タイムマシンって
何ですか?

すごいな~とボクは思った。

悠真

大学の地下って、こうなってるんだ~w

姉の通う大学に着き、夏休みだったし誰にも咎められることなく9号棟に向かった。

ボクの記憶は確かで、地下6階は小さな部室が並んでいて、そこまではエレベーターで降りられた。

メールには「地下7階」と書いてあったので、下に降りる階段を探し、歩くとカンカンと音がする小さならせん階段で降りてきた。

悠真

なんかイイ感じw

錆びてるけど、まだ使われているような管。
触るとボロボロ錆びがこぼれるのに、芯はしっかりしていた。

古い感じはするけれど、要所要所の機器はなんだか最新のような感じ。

悠真

超文明が栄えた後、何十年か経った感じっぽい。

まるでSFに出てくるような場所だった。

ただ、科学同好会の部室がどこにあるのかわからなかった。

奥に巨大な扉はあったけれど、上の階の部室のドアとはかけ離れすぎていて、それがそうとは思えなかった。

悠真

「行けばすぐわかる」ってメールには書いてあったけど……。

周囲に姉はいなかった。

とりあえず、行き詰ったので巨大な扉を開けることにした。

悠真

ボタン、押してみたらいいのかな?

「開」と書いてある、赤いボタンを押した。

悠真

すごい音だな。

扉の真ん中の斜めの線から上下に離れて行く。

その隙間から見えてきたものは……

悠真

……。

「閉」と書いてある緑のボタンを押した。

閉めてみた……。

悠真

こわいのいた、こわいのいた。
なんだかとてつもなくこわいのいた~。

悠真

あれ、悪いヤツが乗るロボットだよ。
悪いヤツが乗って、ヒーローが乗るロボットにボコンってやられちゃうヤツだよ。

悠真

こんなところにいるボクは、第一発見者で、誰にも知られずに殺されちゃう役だ……。

悠真

お姉ちゃん、こんなところで何をしているんだろう……。

悠真

ここ、部室じゃないよね?
作業場? 作業場?
何ココ? なんでこんなものが……。

ロボットを作る秘密のアジト?

悠真

お姉ちゃ~ん!

必死になって姉を呼んだ。

悠真

まさかお姉ちゃん、悪の組織に誘拐されたんじゃ……。
そういえば、お姉ちゃんの声、聞いてない……。

でも、待てよ……?

悠真

悪の組織を発見して、悪いやつらを倒すヒーロー……。

いいな、ソレ……。

悠真

そうじゃないよ。

悠真

お姉ちゃ~ん!
お姉ちゃ~ん!!

吉良

騒々しいね。

悠真

あ……。

あんまり会いたくなかった。

もしかしてこの人が関わっているかもしれないとは思ったけど、できればそうでなければいいと思った。


この人は「自称」姉の彼氏の吉良柳之介(きらりゅうのすけ)。
本人は

吉良

キミのお姉さんと付き合っている。
いずれキミの義兄になるだろう。

と言っている。
サラッと天気の話でもするようなトーンだった。

その時、姉は

悠衣

……。

肯定も否定もしなかった。

ということは、たぶん肯定なんだろう。
姉はあまり感情を顕わにしない。

感情は顕わにしないけど、心の深いところに、誰よりも情熱的なものがあることを、ボクは知っている。

姉が「違う」と言わないなら、それは肯定なんだ。

けど、ボクはまだ「自称」を外すことはできない。

悠真

だって、なんかこの人
ヘンなんだもん……。

何がヘンなんだかはっきりとはわからないけど……。

悠真

感覚が普通と違う気がする……。

動物的なカンが「なんかヤバい人だ」と言っている。

悠真

こんにちは。

ヤバい人でも挨拶はちゃんとしなくちゃ。
というか、ヤバい人だからなおさら丁寧にしなくちゃ。

吉良

うむ。

吉良先輩は満足そうにうなずく。

「吉良先輩」と呼ぶように言われたからそう言っている。

悠真

姉に呼ばれて来たんですけど、どこにいるか知りませんか?

吉良

呼んだのは悠衣じゃないよ。
私が呼んだんだ。

悠真

え?

吉良先輩から姉のスマホを渡された。

ボクとおそろいのクマのストラップが付いている。
疑いようのない姉のスマホ……。

傷の付き方とか、クマの顔の表情とかですぐにわかる。

悠衣

悠真!
助けて!

と、姉が言っているような妄想が浮かんだ。

悠真

お姉ちゃんは、どこにいるんですか?

監禁されて、スマホを奪われ、ボクが呼び出されたという最悪のシナリオが脳裏をよぎる。

こいつは悪の組織の親玉か?
似合いすぎるぞ、名前も吉良だし。

吉良

キミに用事があると言ったら、

悠衣

これで呼び出せば良いわ。

吉良

と言って、このスマホを貸してくれたよ。今は研究室にいる。

それだけ吉良先輩を信用しているんだ……。

悠真

ホントに彼氏なんだ?

姉なら誰にでもスマホを渡しそうだけど……。

悠真

ボクに何の用ですか?

用事が済まなきゃ帰してくれそうにない。
それで、それを終わらせて姉に会いに行こう。

そうでなければこの不安はなくならない。

吉良

服を脱いでくれないか?

そういえば、ここはボクたちの他に誰もいない。

悠真

嫌です、絶対に嫌です!

吉良

あ……。

それが目的だったんだ……。

悠真

ボクを呼び出して、ボクにいかがわしいことをしようとしているんだ。

こいつの目的は姉じゃない。
きっとボクだ。

だから、前に姉に聞いた時も……

悠真

お姉ちゃん、ホントに吉良先輩と付き合ってるの?

悠衣

吉良先輩?
柳之介のこと?

悠衣

…………。

悠衣

…………。

悠衣

…………。

悠衣

本人がそうだって言うんならそうなんじゃない?

悠真

なんて投げやりな……。

あれは、自分が愛されてないってことを知っていたからだ……。

悠真

なんてボクは罪作りなんだ……。

悠真

でも……ボクは……

断固拒否する!

やっぱりこの人、ボクが思った通りのアブナイ人だ。

吉良先輩は、不敵な笑みを浮かべ、ボクを壁際に押しやった。

悠真

あ……。

背中にザリザリとした錆びの感触がある。

吉良

それじゃあ私がやってあげよう。

耳元でそう囁かれ、息がかかる。

悠真

やめ……て……。

吉良

遠慮しなくていいよ。

パーカーを脱がされた。

吉良

すぐに終わるから。

悠真

お姉ちゃん、助けて……。
ボク、このままだと……。

でも、周りには誰もいない。
ボクは吉良先輩にされるがままだった……。

吉良

悠衣が手のかかる子と言っていたが、本当だな。この私に着替えをさせるんだから。

……違う。そうじゃない。
ボクがヘンな妄想をしたのがわかって、それに乗っかったんだ……。

悠真

超はずかしいし……。

全身を覆う、つなぎのようなものを着せられた。

銀色のペラペラの生地、ペラペラなのに丈夫そう。
切れたら怒られそうだからやらないけど、思いっきり引っ張ってもなんともなさそう。

靴も手袋も付いているかなり大きな服だ。

悠真

だからこの人、嫌いなんだよ。
優等生面のくせに、いつもふざけてるし。

顔がマジだから、どこまでふざけてるのかわからない。

悠真

心臓に悪すぎ……。

まだ動悸がヘンだ……。

悠真

何ですか?
コレ……。

ゆったりとしてて、ボクの超お気に入りのパーカーを着てても余裕がある感じ。
別に、脱がさなくてもよかったんじゃないの?

悠真

絶対、面白がってたんだ。

ただ、背中には機械を背負わされ、内側には水タンクのようなものがいくつか入っている。

それが全部ボクの負担になっているから、はっきり言って重い。

吉良

生命維持装置だよ。

悠真

はい?

ものすごく不安をかきたてる言葉が聞こえてきたんですけど。

吉良

こっちにおいで。

そう言って、吉良先輩は、さっきのあのなんだかわからないけど、恐ろしい物があった扉へ向かい、赤いボタンを押す。

歩きにくい服を着て、今まで着ていた服は手に持った。
別に、裸につなぎ姿じゃなくて、必要最低限の服は中に着ていた……。

この錆びっぽい空間に自分のお気に入りの服を置いて行くのは嫌だった。

さっきも聞こえた音。

悠真

なんすか?
コレ。

吉良

タイムマシンだよ。

悠真

へー、
そうなんだ~。

これがあの 
タイムマシンか~。

悠真

……。
…………。

タイムマシンって、何ですか?

facebook twitter
pagetop