舞踏会当日

 俺を虐め抜いた継父たちはスッキリした表情でお洒落をし、舞踏会へと出かけて行った。

 残されたのは俺一人。

 夕日が沈む外を眺めながらも、奴がやって来るのを待つ。

魔法使い

ハローん

シンデレラ

来たか

 ふわりと、空から魔法使いが降りて来た。

 流石魔法使い。予想外の登場だ。

 前の俺なら驚いていただろうが、今の俺はちょっと驚いただけなんだぜ。

魔法使い

それじゃあ、魔法を掛けるわね

シンデレラ

よろしく頼む

 魔法使いが呪文を唱えると、俺の体が光に包まれていった。

 これが魔法か。

 まさか自分が魔法に掛けられる何て、夢にも見なかったな。

魔法使い

はい! どうぞ

 魔法使いが鏡を出してくる。

 そこに映った自分の姿を確認し、ほくそ笑む。

シンデレラ

流石だ

 そこに映っていたのは、継父たちが着るような貴族の衣装を身に纏った俺の姿。

 だけどそれだけじゃ継父にばれてしまう。

 そこで掛けられた魔法が、認識阻害の魔法だ。

 これにより俺は俺で無い第三者として他の人間に認識されるのだと言う。

 魔法使いのように魔法が使える者にはあまり効果が無い、つまり、そういった相手には認識されてしまうそうなのだが、継父たちがそれであるとは到底思えないので問題ない。

 この姿で舞踏会に出向き……継父たちが狙っている王子様を俺の虜にしてやるぜ。
 

シンデレラ

ククク……逆玉の輿でも目指してみるかな?

魔法使い

ぷっ……あ、頑張ってね?

シンデレラ

今笑わなかった?

魔法使い

気のせいよ

シンデレラ

そうか

 何はともあれ、後は舞踏会に行くだけだな。

魔法使い

その前に注意事項ね

シンデレラ

聞こうか

魔法使い

その魔法は零時になると解けてしまうわ。それまでに帰ってきて頂戴

シンデレラ

了解した

魔法使い

零時になったら城の前まで馬車で迎えに行くわ

シンデレラ

何かとすまねえな

魔法使い

良いって事よ。それじゃあ、作戦の成功を祈っているわ。グッドラック

 親指を突き立てて微笑む魔法使い。

 同じように指を突き立て返す。

魔法使い

それじゃあ、馬車に乗って

シンデレラ

あっ。ここで別れるんじゃないんだ

魔法使い

徒歩で行くつもり?

 グッドラックとか言うからここで別れるんだと思ったら送ってくれるらしい。

 ちょっと恥ずかしいぞ。

シンデレラ

って、何だこりゃ

魔法使い

馬車だけど?

シンデレラ

かぼちゃですやん

 かぼちゃの馬車。

 いやいやいやいや! 何故にかぼちゃ?

魔法使い

気にしたら負けよ。さあ、乗って

シンデレラ

お、おう

 中は普通の馬車と変わらない。

 ってか、絶対目立つよなこれ。

魔法使い

認識阻害魔法の効果で普通の馬車と認識されるわ

シンデレラ

そうか

 今こいつ俺の心読まなかった?

 まあ、いいか。

 乗り心地はかなり良いな。ふっかふかだぞこのソファー。

 馬車に乗って外の景色を眺めていると、遠目から俺に手を振る親友の姿があった。

 さっき魔法使いと交わしたように親指を突き立てる。

 すると親友もそれが見えたのか、同じく指を突き立て返してくれた。

ネズミ

頑張って

 そう、言っているように見えた。

 てか……あの距離から車内見えるのか。

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