……。

すごい雪だな……。

そうだな。

事務所での打ち合わせが終わり、帰ろうと事務所の扉を開けると一面雪景色だった。
いつまでもここにいるわけにもいかないのでとりあえず歩き出すが、雪が止む気配は全くなくむしろ吹雪きだしている。

電車動いてるかな……。

どうだろうな。まあ雪がやむまで俺の家に来ればいいだろう。

足元に気を付けながら歩くアレクシスがポツリとつぶやく。
ここからアレクシスの住んでいるところは電車でないと行けない距離にあった。一方、俺の住むマンションはここから歩いてすぐの所にある。この様子だと電車が動いてる可能性は少ないし、タクシーなども混んでいると考えられる。きっと俺の家に来た方が寒い思いをしなくて済むだろう。

ありがとう。でも一斗の家は片づけしないといるスペースないからなぁ……。

別にそこまでじゃない。

いや、この前の大惨事を僕は忘れないからな……。買い出し係だったMySTARの二人にも結局部屋を片付けてもらって、陸にはオムライスまで作ってもらって……。

アレクシスが言っているのはこの前のSNSでの誤送信から始まった男四人のご飯会のことだろう。俺の食生活を心配したらしい三人が(俺にとっては普通の食事だったのだが)わざわざ俺の家まで来てくれたのだ。光流は陸の買い出しを手伝い、アレクと俺は部屋の片づけをして陸は四人分のオムライスを作ることになった。しかし俺の家が想像以上だったらしく(俺にとっては片付いていた方だったのだが)片付けに時間がかかり、結局皆で俺の家をきれいにしてから食事となったのだった。

皿は洗ったぞ。キッチンも片付けた。

そこじゃないだろ! というかキッチンはほぼ僕が片づけたようなものじゃないか!

ぺし、とアレクシスが俺に向かって積もっていた雪を投げる。肩に当たった雪はじんわりと溶けてその部分だけ余計に冷たくなった。

いきなり何をするんだ。

つ、つい……。

俺も何となく雪を丸めてアレクシスに投げてみた。アレクシスの肩に当たった雪玉はぽすっという音と共に壊れた。

うわっ! なんだよ一斗!

何となくだ。

そう、本当に何となくだったのだ。でもアレクシスは少しむっとした様子でまた雪玉を作り始めた。

何となくって、なんだよ!

アレクシスが投げた雪玉を避けるとアレクシスは更に機嫌を損ねたようだ。

……絶対当ててやる……!

? どうしたアレクシス。

いくぞ一斗!

アレクシス、そろそろいいだろ。寒い。

っ、くそ……結局ほとんど一斗には当たらなくて僕ばかり……っくし!

何となくで始まった雪合戦のようなものは思ったよりも白熱した。アレクシスが投げてきた雪玉を俺は避けて、たまにアレクシスめがけて投げ返す。するとアレクシスは雪玉を投げることに夢中だからか避けもせずに当たる、というのが最も多かった。もちろんアレクシスも避けることはあるが、80%以上は当たっていただろう。
そんな風に雪合戦を続けていると、いつの間にかかなりの時間雪の中にいたらしく、体は冷え切っていた。それはアレクシスも同様だったらしく、くしゃみをしてから体を震わせていた。

このままでは風邪をひくだろう。とりあえず俺の家で温まってから帰ることを考えろ。

……分かった。ところで、一斗は何でそんなに雪玉を避けられたんだ?

ぱたぱたと自分にかかった雪を払いながらアレクシスは俺に聞いてきた。俺も身なりを整えながら返事をする。

俺の地元は雪がよく降るからな、小さいときにコツは掴んだ。

よく降るって……北海道ってそのレベルじゃすまないだろ……。それにドイツだって雪は降るし、僕だってよくこうやって遊んでたのに……。

どこかむくれたように呟くアレクシスは納得していないらしい。俯いて何かぶつぶつと呟いていたが、急に顔をあげて俺をまっすぐに見据えた。

一斗……今度、リベンジするからな!

ああ。またやろう。

思ったより楽しかったのでそう答えると、アレクシスは納得したように一つ頷いた。

よし、じゃあ一斗の家に行こう。……寒い。

だな。

アレクシスが歩き出すのに合わせて俺も歩き出す。二人でお互いの地元の雪事情について話ながら、俺達はマンションまで向かっていった。

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