真夜中、いつものようにベランダから星を見上げる。街灯が少ない場所のマンションをわざわざ探して本当によかったと心から思う毎日だ。さて、今日はどうしようか。星座を紡ぐのも、惑星を探すのも、ただ星を眺めるのもいい。そんなことを考えているとぶるぶると寝間着のジャージのポケットに入れていたスマートフォンが震えた。
今日も星が綺麗だ……。
真夜中、いつものようにベランダから星を見上げる。街灯が少ない場所のマンションをわざわざ探して本当によかったと心から思う毎日だ。さて、今日はどうしようか。星座を紡ぐのも、惑星を探すのも、ただ星を眺めるのもいい。そんなことを考えているとぶるぶると寝間着のジャージのポケットに入れていたスマートフォンが震えた。
アレクシスだろうな……。
こんな時間に連絡してくるのは大抵アレクシスだ。スマートフォンをポケットに入れているのも彼が電話してきたときに出ないと次に会った時に怒られるからで、本当は星を見ているときに邪魔されるのであまり持ちたいものではない。しかもその内容は『明日は仕事だから早く寝るように』だとか『明日は午後から仕事だけどちゃんとした生活を送れ』などという話ばかりだ。しかし出ないと次の日ますます怒られるので俺は仕方なく通話ボタンを押した。
もしもし、一斗か?
ああ。
まだ起きてるか?
ああ、今日も星を見ている。
そうか……そうだよな。
受話器越しのアレクシスの声がいつもより違って聞こえる。緊張しているような、少し硬い声音。不思議に思ったが早く天体観測がしたいので俺は本題に入った。
で、要件はなんだ?
え?
? またいつもの話だろう。
え、えっと、それもあるんだけど……ていうか言われると思うならやるなよ。
断る。
星は毎日違った輝きを見せるのだ。明日見ればいい、は通用しない。アレクシスにはいつもそういう話をするのだがなかなか分かってもらえないのだった。今日もまた何か言われるだろうと思っていたら返ってきたのは意外な言葉だった。
……まあ、明日遅れなければ何でもいい。
……何かあったのか?
は?
アレクが不思議そうな声を出すが不思議に思っているのはこっちだ。いつもなら『断るじゃないだろ! そうやって夜更かしするから寝坊するんだ! いいから明日は遅刻するなよ!』くらい言って電話を切るのに。今日のアレクシスは何かがおかしい。そう思って聞いてみたが本人は思い当たるところがない様だ。
別に何もない。……今何時?
ベランダにいるから分からない。
分からないじゃなくて確認してくれ。
アレクシスは部屋の中なんだろ? 自分で確認した方が早いんじゃないか?
いいから!
一体今日のアレクシスは何なんだ。
仕方ないので窓越しに時計を確認するとデジタル時計が11時59分を示していた。
11時59分……いや、今12時になったな。
そうか……。
自分で見たほうが早かっただろう、なんて思いながら時刻を伝えたときだった。
一斗、誕生日おめでとう!
一斗、誕生日おめでとう!
一斗、誕生日おめでとう!
受話器から聞こえる声以外に下から聞こえた声。驚いてベランダから下をのぞき込むとそこにはアレクシスと、何故か陸と光流までいた。
うわ、思ったより響いたな。
ねー、大丈夫かな?
……だから近所迷惑になるからやめようって言ったんだ……。
好き勝手に下で話している三人を信じられない気持ちで見つめる。皆はそれに気づいて大きく手を振った。
今からそっち行くからなー。
お誕生日会するからね! アレクが企画したんだ!
サプライズ考えたのは俺だけどな。でもアレクが一番張り切って……。
こら二人ともうるさい!
アレクが一番うるさいだろ。それでアレクが……。
陸! とにかく一斗は部屋入って鍵開けといて!
そう言ってアレクシスは俺の住むマンションのドアに走って行く。
アレクどうしたんだろう? まあいっか。僕たちも行くね!
待ってろよ!
そう言って二人も続いていく。俺はそれをまだ呆然と見つめて、二人の姿が見えなくなったところでようやく我に返った。少し慌てて部屋に入って鍵を開けるとがちゃりと勝手にドアが開く。そこにはさっきまで外で騒いでいた三人が笑っていて、勝手知ったる顔で部屋の中に入ってきた。
……どうして。
思ったことをそのまま口にすると光流は嬉しそうに笑った。
友達の誕生日をお祝いしたいっていう気持ちは当然のものでしょ?
それに続けて持ってきた袋から料理を取り出していた陸も、いたずらが成功した子供のように笑った。
どうせなら一斗を驚かしたくってさ。それで俺がサプライズを思いついたんだけど、本当に最初に誕生日になったきっかりにお祝いがしたいって言ったのはアレクだぜ?
その言葉を聞いてアレクシスを見つめると、アレクシスは照れ臭そうにそっぽを向いた。
……一斗に一番最初におめでとうって言いたかったんだ。
で、そしたら光流も『僕も一番に言いたい!』って言いだしてさ。そりゃあ俺も一番に言いたいし、ってなってこうなったんだよ。
そういうこと! というわけで……。
一斗、誕生日おめでとう!
おめでとう!
おめでと!
皆に笑顔で言われて心が温かくなる。こんな風に誕生日を祝われたことなんて当然ない俺は初めはすごく驚いたが今は嬉しい気持ちが大きかった。三人越しに窓から見える夜空を見つめると、変わらず星が瞬いている。
確かに星は今しかない輝きがある。でも三人がこんな風に祝ってくれるのもまた、今しかないのだ。星か友か、選ぶものなんて決まっている。
俺はあまり感情が表情に出ないからうまく伝わらないかもしれないが、精一杯の気持ちを込めてほほ笑んだ。
ありがとう。
Happy birthday Ichito Haruna!!!