大破した車のドアを開けてヒラヤマはヒトミを乱暴に引きずり出した。

今から数分前、ヒラヤマはアジトの見張り台となってる小屋の窓から、峠を上ってくる一台の車のヘッドライトを見つけた。

不審に思い先回りしたヒラヤマはヒトミの進路の前に立ち事故を誘発させたのだった。

一歩間違えば自分が跳ね飛ばされる危険があったが、それをものともしないのは度量の大きさというよりヒラヤマの狂気がなすものといえた。

ヒトミの身体を直に斜面の地肌に横たえると、ヒラヤマはあぐらをかきヒトミの横に座った。









ヒラヤマ

……








ヒトミ

……





ヒトミには目立った外傷はなく、そのやや勝気さが伺えるが端正な顔立ちは月明かりに照らされてとても美しかった。

ヒラヤマはポケットから大麻草をブレンドして巻きなおしたタバコを取り出し口に咥えると火をつけた。




ヒトミの全身を眺めながら旨そうにタバコをくゆらせているヒラヤマ。

ヒラヤマは不良グループ「マザーレスチルドレン」のリーダーであり、杯を受けたヨシオカの舎弟でもあった。

ヒラヤマはタバコを吸い終えると、ヒトミのパンツスーツを探りジャケットの内ポケットからプラスチック製の顔写真つきの社員証を取り出した。






しばらく眺めた後それにライターで火をつけ燃やした。

更にポケットをまさぐると、バングルを取り出した。


ユキオのバングルにヒラヤマも見覚えがあった。

ヒラヤマは、しゃがんだ姿勢のままバングルを谷底に向かって放り投げた。

ヒラヤマは、両手でヒトミの首を軽く絞めた。






ヒトミ

……



ヒトミは苦しそうに少しもがいたが目を覚ますことはなかった。

サングラスを外したヒラヤマ、その右目は醜く潰れていた。

隻眼だった。



ヒラヤマは片方の目で満足そうに笑った。

ヒトミの身体を軽々と肩に担ぐとヒラヤマはアジトに向かってゆっくりと歩き出した。




それはまさに仕留めた
獲物をねぐらに持ち帰る
ハンターのようであった。




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