準備を終えた私たちは、
荷車を押してお屋敷へ向かった。

そしてそこへ辿り着いた時、
私たちは一様に呆然と立ち尽くしてしまう。



いくら兄弟たちから疎まれているとはいえ、
さすがは王族。
お屋敷は城壁に囲まれた敷地の中にあった。
建物も庭も桁違いに大きい。

しかも門の前には2人の兵士が立ち、
さらに何人かが城壁の周りを歩きながら
警備をしている。
 
 

アルベルト

ここまで立派なお屋敷とは、
度肝を抜かれたぜ。
もっと冷遇されているのかと
思ったからな。

アルベルト

腐っても王族というわけか……。

ミリア

私たち、ここで人形劇を
披露するんだね……。

アラン

でもこれなら夕食も
期待していいんじゃないのか?

アルベルト

お前、肝が据わってるな。
すげぇよ……。

アラン

そうか?

アーシャ

皆さん、
そろそろお屋敷へ入りましょう。
ここで話をしていても
仕方ありません。

ルドルフ

アーシャの言う通りだな。
門番の野郎どもに話をしてくらぁ。

 
座長は門の横に立つ兵士さんところへ
話をしにいった。
それから程なく、
私たちは敷地の中へ案内される。


――すんなりと門を通れてひと安心。
もし何かの手違いで
話が伝わっていなかったら、
不審者として牢屋に
入れられちゃうかもしれないもんね。


その後、敷地内の道をしばらく進み、
お屋敷の前で私たちは荷車を止めた。
間近で見ると、
より大きさと重厚さが感じられる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
お屋敷に着くと、
私たちはメイドさんの案内で応接間へ。
そこへみんなで協力して荷物を運んでいった。


今日はここで人形劇を披露し、
そのあと王族たちと一緒に食事をするそうだ。

お行儀よく食事できるか、ちょっと不安……。
 
 

クーゴ

ルドルフ殿、
準備の状況はいかがですか?

ルドルフ

あっ、これはこれはクーゴさん。
ぼちぼちやっております。
はははははっ!

 
私たちが作業をしていると、
身なりのきれいな年配の男性がやってきた。
上品な物腰で、座長と話をしている。

――お屋敷の執事さんか何かかな?
 
 

ミリア

えっ!?

アルベルト

こら、手が止まってるぞ?

ミリア

……あ、ごめんごめん。

 
座長たちの様子を見ていたら、
アルベルトに叱られてしまった。

そうだよね、
今は開演の準備を急いでやらないと。

私はこのあと調律というか、
音がきちんと出るかの確認も
しないといけないから。



その後、全ての準備を終えた私たちは
いつでも劇が始められる状態のままで
依頼主である王族がやってくるのを待った。

その間に屋敷のメイドさんたちは
テーブルに高級そうな食器類を並べていく。
 
 

アラン

す……すげぇ……。
これは料理が期待できるぜ……。

ミリア

アラン、意地汚いなぁ。
ヨダレが出てるよぉ……。

 
このままだと服の袖で拭いてしまいそう。

私はすかさずポケットからハンカチを出し、
黙ってアランに差し出す。
 
 

ミリア

アラン、
これで口の周りを拭きなさい。
食事の時はお行儀よくしててよ?

アラン

うるさいなぁ、分かってるよ。

 
アランは私の手からハンカチをひったくり、
素直に口の周りを拭いた。

やれやれ、手のかかる子なんだから……。


そして食事の準備が終わって程なく、
クーゴさんと呼ばれていた人がやってくる。
 
 

クーゴ

皆様、お待たせいたしました。

 
クーゴさんに続いて、
何人かが応接間へと入ってきた。

みんな清潔感のある上質な服を着ている。
 
 

シェリル

こんばんは。

エステル

ふふっ、ようこそ。

フロスト

…………。

ミリア

あぁあああああぁーっ!

 
私は慌てて手で口を塞ぎ、
喉まで出かかった大声を必死に堪えた。

だって最後に部屋へ入ってきたのは、
フロストだったから!



――ど、どういうことっ!?

アイツ、この屋敷の関係者なのっ?
どういう立場の人間なのよっ?
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第6幕 依頼主のお屋敷で……

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