ケンイチは母親を殺害して家を出たあとしばらくあたりをうろついた。

昨日からの雪は一向にやむ気配がなく、寝巻き代わりのトレーナーシャツ一枚のケンイチは今にも凍えそうだった。

何処にも行くあてはなかったし戻る家ももうなかった。








数時間が経ってケンイチは気がつくと結局自分の通う小学校の正門の前に立っていた。

冬休みの校庭には雪が降り積もってグラウンドは一面の銀世界であった。


眩しいほど真っ白な風景の中での数人の子供たちが、雪合戦に興じていた。

ケンイチのクラスメイト達だった。



歓声を上げて楽しそうに雪玉を投げ合うクラスメイト達をケンイチはバックネット裏から眺めた。

一人の少年がケンイチを見つけた。

そして薄着のケンイチを見て指差し声をあげて笑った。






「こいよ、
一緒に雪合戦やろう」






ケンイチは誘われるがままにグラウンドに入った。

皆は一斉に雪玉をケンイチに投げつけた。

すぐにケンイチは雪まみれになった。

五、六人の少年たちから笑い声が上がる。

逃げ回るケンイチ、面白がって追いかける少年達。












逃げながら校舎の方へ走っていくと雪下の花壇の柵に足を取られてケンイチは転倒した。


その時リーダー格の一際体格のよい少年が投げた雪球がケンイチの顔面に勢いよく当たった。










強い衝撃を受けてケンイチの額がぱっくりと割れた。

その雪球には子供の拳大の石が詰めってあったのだ。


ぼたぼたと血が流れた。

寒さのせいか痛みはほとんど感じなかった。

フラフラと立ち上がると
ケンイチは雪の上に点々と落ちた
自分の血を見た。












血の赤が金魚になった。

ケンイチが握りつぶして殺した

母親が大事にしていたあの金魚だ。


「お前なんか死ねばいいんだ!」

金魚は雪の上から
抜け出すと
ケンイチを馬鹿にするように
ひらりと舞い
ぱちんとはじけて
空中に消えた。


その瞬間今までに
感じたことのない激しい怒りが
ケンイチを支配した。





ケンイチの脳髄の奥で

トカゲが暴れだす。


少年を睨みつける

ケンイチのその目は

深い憎悪に満ちてる。

「死ね!」




少年が叫びながら走ってきて
ケンイチにつかみかかった。




少年はケンイチを殴りつけた。

ケンイチも殴り返す、

何度も何度も殴った。



もつれ合って花壇の中に
倒れこむ二人







ケンイチの指先に
何か硬い物が触れた。


用務員が片付け忘れた
園芸用のスコップが
雪の中に埋もれていたのだ。



ケンイチはそれを掴んだ。










少年が倒れているケンイチに
再び襲いかかる。


少年を睨みつけるケンイチ。

「なんだその目は!
 お前なんて
生きていても
何の意味もないんだ!」

その手には雪玉に
詰めてあった石が
握られていた。

少年は石を掴んだ腕を
ケンイチの顔めがけて
手加減なしに
振り下ろした。

ケンイチはそれを
間一髪で避けると
握り締めたスコップを
渾身の力で突き出した。





少年の右目に
スコップが
深く突き刺さり
その先端が
眼球をえぐった。


真白の世界に鮮血が
飛び散り、
ケンイチの視界を
真っ赤に染めた。



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