雪の校庭でケンイチに怪我を負わされた少年は意識不明のまま病院に搬送された。

右目に突き刺さったスコップの先端は脳にまで達していて極めて重篤な脳挫傷を負っていたのだ。

少年は集中治療室で一週間程生死の境を彷徨ったがなんとか一命は取り留めた。

八日目の朝、こん睡状態から意識が戻った。

しかしこの傷による後遺症はその後の少年の人生に暗い影を落とすことになる。



『サイコパス』

歴代のシリアルキラー(連続殺人者)は、脳障害をもつ者が多いと云われる。

彼らは、先天的もしくは後天的な脳の障害によりサイコパス(反社会性人格障害者)となり犯罪を繰り返す。

サイコパスは良心や善意、愛情という本来人間のもつ本質的な感情が欠落している。


通常の人間は欲望というアクセルに対してそれを抑制する良心というブレーキが正常に機能している状態と云える。

その場合、事故を起こす確立はゼロではないが、滅多に起こす事はない。

サイコパスではない『普通の悪人』になると、アクセル(欲望)に対してブレーキ(良心)が弱すぎるか、ブレーキが故障した状態、あるいはアクセルをうまくコントロールする事が出来ない危険な性質を持っていると云える。

この場合は適切な修理や整備を行えば状態が改善される場合も多い。

しかしサイコパスにはアクセルだけついていてブレーキは存在しない、一度火がついた欲望は止むことがない。


誰かに止められるまでその狂った暴走を続けるのである。



少年はこの時受けた脳障害が原因となり欲望の抑制が効かなくなった。

抑えきれない性欲と壊れた良心との葛藤、その苦悩は通常の人間の想像を絶するものであった。

損傷した少年の脳はやがて良心というブレーキを失った。

コントロールできない少年の歪んだ欲望は徐々に反社会的な行動と繋がっていった。

少年は苦しみ、憎悪した、自分自身の狂気を呪った。

少年は十五歳になると最初の殺人を犯した。

抑えきれぬ衝動で十三歳の少女を強姦し絞め殺したのだった。

死体は右目の眼球をガラス瓶につめてコレクションとして残したあと、一部(乳房、尻、大腿部)は、ナイフで切り取りフライパンで調理して食した。

残りの部位は電動ノコギリで四十八のパーツに切断したのち山の中に捨てた。



少年は長年苦しめた罪悪感を手放す事に成功した。

サイコパスへと変貌を遂げたのだ。



しかし自分を苦しめた者に対する憎しみだけは消し去る事は無かった。

少年はその日を待ちわびて生きていくようになった。

ケンイチに復讐するその日を……。





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