それは、やけに月の眩しい夜の出来事だった。
それは、やけに月の眩しい夜の出来事だった。
大丈夫そうかね。
大丈夫にきまってんだろ!
メイちゃん、カッシーの具合は?
傷は浅い。心配することはない。
あの血は、カ・シミ・ィルくん以外の誰かの血を浴びた様子だ。本人はそう重症ではない、が。
……助けられなかったのだ。
おい、カッシー。まだ動くなって
夜道で襲われているご婦人と遭遇して、助けに割り込んだ結果がこの体たらくなのだ……相手の姿も確かに見えないままとは情けない……。
っておい、まだ外には出られねえって!
こうしている訳にはいかないのだ!
次の犠牲者が出る前になんとか――いッ
傷は浅くとも、即座に大丈夫という訳ではない……ここはわたし達に任せてもらえないだろうか。なあ、差配屋くん。
……そうだな。子飼人がやられたとあっちゃ黙っちゃいられねえよ。
相手が暴漢だろうが殺人鬼だろうが、追い詰めて痛い目に遭わせてやらぁ。
ほほーう。じゃあ、この依頼、受ける?
ああ。受けるさ。決まってんだろ。
……了解。じゃあ依頼情報だ。
依頼「“三つ穴ジャック”を捕まえろ」
難度総計(23)
=【基礎(10】+【雑踏(3】+【強敵(5】+【危険(5】
必須タグ【小柄】【クレバー】【司法職】
成功報酬35Coin
成功報酬は賞金首の報奨みたいなものだ。なにせ相手は巷を賑わせる殺人鬼“三つ穴ジャック”だからねえ。
月が雲で覆われた夜に現れる凄惨な殺人鬼、か。三文新聞の与太だと思っていたが、実在するとはな。
ぐっ。なんだこの難度。『力』3の人材をを5人揃えても2d6で8以上じゃないと失敗か。きっちぃなあ。
その代わり必須タグは子飼人二人の能力でクリアできてるね。ま、まずは人材集めてみたら?
言われなくてもやってやるぜ。とりゃ!
人材募集の結果は・・・
『力』2 『巨体』『接客業』『軍事系』
『力』3 『美貌』『接客業』『クレバー』
『力』3 『フール』『クレバー』『軍事系』
『力』1 『軽身』『巨体』『美貌』
『力』2 『軽身』『軍事系』『接客業』
……すまねえが、あんたの代わりを探させてもらう。今回は『力』が絶対なんだ。
そういうことならば、仕方ありませんわね。
良い人材が見つかることを祈っておりますわ。
『力』1の人材を解雇し、さらに二人を募集
結果は……。
『力』2 『フール』『軽身』『司法職』
『力』1 『接客業』『巨体』『小柄』
……これで所持Coin使い切った、か。
『力』1の子にはすまないが、解雇させてもらってCoin1確保。これでギリギリ首の皮一枚だな。
さあて、依頼解決判定に臨むかい?
……『力』の合計は12。2d6で11以上出さないと成功しない、か。
カ・シミ・ィルちゃんの『聖なる白竜』を使えば【雑踏(3】を消せるかもしれない。ただし、五分五分の確率で味方が喰われて……どう判定しても失敗になるねえ。
なら、このまま振るまでだ。
頼むぜ……うおりゃあ!
2d6の結果は……4
……。
グアー!
な、なんという強さ……がはッ
許さんぞ貴様ァ――!
必殺! マッシヴボンバー!
――甘い
“三つ穴ジャック”
その名は、死体に鋭利な三つの刺突穴が開けられていることから由来している。
そしてそれは、刺突剣(レイピア)による、目にもとまらぬ三連撃により為されていた。
ぐあーッ!!!
……甘い。
お、おい、なんだよこれ!
マッシヴ家総動員で傷ひとつ付けられない、だと。
あれは明らかに鍛錬を積んだ人の業じゃ……しかし、あの姿は……。
マッシヴ一家のみなさん、大丈夫ですか! いま手当を!
その時、雲間から姿を覗かせた月が、恐ろしき殺人者の姿を薄く照らし出した。
わたしは、息を飲み、その顔を見つめることしかできなかった。
……。
あ、あれは、先日の――
いや、それは単なる見間違いだったのかもしれない。
その姿は再び闇夜に隠れ、そのまま消えてしまったのだから。
あるいは、見間違いにしたかったのかもしれない。
わたしの心は、それほど揺れていた。
おいこら逃げるな!
……くそっ。これじゃ追いかけるどころじゃねえ!
メイちゃん、手当には何がいる? このままにしておけねえよ。
……あ、ああ。そうだな。
まずは安静にできる場所に運ばねばなるまい。医者の手配も必要だ。頼めるか、差配屋くん。
……こういう結果を招いちまったのはオレの責任だ。始末はつけるぜ。
負傷した人材の手当に奔走している間は、いろいろな事を忘れられた。
あれから、“三つ穴ジャック”は姿を見せていない。何か周期があるのか、それとも、わたしたちが、何らかの影響を与えてしまったのか。
そして、彼と彼女は。
……金が、無い。
見事な大失敗だったのだ……。これでは人材の雇用もままらなぬのではないのか? これからどうするのだ。
次回は借金確定だねえ。ま、その時になったらルールを教えるさ。
……今は休んどきな。
……そうさせてもらう。
あ゛ー、あんときワニさんに頼っときゃよかったのかな。それにしても酷い出目だったぜ。
我も次は力を貸す故、そう気落ちするではない。お前はまだ生きているのだ。だから、大丈夫。
死んでしまっては、なにもできぬのだから、な。
彼と彼女がそんな会話を交わしているころ、わたしといえば、本業である講演活動に忙殺されていた。それのお陰で考えずに済んだ、とも言えるかもしれない。
つかの間の日常に振り回されていたわたしが、彼と彼女に次なる難題を持ち込まざるを得なくなったのもまた、何かの運命だったのかもしれない。
差配屋ガッツ
【器】2
【Coin】1枚
【子飼人】カ・シミ・ィル メイ・ストーム(Exp)
4 Four Stone Biz につづく