死屍累々

※しかばねが積み重なった様を指す

とりあえず、席に移動した。

柚葉

二人はどんなこと
話してるんですか?

机の真ん中に顔を寄せ、さっきよりもさらに声をひそめて聡士の彼女は言った。

それを聞きとるために、三人で仲よさげに寄ってる感じになった。

慶子

いろいろ話しているが
アニメの話とかゲームの話とかが多いな

静香

はい?

慶子

何だ?
貴様は何だと思ったんだ?

静香

あの二人、デキてんじゃないかって思ったのよ。

柚葉

え~!

静香

しー!

慶子

静かにせんか。

柚葉

すみません。

柚葉

じゃ、私も先輩も、それを隠すためのダミーってことですか?

静香

そうなるわね。

ダミーで付き合ってることになるのか?!

言われて今、気付いた……。

柚葉

あ、でも、多かったそうですよね。
武士とかお坊さんとかってw
衆道って言うんですよね♪

なぜ嬉しそうなんだ?

慶子

たわけが。
貴様は殿の何を見ているのだ。

弁慶が私の方を見て言う。

慶子

もしそうなら、こんな真昼間にこんな目立つところで会ったりはせぬ。

静香

なんか妙な説得力……。

お前が一番怪しいんじゃ!

慶子

殿の話を聞けばわかろうに。

それ、盗み聞きしろって言ってるよね……。

静香

それが当初の目的だし……。

三人とも、隣の席の会話に集中した。

経次郎

ボクなんて悲劇のヒーローだよ、
悲劇の。

ヤツは悲劇を強調して2度言った。

静香

……。

いいけどさ……。

経次郎

ヒーローっていうのは良いよ。
百歩譲ってだけど。

聡士

なんで譲ってんの?

ホントだよ……。

経次郎

そんなに強くなかったし。
背は当時の一般的な高さだけど、力もなかったから。

経次郎

てか、周りがデカすぎて、いつも見降ろされてる感、すごかった。

聡士

へー。

静香

やっぱり……。

当時の私も、「ホントは弱いんじゃないか」って思ってた。

慶子

そんなわけあるか。
殿の強さは我らが良く知っている。

慶子

ほんに良くも悪くも
自分を見てないお方だ。

静香

そうなの?

慶子

貴様、あの時代で何を見ていたんだ?

静香

血だらけであんたに担がれてた
ヤツくらいよ。

慶子

殿は無傷だったであろう。

静香

あんたらが守ってたからでしょう?

常に義経を守っていた郎党がいた。
こいつとか常陸坊海尊とか、伊勢三郎とか佐藤兄弟とか。
鈴木とか亀とか鶴とか……。

慶子

無論だ。

慶子

敵陣にひとりで突っ込んでいく殿を、皆で必死に守っていたのだ。

静香

ひとりで?

バカなの?

慶子

ついて行くのがやっとの速さだった。

慶子

殿の通った跡は死屍累々なのだ。

それ、あんたもやってるでしょ?
死屍累々、義経主従が作ってたのよね?

慶子

瞬きする間もないのだ。
大して動いていないのに、すでに敵は倒れている。動きに無駄がなく、力んでいる風もない。

誰か他の人が斬ってたんじゃないの?

慶子

敵を斬った後は、流れるようにもう次を斬っている。それなのに表情はさして変化がない。

静香

それ、本当ならおっかなくない?

慶子

ほんに惚れ惚れするほど
強いお方なのだ。

目、キラキラさせて言わないでくれる?

慶子

あれではあの者が誤解してしまう。

慶子

私が行って、訂正してこよう。

そういって、出て行きそうになる弁慶を、私と聡士の彼女で慌てて止めた。

静香

あんたバカでしょ?
バカよね。

柚葉

慶子先輩、私が後で聡士先輩に言っておきますから、座ってください。

慶子

そうか……。

しぶしぶながら、弁慶が席に着く。

静香

なんで聡士の彼女には素直なわけ?

聡士

でも、ボクも似たようなものかな?
家督を継がないといけないから、必死だったな。

経次郎

鬼若子が何を言ってんだよ。

聡士

家臣が勝手なこと言ってただけだよ。
跡継ぎが強そうだって言っておかないと、攻め込まれちゃうから。

経次郎

わかるかも。
ハッタリかますだけで、けっこう勝てちゃったりするんだよね。

聡士

そうそう、勢いって、大事だよね。

経次郎

戦わずして勝つっていいよね。
楽だし。

経次郎

そうじゃないと大変でさぁ。
とにかく動いてる物ならなんでも斬るって感じだよね。

聡士

何度かあったよ、
そういう合戦。

経次郎

あ、やっぱり?
戦国も大変だね。

聡士

源平もだろ~?

なんか背後に死屍累々が見えた気がした……。

静香

おっかない奴らなの?

それともゲームの話なのか?
よくわからない……。

柚葉

聡士先輩、かわいい♡

慶子

殿も良い笑顔だ。

こいつらおかしくね?

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