はははは!ほら、殺れよ!早く!
畜生…!
スルトウを傷つけることは、シンの身体を傷つけることになる…
一体どうすれば…
…スルトウをシンの身体から引き離す方法がひとつだけ
!?
それは一体…
扉の向こうの異世界の果ての果てに、1本の大樹が生えている
異世界にも木が生えてるんですね
…そ、そうだな
その大樹は『チナトゥの木』と呼ばれている。この木は異世界の住人たちの生命エネルギーを吸って生きている
生命エネルギー…
吸うのは向こうの世界の住人の生命エネルギーのみ。こちらの世界の人間のものは栄養にならない
そうか!スルトウをそこに連れて行けば、スルトウのみが木に吸収されて、シンの身体だけが残る…
その通り。一つになったものを二つにわかつ…。ゆえにこの木は『別つ木』とも呼ばれる
…わかつき、ちなとぅ……
なんで早く言ってくれなかったんですか!そうとわかれば…
そう簡単な話ではないから…。そうだろ、コロックさん
…
…これには二つ問題がある
え…
一つは、スルトウがその木のところまで素直について行くはずがないということだ
折角手に入れた強大な依代を手放すところか、自分が吸収されてしまうことになる『死神の木』になど近づくはずがない
…
無理やり連れて行くにも、あれほどまでに強大な力を持つスルトウでは…。攻撃して弱体化させることも難しい
そんな…
もっと重大な問題がある
扉の向こうは時間の流れがこちらとは異なる。基本的に向こうの方が流れが速い。そして扉から離れれば離れるほど、異世界の果てに行けば行くほど速くなる
もし、その木の元にシンの身体を連れて行けたとして、再びこちらの世界に戻ってきたとしても…
そうか。こちらの世界は膨大な時が流れてしまっている…
あなたたちとの再会が望めないどころか、人類さえ滅びた後の世界かもしれない
それじゃ、こちらに戻ったってなんの意味もないじゃないですか…
…
どうしようもないのか…
この世界を救うためには、スルトウをシンの身体もろとも葬るしか…
高円寺にそれができるとは思えない
…
本当に方法はそれだけか?何か隠しているんじゃないか?
…なに?
私はお前を信用できない
なに言ってるんですか、博士…
ナミコくん。彼もスルトウと同じように、人間を依代とした異世界の住人だ
え…
人間を依代にする、そんな奴を私は信用できない…
それはもっともだ…。…だが私が知っているのはそれだけだ。誓って嘘は…
なぜお前は高円寺のことを知っていた?我々のことも。扉の向こうの住人のはずなのに。
人間を依代にして、こちらの世界に出入りしていた理由はなんだ?一体、誰を依代にした?
…
なんとか言ったらどうだ、コロック
…
…
私は…
!?
…私は、野蛮なモンスターだった
スルトウや他の奴らと同じ化け物。人間を自分より劣った生き物とみなし、他の者たちが次々と人間を依代として力を手に入れることになんの疑問も持たなかった
人間は愚かだ。大して長くもない一生を、愛だの友情だのくだらないことに費やす。理解する必要もない下等な生き物。
…そう思っていた
…
…愛する人が命をかけて守ったものを、愛することに、理由が必要か?
!
!
私には高円寺コウジを見守る義務がある。私が勝手に科した義務かもしれない。彼は迷惑かもしれない。
だが私がやるべきことはそれだけだ
しかし、それはあなたたちには関係のないこと。無理に信用してくれとは言わん。すまないな
…
うわああああああ!
!?
高円寺!
くたばれ!
虫ケラ!!