ルーチェとセラータと別れた騎士達は、まっすぐ騎士達の寝泊まりする、いわゆる宿舎といえる場所に向かっていた。

例え、隊長であるスクデリーアや屈指の実力者で期待の星とまで影で囁かれていたセラータがいなくとも、彼らには何の不安もなかった。
あるのは、仲間を殺した何者かによる復讐心だけだった。

・・・・・・あっ

ん?どうした?

騎士のひとりが外を見ている。

思わず立ち止まって聞いてみる。

あ、いえ・・・・・・曇ってきたなって

・・・・・・そうだな

確かに、外には分厚い雲が現れ始めている。
深夜帯な上にまだ暗くなるのかと思うと気がめいるが、今はそれどころではない。

余計なことはいい。さっさと行くぞ

はい、すみません・・・・・・

城と宿舎を結ぶ渡り廊下で、ようやく騎士達は異常と遭遇した。

廊下の真ん中で、少年がうずくまっていた。騎士たちが真っ先に思ったのは何故ここに少年がいるのか、ということだった
何故、騎士達がみんな死んでいる中で、この少年はこの城の中にいるのだろう。

少年に目立った反応はない。
騎士の一人が仲間に目配せすると、そっと少年に近づく。

やぁ。君、どうしたの?

アッシェ・エンブリョー

・・・・・・・・・・・・

まず、会って驚いたのは、少年の顔が非常に青白いこと。
何かの病気か、それともここで起きたことを見たのだろうか。


なんにせよ、少年をこんなところに置き去りにはできない。
騎士は、再び話しかける。

君、名前は?どこから来たの?

アッシェ・エンブリョー

僕は・・・・・・アッシェ。

名前だけは答えてくれた。
とても震える声で喋るので聞き取りにくい。
やはり、彼は何かを知っているのだろうか。

アッシェ君だね。君は、どうしてここにいるの?

アッシェ・エンブリョー

・・・・・・逃げてきたんだ

逃げてきた?誰から?

アッシェ・エンブリョー

ここを襲った人たちから

戦慄が走った。
やはり、この少年は事件の目撃者だったのだ。

騎士は仲間たちに頷いた。
アッシェを保護するのも大事だが、それよりも大事なことがある。
少しでも、多くの情報が今すぐに必要だった。

アッシェ君、落ち着いて答えるんだ。襲ってきた人たちは何人?どんな人たちだった?

アッシェ・エンブリョー

・・・・・・わからない。急にやってきて、逃げるのに必死だったから

アッシェ・エンブリョー

僕、夕方にパンを盗もうとして捕まって。そこで取り調べ受けてる最中だったんだ。簡単な質問とお説教だけだったけど、すごく反省したんだ。
そしたら、急に誰かが入ってきて、目の前の騎士さんを斬り殺して・・・・・・

そうか・・・・・・辛い思いをしたな

どうやら、彼は不運にも現場に居合わせただけのようだ。
確かに盗みは犯罪だが、今はスクデリーア隊長が無くなったせいもあって、西エリアの騎士ギルドは機能していない。
彼のことは、一旦家に送り届けて、後日伺って始末書を・・・・・・でいいだろう。

とにもかくにも、まずはアッシェを安全な場所に移動させるのが大事だ。

アッシェ君、もう大丈夫だよ。お家に帰れる。

アッシェ・エンブリョー

本当に・・・・・・?帰れるの・・・・・・?

あぁ、本当さ。今から僕らが送り届けてあげるよ。

この場はこうするしかない。
犯人討伐のために少しでも人数は欲しいのだが、少年の保護は騎士の最優先任務だ。
それをおろそかにしてはいけない。

ほら、立てるかい?一緒に帰ろう

アッシェ・エンブリョー

ごめんなさい、足がすくんじゃって・・・・・・

構わないよ。手を貸してあげよう

さあ、と差し伸べられた手をアッシェが握ったとき――――

紫の電光が走った。
アッシェの手を握った騎士がフリーズする。

ばかな・・・・・・どうして!

アッシェ・エンブリョー

プッ

アッシェの高笑いが廊下中に響き渡る。
異様なあまり、誰も剣を抜こうとはしない。
今、一体何が起きたのか、誰もわからなかった。

アッシェ・エンブリョー

お前ら本当にバカなんだな!こんな猿芝居に乗せられるなんてよ!

何!?

彼はスッと立ち上がると、振り向かずに停止した騎士を蹴り飛ばす。
鎧を纏っていた騎士が数メートルもぶっ飛ばされる。
壁に激突し、騎士はそのまま意識を失った。

貴様!一体何者だ!!

ようやく反応ができた騎士達が一斉に剣を抜いた。
対する少年は不敵な笑みを崩さず、にやにやとこちらを見つめている。

スッと腕をあげ、指を鳴らす。

騎士達とアッシェの間に、雷が落ちる。
怯む騎士達を見て、彼は更に笑う。

アッシェ・エンブリョー

俺の名はアッシェ・エンブリョー

アッシェ・エンブリョー

異名は、<クヴィスリング・ドンナー>

異名持ちだと・・・・・・!?

騎士達の顔に、緊張が走る。
異名持ちということは、少なくともこのなかのどの騎士よりも実力が上ということになる。

それに、否定しようにも、今自分たちは目の前でその片鱗を見てしまった。
勝率が著しく下がっていくのを、いやでも感じる。


それでも――――

それでも、お前は俺たちが倒すんだ!

意識を総動員し、全員で雄叫びをあげる。
失いかけた士気が盛り返してくる。

そして、全員で臨戦態勢を取った。
必ず討ち取る。そう強く思いながら。

アッシェ・エンブリョー

ふーん、さっきの騎士達よりかは楽しめそうかもな

アッシェ・エンブリョー

ゼンゼ・ドンナー

アッシェの手に、雷の鎌が現れた。バチバチと電気が走る音がする。
鎌を担いで不敵に笑うアッシェの姿は、本物の死神のようだ。

怯むな!!突撃ー!!

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