1時間に一度の休み時間。

でも、
休んでいる人はあまりいなくて、
大抵は誰かしらと何かしらしゃべる。

しんいち。しんいち

僕の前の席にも、
自分の席でもないのに小さいやつが居座って、
僕の下の名前を呼んでいた。

なんだよ、句縁

句縁(くえん)はざっくりいうと、
ちびで口が悪い、僕の昔からの友達だ。

あと一応、女子だ。

なんだよじゃねーよ。いちだいじだ、いちだいじ

句縁が持ってくる一大事は、
大したことはない。

話半分で聞いても、
いや話四分の一で聞いても、
何ら問題ないことばかりだ。 

あいつ、したいではっけんされたなー

一大事だった。

し、死体?

まさかのてんかいだったな

あいつはしぬとしても、まださきじゃねーかとうちはふんでたんだけど……

いひょうをつくシュールなきゃくほんだわな

……テレビの話か

ほかになにがあんだよ?

句縁はテレビが好きで、
よくドラマの話をしてくる。

運動神経がいいくせに、
スポーツはあまり見ない。

しんいち。まさか、みてねーとかいわねーよな?

え……

しまった。

そういえば、この前、
おもしろいドラマがあるから絶対に見ろ、
と句縁に言われていたのだった。

まあ、だからって、
絶対見なきゃいけないわけでもないけど。

みなかったらばつゲームって、やくそくしたろ?

そういう事情があった。

この間、
句縁があまりにもしつこいので、
つい「見る見る」と、適当に返事をしたのだった。

さらに、
約束を破ったら罰ゲームという
何の罰だかわからない約束も、
「するする」と、適当に返事をしてしまった。

みてねーんだったら、ばつゲームのえいきゅーだつもーのけいな?

そんな約束した覚えないけど

まるぼーずな?

それは……

……約束した、ような気がする。

いや、ちょっと待ってくれよ……

罰ゲームで坊主って、
…女子の提案する罰じゃないな。

さいあく、しかくぼーずでもゆるす

そんな坊主はない

かくがりだよ、かくがり

坊主じゃないのかよ

だが、どっちにしろ嫌だ。

おとめとのやくそくをやぶるのがわりーな

そのナリと口で、乙女ぶりますか。

あのー、句縁さん

僕は嘘をつくことにした。

あの、僕見ました。見たんですよ、実はちゃんと見ました

なんでけーごなんだよ?

動揺からです。

この芯条信一を信じてください

ふーん、そうですか、しんいちさん

ほんとにみたんなら、きのうのほーそーでだれがこうさつされたか、しってまさあな?

絞殺だったんだ。

さあ、しめころされたのはだれだ?

それは――

どうする?

適当に答えようにも、
ドラマのタイトルすら知らない。

僕が困っていると、
声がした。

お困りのようですね

頭の中に声がした。

声をかけてきたのは、
僕の斜め前の席の女子。
沙鳥だ。

僕と沙鳥は、
口を開かずとも、
念を送ることで言葉のやり取りができる、
いわゆる「テレパス」なのだ。

机に突っ伏して、
寝ているものと思われた沙鳥だったけど、
どうも僕らの話に聞き耳を立てていたらしい。

沙鳥、そうなんだ。実は困ってるんだ

普段は授業の邪魔ばかりする沙鳥だけど、
今は心強い存在だ。

ぜひとも、普段僕の成績を危うくさせている分、
頭髪くらいは守ってほしい。

そうですか、お困りなんですね

ああ

では、健闘を祈る

それきり、沙鳥との交信は途絶えた。

え……。沙鳥さん?

助けてくれるんじゃないの?

ぐーすかぐーすか

頭の中で寝た振りするなよ

よくぞ見破った

ぐーすかなんて寝息立てるやつ、いないからな

しんいち。なにずっとだまってんだよー

沙鳥に気をとられていて、
句縁への注意がおろそかになっていた。

さては、やっぱりみてねーな?

いや、見たって

んじゃー、だれがしめころされたかいってみ?

僕は沙鳥に助けを求めた。

沙鳥、あのドラマ見てる? えーとタイトルは……

わかってます。さっきの話、だいたい聞いてました

私も好きです、あのドラマ

それじゃ……

でも、昨日のは録画してまだ見てません。みたいな

役に立たん。

帰ってから見るの楽しみにしていまして、ネタバレしたら嫌だなと思ったので聞き耳を立てていました

嫌なら聞き耳立てるなよ

しかし、先週まで見ていたなら、
それなりに情報くらいできるはずだ。

沙鳥、今週絞め殺されたら意外なやつっている?

うーん。いつ誰が絞め殺されてもおかしくないドラマですからね

どんなドラマだよ……

とりあえず沙鳥の予想でいいから。誰が絞め殺されたら意外?

主人公ですね

沙鳥の予想じゃだめだった。

主人公の与座ですね。一番死ななそうです

そりゃ主人公だからだろ……。主人公以外で頼む

では、ヒロインの糸数ですかね

それもなさそうだな

あとは、語り部の古波蔵でしょうか

それが一番なさそうだ

とりあえず、舞台が沖縄なのはわかった

すごい、芯条くん。ひょっとしてエスパーですか

そうですけど

し~ん~い~ち~?

しまった。

句縁が下からのぞきこむようにして、
僕をにらんでいる。

あと、じゅーびょーででてこなかったら、バリカンのじゅーでんはじめるからな?

持ってきてるの?

じゅー! きゅー!

げっ、カウントはじめた。

どうする?

今、沙鳥が挙げてくれた、
三人の候補に賭けてみるか……。

はーち! せーぶん!

なーな!

一秒、儲けた。

ろーく! しーっくす!

10秒以上は持ちそうだけど、
それでも長くはなさそう。

ここは一か八か言わなければ……。
僕は句縁に言った。

ま……、まさか主人公格が死ぬとは思わなかったなー

ちょっと曖昧にした。

これで、
主人公かヒロインが絞殺されていれば、
とりあえず首の皮一枚つながる。

句縁はカウントをやめると、にやりと笑った。




語り部だったか!

そーなんだよ。さすがに、はえーよな。まだごわなのに、ヒロインがしゅじんこうにころされるとか、ありえねー

セーフ!


……しかも、
勝手に正解を細かく教えてくれた。

だ……、だよなー

ありがとう。
ヒロインさん、死んでてくれてありがとう!

それと、
沙鳥にもありがとう。

沙鳥。おかげで助かったよ

何がありがとうですか。ぷんすか

あれ?

芯条くんのせいで、ヒロインが主人公に殺されるってこと、ネタバレしちゃったじゃないですか

いや、それは句縁が……

この貸しはいつか返してもらいますよ。芯条くん

机に突っ伏していた沙鳥は、
あたかも今目を覚ましたような、
わざとらしい伸びをして席を立った。

これ以上のネタバレは困りますから、私は席を外します

沙鳥は立ち上がると、
涼しい顔で僕たちの横を通りすぎていった。

まいったな。

どっちにしろ、
僕は厄介なペナルティを受けるのかもしれない。

……なー、しんいち?

颯爽と廊下に出て行く沙鳥の姿を見て、
句縁が言った。

さとりさんって

ひととしゃべってんのみたことねーな

……ああ







たしかに僕も、








見たことはない。

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