ギルド本部は静まり返っていた。
まだ深夜というのもあるが、それとはあまりに質が違う。
沈黙
まるで、誰も息をしていないような。
ギルド本部は静まり返っていた。
まだ深夜というのもあるが、それとはあまりに質が違う。
沈黙
まるで、誰も息をしていないような。
どうしたんだ?いくら深夜とはいえ、見張りさえいないとは
ったく、スクデリーア隊長がいないからって、サボってるんじゃないだろうな
騎士たちがブツブツとこぼしてる間、ルーチェは一人、本部である城をじっと見上げている。
どうやら、この異様な空気に気づいてるのは自分だけのようだ。
これは・・・・・・由々しき事態のようだ
自分にとっても、彼ら騎士たちにとっても。
ルーチェは、チラリと騎士たちを盗み見る。
もし、彼らが誰もこの違和感に気づいていないのなら・・・・・・
計画に変更が必要かもしれない。
・・・・・・ん?
ふと、セラータが城の方を向いた。
どうした?セラータ
いや、今城から物音が・・・・・・
するに決まってるだろう。どうせみんな中でサボってるんだ
ほぉ、とルーチェはセラータを見る。
どうやら、彼は少し違う形で気づいたらしい。
だが、他の騎士は誰も気づかない。
とにかく、こんなところで話していても始まらないでしょう。中に入りましょう
ルーチェの一言で、みんな中に入っていった。
全員が言葉を失った。
玄関ホールにはたくさんの騎士が死体となって転がっていたのだから。
仲間たちの変わり果てた姿に、騎士たちは何も言えなかった。
涙を流す者すらいない、ただ愕然としているだけだ。カシャンッと、誰かが膝をつくのが聞こえた。
スクデリーアが死んだとき以上の絶望を、彼らは味わっていた。
誰がこんなことを・・・・・・!
騎士が怒声をあげる。仲間が殺された怒りが、騎士たち全員に浸透する。
ルーチェは、それでも静観している。
これは、あくまで彼らの事件なのだから。
彼らが士気を上げている間に、ルーチェはそっと死んだ騎士に触れる。
バチッという音と、ルーチェの指先にほんの微かな痛みが走る。
ルーチェはふっと笑うと、騎士たちのところに戻る。
セラータ、確かにさっき物音がしたんだな?
あぁ、間違いない
よし、俺たちの仲間を皆殺しにした奴は、まだこの建物の中に潜んでいるらしい。これより全員でその犯人の討伐に向かう!
誰も不平を言わず、静かに重々しく頷いた。
仲間がこれだけ殺されたのだ、不平を言う騎士などいるはずもないが。
しかし、この士気の高ぶりよう、さすがスクデリーア・マッサに選抜された隊だけのことはある。
もしかしたら、犯人は複数かもしれない
あぁ、これだけの人数を単独で殺せるとは到底思えない。実力も相当なものだろう
しかし、そんなことは問題ではない。仲間が何者かに殺された。
ならば、我らは全力で仲間の敵を取る!我らにたてついたことを後悔させてやるのだ!!
荒ぶる喚声がホールに響いた。騎士たちの目が魔物を討つ時と同じ、殺気を押し殺した目になる。
これはこれで頼もしい。ルーチェはそう思った。
セラータ、お前はルーチェ殿の側にいてくれ
俺がか?
あぁ。はっきり言って、お前が俺たちの中で一番腕がたつ。お前相手なら、いくら犯人といえど、簡単にはいかないだろう
待ってくれ。だったら尚更・・・・・・
セラータの主張を、騎士は首を振って黙らせた。
あぁ、だから尚更お前にルーチェ殿の側にいてもらいたいんだ
犯人は数は分からないが、よほどの手練れだ。たとえルーチェ殿であっても勝てるか分からない
それなのに、ルーチェ殿に誰も護衛をつけないのはあまりに失礼だろう
僕は全く構いませんが
すぐにルーチェがそう返す。
だが、騎士は何も聞かなかったように続けた。
俺たち西エリアの騎士は恩義に報いるのが第一だ。ルーチェ殿にはゴーレムに殺されるところだった俺たちを助けてくれたでかい恩がある。そんなルーチェ殿に、万が一があってはいけない。分かるな?
・・・・・・あぁ
よし。犯人討伐は俺たちに任せておいてくれ。お前は命がけでルーチェ殿をお守りしろ
分かった。頼んだぞ
騎士は頷くと、他の騎士に号令をかける
よし、いくぞ!!
彼らはそのままホールをまっすぐ横切り、1階へ入っていった。
セラータは名残惜しそうにその後ろを眺めていたが、すぐにルーチェに向き合う。
さて、ルーチェ殿。ついでと言っては何だが、其方の計画とやらに私も混ぜていただこうか
しかし、ルーチェは首を振った。
今は計画を動かす時ではありません。それよりも、行きたいところがあるのですが
行きたいところ?
貴方も、仲間を討った犯人を倒したいのでしょう?僕の護衛が仕事なら、僕と一緒に犯人を捜せばいい。どうせだから、みなさんとは別の方向から捜してみましょう
なるほど・・・・・・しかしどこへ向かうのです?
隊長の部屋、最上階です
こうして、クアドラートでの戦いが幕を開けた。
・・・・・・・・・・・・