翌日、私たちは昼間に広場で
いつものように興行をした。
そのあとで、
依頼を受けた王族のお屋敷へ出かける
準備をする。


私は自分の楽器の手入れ。
それが終わったら、
アルベルトやアーシャの手伝いをする予定だ。

今回はそれなりにお代をいただいているので、
いつもよりたくさんの人形や舞台背景を使う
特別プログラムとなっている。

つまり持っていかなければならないものも
多くなるので、
みんなで荷車に積み込む手伝いをしないと
約束の時間に間に合わなくなってしまう。




――そして特別プログラムということは、
私の演奏する曲が増えるということでもある。

かなり気を引き締めていかないといけない。
座長やアルベルトの顔に
泥を塗るわけにはいかないもん。
 
 

ミリア

…………。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

フロスト

ハッキリ言って、
キミの演奏が人形劇全体のレベルを
押し下げている。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ミリア

っ!?

ミリア

なんであんなヤツの顔と言葉が
頭に浮かんでくるのよっ?

 
私は両手で頬を叩いた。

無意識のうちに力が入りすぎていたのか、
叩いた部分がピリピリと痛い。
おかげで気合いは入ったけれど……。



――やっぱり、
気になってしまっているんだろうな。
アイツに言われたこと。

私は精一杯、演奏をしている。
努力だってしている。
常に最高のパフォーマンスを
発揮できるように意識している。


でも人形劇を見てくれている
お客さんたちにとっては、
その舞台で披露されているものが全てだ。

私が努力しているとか、
精一杯やっているとかなんて関係ない。



だからこそ、
私はもっともっと腕を磨いていかないと!
 
 

わっ!

ミリア

うわあっ!

 
不意にすぐそばから上がった大声に
私はビックリして心臓が止まりそうになった。

まだドキドキしてる……。


慌てて振り返ってみると、
そこにはニヤニヤしているアランと
相変わらず無表情のアーシャが佇んでいた。

手には荷物の入った箱がある。
まだ運ぶ仕事をしている途中のようだ。
 
 

ミリア

ビックリさせないでッ、もうっ!

アラン

あはははっ! ミリア、驚きすぎ。

アーシャ

私、アランを止めたんですけど。

ミリア

ホントに悪戯っ子なんだから、
アランは……。

アラン

だってさ、ミリアが
深刻そうな顔をしてたから。

ミリア

えっ?

アラン

そんなの、お前らしくないじゃん。
いつもと違ってると、
こっちの調子まで狂っちゃうし。

ミリア

アラン……。

アラン

何を考えてたのか知らないけど、
人形劇はオイラたち全員で
作り上げてるんだぜ?
それを忘れんなよ?

ミリア

あっ……。

 
そうだ、自分の腕を磨くことは大切だけど、
それだけじゃダメなんだ。

みんなで1つの舞台を
作り上げるという気持ちで
演奏をしていかないといけないんだ。
私は独奏会をしているわけじゃないんだから。



座長の語りとアルベルトの操る人形、
アーシャやアランのサポート、
そして私の演奏――
そのハーモニーが一番重要なんだ。

フロストが褒めていたのだって、
その部分だったわけだし。



まさかこの子に
それを思い出させられるなんてね……。
 
 

ミリア

アラン、こっちにおいで。

アラン

ん? どうした?

アラン

うわぁっ!

ミリア

ありがと、アラン。

 
私はアランを強く抱きしめた。
そのまま頭を優しく撫でてあげる。

最初は戸惑いながら暴れていたアランだけど、
次第に大人しくなって、
されるがままになっていた。



――生意気なところもあるけど、
ホントはすごく優しい子。
ちっちゃくて可愛い私の弟分。

出会ってからまだ数年だけど、
実の弟のように愛しく思う。
 
 

アラン

……っ……。

ミリア

ん? 何か言った?

アラン

っ!?
な、なんでもねーよっ!
さっさと離せ、バカっ!

 
アランは私を突き放すようにして離れた。

照れているのか、
頬を膨らませつつもちょっと赤くなっている。
 
 

アラン

ったく!
オイラたちは
まだ準備で忙しいんだ。
お前もさっさと手伝えよっ!

アラン

行くぞ、アーシャ!

アーシャ

ミリアさん、またのちほど。

 
2人は荷物運びの仕事に戻っていった。

そのあと、
私もアコーディオンの手入れを終わらせて
みんなの手伝いに加わったのだった。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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