うう、どうしようどうしよう……。

今日は新発売のゲームのイベント当日だ。CMに出演させていただいている私、七瀬深春はトークショーで出演することになっている。さっきどんな話をすればいいかの打ち合わせも簡単に済ませてきて、大体の流れは把握できた。でも、今日サプライズで分かった一個が私を困惑させていた。

深春さん、大丈夫ですか?

はっ、はい! 大丈夫です!

そう、なんとあの姫野美雪ちゃんと一緒にトークショーをすることになっていたのだ。姫野美雪ちゃんといったら今一番のトップアイドルと言っても過言でない存在。確かにCMは2パターンあって片方には美雪ちゃんも出演していたけど、スケジュールの都合で出れないって聞いていたのに。でもぎりぎりになってスケジュールが何とかなっていたらしい。
アイドルが大好きで美雪ちゃんのことももれなく好きな私としては、一度は会ってみたかった。けれど、まさか初対面がお仕事でだなんて思ってもみなかった。

うう、すごく嬉しいけどどうしたらいいんだろう……!

ちらりと美雪ちゃんを見る。間近で見るとテレビや雑誌で見るよりも可愛くて、こんなに素敵な人とトークショーなんて、と思うとどうしても緊張してしまう。
しっかりしないと、浮ついてる場合じゃない、なんていろいろ考えはするんだけどどうしてもドキドキが止まらないのだった。

あの、深春さん。

あ、はい! なんでしょうか?

ちょっと手を貸してもらえますか?

へっ?
い、いいですけど……。

急に言われたことに戸惑いつつも私は美雪ちゃんに右手を差し出した。すると美雪ちゃんは両手で私の右手を包み込むように握った。

あ、あの……!?

美雪ちゃんはぎゅっと私の手を握ると目を閉じる。私はただそれを見守ることしかできなかった。
何回か深呼吸をした後に、美雪ちゃんはようやく目を開けて私にほほ笑んだ。

いきなりごめんなさい。私、今日すごく緊張しちゃってて……。こうするといつも和らぐんです。

い、いえ! 全然大丈夫です!

へへ、ありがとうございます。
……私、実は深春さんのファンだったんです。だから今日会えるって知ってからずっとドキドキしてて……。

え!? 私のこと知ってたんですか?

思っても見なかった言葉に大きな声を出してしまいはっとする。でも美雪ちゃんは特に驚くこともなく私のことをきらきらとした目で見つめた。

はい! 前にテレビで深春さんを見た時にすっごい可愛いなって思って、そこからずっとあこがれてたんです。向日葵もとってもいい曲だし、元気が出て。

ええ!? それを言うなら美雪ちゃんですよ!
私だってずっと前から美雪ちゃんのファンで……。

ええ!? そうなんですか!?

驚く美雪ちゃんに私は思い切り頷いて、握られていた手を握り返した。

そうですよ! 美雪ちゃんを初めて見たときから可愛くてアイドルになるべくして生まれた子だって思いましたもん! それからずっとファンだったんです。
私なんてさっき一緒に出演するって聞かされたんでとってもびっくりして、さっきから緊張しちゃってて……。

そ、そうだったんですか……すごく嬉しいです、ありがとうございます。

そう言うと美雪ちゃんは頬を赤くした。きっと私も赤くなっていると思う。ファンだった人に知ってもらえていて、ましてや自分のことをあこがれていたなんて言われたらそうなるのも仕方ないと思う。
よく考えたら相手も同じ気持ちなんだ、と思うとお互い急に恥ずかしくなって、目を合わせてふにゃりと笑いあった。

なんかずっと緊張してたんですけど力が抜けちゃいました……。

私もです……。私達同じこと考えてたんですね。

そうですね、びっくりしちゃいました。でもすごい嬉しくて。

どきどきはまだしてるんですけど、嬉しい気持ちの方が勝っちゃいました。
……深春さん、改めまして今日はよろしくお願いします!

はい! 今日は楽しみましょう!

二人でそう笑い合うとスタッフさんからスタンバイのこえがかかる。私たちはもう一度手を握りあってからそれに答えた。

皆さんこんにちはー! 今日は来てくださってありがとうございます! 七瀬深春、ご主人様たちと一緒に沢山楽しみたいと思います!

皆さん今日はありがとうございます、姫野美雪です! 今日は皆さんと最高の日にしていきたいと思います。

美雪姫ー! 待ってたよー!

深春ちゃーん! 今日も可愛いよー!

見に来てくださったみんなが盛り上がっているのを見て嬉しくなる。私が美雪ちゃんのほうを見ると、美雪ちゃんは笑顔で私に左手を差し出してくれた。私はその手を右手で取り、繋いだ手を高く挙げた。

今日は私達と一緒に最後まで盛り上がってくださいね!

では、早速始めましょう!

おおー! とあがる歓声。きらきらとした美雪ちゃんの笑顔。私も一緒に笑い合ってみんなとのこの時間を一緒に楽しんだ。

この日のトークショーは大成功に終わり、私と美雪ちゃんは一部のファンの間で『はるふゆコンビ』なんていうコンビ名がつけられることになるのだった。

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