なんだか頭が混乱してきたぁ~っ!
こ、この場にいるってことは、
フロストは王族なのっ!?
あるいは私の目がおかしくなったとかっ?
――そ、そうよ!
こ、これはきっと私の目が
おかしくなったに決まってるッ!
なんだか頭が混乱してきたぁ~っ!
こ、この場にいるってことは、
フロストは王族なのっ!?
あるいは私の目がおかしくなったとかっ?
――そ、そうよ!
こ、これはきっと私の目が
おかしくなったに決まってるッ!
フフ……。
私が目を白黒させているのを見て、
フロストは薄笑いを浮かべた。
やがて3人は席に座り、こちらへ視線を向ける。
余はこの屋敷の主、
サイユ王国 第6王子の
フロストである。
これから諸君らの人形劇を、
堪能させてもらうぞ。
ななな、なんですと~っ!?
コイツが噂の末っ子王子ぃっ?
勿体なきお言葉でございます。
私は座長のルドルフと申します。
それから人形使いのアルベルト、
補佐役のアーシャとアラン、
そして演奏のミリアでございます。
座長が膝をつき、深々と頭を下げた。
それを見て、
私たちも慌てて真似をして頭を下げる。
うわうわ、どうしようっ!?
やっぱりこれは見間違いとか幻覚とか
妄想なんかじゃない~っ!
この前、
フロストにケンカを売っちゃったよぉ……。
で、でもあの時はお忍びだったんだろうから
問題ないわよっ、うんっ!
面を上げよ。本日は無礼講だ。
もっと楽にするがよい。
うふふ……。
いかがなされた、姉上?
無礼講にしたいのは、
あなたの肩が凝るからでしょう?
話し方もいつものように戻したら?
そうですよ、
ここはフロスト様の
お屋敷内ですし。
…………。
ふっ、そうさせてもらおうかな。
急にフロストは椅子を少し引き、
背もたれに浅く腰をかけて足を組んだ。
――うっわ、王族のクセに行儀が悪ッ!!
でも横に座っている女性2人は
気にする様子もなく、
むしろ温かく微笑みながら息をついている。
もしかして普段はこんな感じなのっ?
みんな、今夜はよく来てくれた。
僕のことは
単なる町の観客だと思って
気軽に過ごしてくれ。
……しょ、承知いたしました。
フロストの豹変振りに、
さすがの座長も
ちょっと戸惑っているみたいだ。
でもそこは海千山千の興行師、
すぐに気を取り直して笑みを返す。
皆さん、
今日は楽しませていただきますね。
私は王位継承権第3位、
第1王女のエステルです。
優しそうな人だなぁ。
フロストって兄弟からは
疎まれているって聞いてたけど、
この人は違う感じね……。
えとえと、私はフロスト様に
音楽をお教えしている
宮廷楽師のシェリルです。
っ!?
この人が宮廷楽師様……。
では、ルドルフ座長。
始めてくれ。
ははっ、ただ今!
――みんな、開演だっ!
その声で私たちのスイッチは
瞬時に切り替わった。
一座の全員がお互いに目で合図を送り合い、
劇を開始させる。
――これはもはや
条件反射みたいなものかもしれないな。
よしっ!
……♪~♪♪~♪♪♪~!
私はプロローグの曲の演奏を始めた。
輝かしく、華やかに――
さぁて、本日の演目は
『英雄の行進』でございます。
ぜひとも最後まで
お楽しみくださいませぇ~!
…………。
…………。
…………。
座長の声に合わせ、
アルベルトたちの操作する人形が
フロストたちの方に向かってお辞儀をした。
するとエステル様はニッコリ微笑んで
小さく拍手をなさっている。
うわぁ、すごくお美しくて
輝いていらっしゃる。
まさに王族っていう感じで憧れちゃうなぁ!
――同じ王族でも、誰かさんとは大違いよね。
その後、私たちはいつものように
人形劇を披露した。
少しは動揺して失敗しちゃうかもと
思っていたけど、
なんというか体が勝手に動いてくれた。
そして無事にプログラムが終了し、
私たちはフロストたちに向かって
深々と頭を下げたのだった。
するとエステル様とシェリル様の
温かな拍手がフロア内に響き渡る。
素晴らしかったです!
えぇ、感動しちゃいましたっ!
それは良かった。
そう言ってもらえると、
紹介した僕も鼻が高い。
さすがフロストのお眼鏡に
適っただけのことはあります。
ですねぇ。フロスト様って
芸術を見る目だけはありますから。
シェリル、その言い方は酷いなぁ。
てへへ、ごめんなさいっ♪
シェリル様ははにかみながら頭を軽く掻いた。
それを見てエステル様はさらに微笑む。
――なんかお2人とも、すごく楽しそう。
私たちの人形劇が
そのきっかけになったと思うと、
こっちも嬉しくなってくる。
では、ルドルフ一座の皆さん、
空いている席へ
ご自由にお着きください。
道具はその場に置いておいて
結構ですので。
はいっ、承知いたしました。
――おい、みんなっ!
座長の合図で私たちは席に着くことにした。
テーブルの奥から座長、アルベルト、
アーシャ、アランの順番に座っていく。
私は一番手前の席に――
おっと、ミリア。
キミはこっちに座りなよ。
僕の隣も空いているだろう?
んなっ!?
『王子様』の隣に座れるなんて、
光栄だろう?
…………。
ニヤニヤしているフロスト。
ケンカを売った私への当てつけに違いない。
だって『王子様』の部分だけ
わざと強調してたもんっ!
――くぅ~っ、なんか腹が立つッ!!!!!!
こうなったら絶っ~対に
アンタの言う通りにはしませんからねっ!
私はこちらの席で結構ですぅ。
恐れ多いですからぁ♪
……それは残念だな。
まぁ、いいか。
振られましたね、フロスト様っ♪
ふふっ、どうなのかな?
照れ隠しかもしれないじゃないか。
ンなわけあるかぁ~っ!
シェリル様が大正解っ!
さっさと気付きなさいよ、バカ王子!!
――っていうか、
どうせ分かってて言ってるでしょうよ!
ホントにタチ悪いんだからっ!
では、素晴らしい劇を
見せてもらったお礼に
今度は僕たちが曲を披露しよう。
えっ?
姉上、シェリル。
2人とも準備を。
分かりました。
は~いっ♪
3人は立ち上がり、
私たちが劇を披露していた場所へ移動した。
その間にクーゴさんとメイドさんが
何かの楽器を持ってきて
フロストとシェリル様に手渡す。
エステル様は部屋の隅に置いてあるピアノに
スタンバイする。
次回へ続く!