるを得ない。
私に意見しただけのことはある。
演奏している楽器が違うから
単純に比較はできないかもしれないけれど、
なんというか音が活き活きしている。
ぐ……。
私の演奏を認めさせてやるなんて言ったけど、
それは思っていた以上に難しいということを
認識させられてしまった。
今の私とアイツの間には、
演奏家としての腕に埋めようのない差がある。
――やがてフロストたちの演奏が終わった。
お辞儀をするシェリル様たちに私たち一座は
惜しみない拍手を送る。
色々と複雑な想いはあるけど、
素晴らしい演奏を聴かせてくれたことに対して
感謝と賞賛を送るのは当然だから。
どうだったかな、ミリア?
素晴らしい演奏だったわ。
それは良かった。
ご満足いただけたようで
なによりだよ。
……認めたくはないけど、
現時点では私の負けね。
演奏家としての腕は
アンタの方が上だわ。
ほぉ?
でもね、腕を磨いていつか絶対に
ギャフンと言わせてみせる。
その気持ちは変わらないから。
……そうか。
フロストはなぜか私を温かい目で見つめ、
柔らかく微笑んだ。
もっと勝ち誇って、
嘲笑でもするのかと思っていたのに。
なんかすごく優しい雰囲気。
これって、どういうことなのかな……?
では、食事にしよう。
クーゴ、料理を運んできてくれ。
承知いたしました。
その後、クーゴさんやメイドさんたちは
テーブルに続々と料理を運んでくる。
どれもすごく美味しそうで、
特にアランは瞳をキラキラ輝かせていた。
そして食事が始まり、
会話をしながら和やかな時間が流れていく。
アラン、遠慮せずに
好きなだけ食べるといい。
おかわりも用意してあるからな。
ふぁい!
あひがほうごらいまふっ!
口をモグモグさせながら喋るアラン。
それを見てエステル様やシェリル様は
クスクスと笑っている。
――あぁ、もうっ、恥ずかしいなぁっ!
アラン、
食べながら話すのはやめなさいっ!
お行儀が悪いわよっ!
うるへー! バーカ!
ななななっ!
アラン、お前は良くても
俺たちが恥をかくんだよ……。
すみません、お見苦しいところを
お見せしてしまいまして……。
皆さん、よろしいのですよ。
むしろ男の子は
これくらい元気でなくては。
だよねぇ、王女様っ!
バカっ! 馴れ馴れしいわよっ!
エステル様っ、
どうかご無礼をお許しくださいっ!
うふふっ、お気になさらずに。
エステル様、お優しいっ!
なんて心の広い方なんだろう。
ますます憧れの気持ちが強くなっちゃった。
ところでアーシャさん、
料理を全然食べていない
みたいですけど?
私は食欲がないのです。
これはいつものことなので、
ご心配なく。
あ……そうなんですか……。
そうだ、シェリル。
はい?
宮廷楽師としての立場から見て、
ミリアの演奏をどう思ったか
聞かせてくれないか?
ちょっ!?
な、何を言い出すのよ、フロストは~っ!?
確かにプロの目から見て、
どうなのかってことは気になるけどさ……。
言っちゃっていいんですか?
もちろんだ。
いつものように、
気を遣う必要などないからな。
えぇ、それはそのつもりです。
だって私、音楽に関してのことで
ウソはつきたくありませんから。
ただ、ミリアさんにそれを
受け止める覚悟が
あるかどうか……。
あのっ!
私は正直な意見を聞きたいです。
気を遣って褒められても
成長に繋がらないですし。
なっ?
ミリアはなかなか見所があるだろ?
ですね。
それでは述べさせていただきます。
ゴクリ……。
私の演奏に対する
シェリル様の評価は果たして……。
次回へ続く!