さっきまでの晴天がまるで嘘のように



青空はにわかに曇り



雨の矢が地面に突き刺さる。







霜月の雨は



道に佇む少年の体を



冷たく包み込む。


















not true or not false













大地

なんで……
なんでなんだよ、佳子……!





少年はうなだれ、



傘をさすこともなく



重い足を引きずり



学び舎へと登校する。



























分厚い雨雲は陽の光を遮り



室内はさながら夕刻の如き



暗さを漂わせる。


大地

すみません……遅れました。



少年は授業中の教室の扉を開け


開口一番謝罪をする。




しかし、その異様な姿に


見るもの皆、驚きを隠せなかった。

須藤くん……。
どうしたんだ、ずぶ濡れじゃないか!

大地

傘を忘れてしまって……すみません。

いいから、早く体操着にでも着替えなさい!

大地

はい、すみません。

大地

ちらっ





少年はひとしきり弁解をすると



愛しの少女に目線をやった。


明日菜

うげ、こっち見やがった……。
下手に目をそらすと、後で付きまとわれそうだな……。

明日菜

……スッ




……しかし、



かつて少年に寄り添った少女の入れ物は



ゴミ袋の生ゴミを見るかの如く



蔑むような目で少年を見続けた。



大地

ギョッ!

大地

くっ…。





いたたまれなくなった少年は



少女に向けた目線を外さずには



いられなかった。












休み時間。












廊下で少女の入れ物は



あたかも少女そのもの様に振舞っていた。







少女の友らには全く何も気づかれずに。





明日菜

……でさー!

明日菜

あ…。

大地

ジッ




……唯一。



異常なまでの変化を知る少年は



遠巻きに少女の入れ物を



訝しげに見つめていた。



明日菜

うわあぁ。

明日菜

あれほど傷めつけたのに…。
コイツめんどくさいなぁ……。

明日菜

何とかしないと付きまとわれる…。

明日菜

よし。

あれ?
佳子、どこ行くの?
授業始まるよ?

明日菜

ちょっとお手洗い。

明日菜

先生に遅れるって言っといて。



















少女の入れ物は



授業のない体育館へと向かい



倉庫へと入っていった。





明日菜

ツヴェルタ!
いるんでしょ!?
出てきなさいよ!

ツヴェルタ

ふぅ……。

ツヴェルタ

別に私はあなたの専属キューピッドじゃありませんよ?

ツヴェルタ

それに私の契約者はあなたの中にいるもう一人のあなたであって、あなたじゃないですし……。

明日菜

つべこべ言わないでさ!
せっかくキューピッド共の実験に付き合ってあげてるんだから、少しぐらい融通きかせてよ。

明日菜

……それとも……




少女の入れ物は声色を変えて



ツヴェルタに迫る。

明日菜

この入れ物自体、台無しにして欲しいの?

ツヴェルタ

私を脅しても何も出ませんよ?
それより、私に用があるのでは?



飄々としたキューピッドは



脅しを意に介さず



用件を聞き出す。

明日菜

あ、そうそう!

明日菜

あの大地とか言うガキをボロクソに……

明日菜

……じゃなかった……

明日菜

この娘の恋人に恋の試練を与えてやってよ!




少女の入れ物は満面の笑みを浮かべて



キューピッドに提案をした。

ツヴェルタ

……うーん。

ツヴェルタ

今でも十分すぎる試練なんですけどねぇ。

ツヴェルタ

まあ、それも契約者様の強い想いの成せる技なのですが……。




黒衣のキューピッドは



しばらく腕組みをして考えた後、



体育倉庫内に置かれた



スタンドミラーを指差し言った。


ツヴェルタ

あれを使いましょう。

ツヴェルタ

鏡の指輪が映るように手を伸ばしてください。

明日菜

こう?




少女の入れ物は



鏡の指輪が映るように



手を伸ばした。

ツヴェルタ

…で、こうします。



黒衣のキューピッドは



徐ろに鏡へ手を突っ込むと、



鏡の中の手にはめられた指輪を外し、



鏡の中から取り出した。

ツヴェルタ

これで鏡の指輪がもう一つ出来上がりました。

ツヴェルタ

効能は同じです。
お好きなようにお使いください。




と言うと、



鏡の中から取り出した指輪を



少女の入れ物へと手渡した。


明日菜

へぇ……。
アンタは鏡に映らないんだねぇ。

ツヴェルタ

えぇ、まあ。
これでも神なので。





少女の入れ物は



渡された指輪と



鏡に写るその姿を交互に見比べた。

明日菜

……不思議。

アタシは指輪してるのに、
鏡のアタシは指輪してないんだね。

それに、この新しい指輪も鏡に映らないのね。

ツヴェルタ

鏡に写る姿はあなたの本体の姿……。
つまり、私の契約者様の姿で、そちらから鏡の指輪を拝借しました。

ツヴェルタ

鏡の中が本体と言っても、今の実体はあなたなので鏡の中の本体が勝手に動いたりはできません。もっとも、今契約者様は意識を失っているようですがね。

明日菜

それは知ってる。
アタシは今までずっとアッチ側だったからね。

ツヴェルタ

おっと、これは失礼。
余計な講釈でしたね。

ツヴェルタ

それでは、私はこれで。
面白い結果をお待ちしております。





そう言い残すと、



黒衣をまとった愛の神は



闇に染みこむように姿を消した。



明日菜

もう一つの鏡の指輪かぁ……。

明日菜

にまぁ














少女の入れ物は








不気味な笑みを浮かべながら








無人の体育倉庫を後にした。




















つづく

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