ある少女と高畑教師が知り合ったのは入学式の日だった。
ある少女と高畑教師が知り合ったのは入学式の日だった。
その少女はこの学校の敷地内に足を踏み入れてからある人物のことだけを見て、見つめ、眺め、幸せそうにニコニコとしていたのだ。
その様子を見かけた高畑は
何か嬉しいことでもあったのか?
と、ごくごく単調に聞いてみた。
すると少女は答えたのだ。
あたしは××先生を追ってこの学校に来たんです!
へぇ……?
知り合いなのか?
それとも親戚とか……
いえ! あたしが一方的に、
好きなんです。
入学初日にして、教師と生徒の恋愛を第三者へ語ってしまうなど、その少女は何も考えていなかった。
ただ正直に、自分の気持ちを語っただけ……(そもそも両思いとは一言も言っていない)。
それを聞いた高畑は面食らいつつも、少し考えを巡らせてある悪だくみを思い付いたのだ。
いや、初めからコレを狙ってたからその少女に声を掛けたというのもあった。
あのな……教師と生徒の恋なんてタブー中のタブーだろう?
いえあたしは……というかそもそも、先生があたしに興味を持つ訳が……
それに君の気持ちが他の人にばれたりしたら、どちらかは必ず飛ばされるだろうね
飛ぶ?
恐らく、大人の方が責められるだろうから……主に××先生が
どこかに異動させられる……ってことですか?
そんなの駄目ですよ!
先生の為に、この学校に入ったんですから!
それじゃあ尚更責任を問われるだろうね、子供の進路を一人の大人が左右させてしまったとして……
黙っておけばわからないですよ。あたし誰にも言いませんし、必要もありません!
でも、俺は知ってしまった……けど?
あっ
高畑はニッコリと笑うと
そうだ
と提案をしてきた。
だったら、俺が黙ってあげている代わりにー……ちょっとお願い聞いてもらってもいいか? なあ?
……口止め料、ってことですか?
そっ
……う~……でも、でも先生の為……先生をまた追ってったらそれこそ余計に先生に迷惑が……
この少女は実に健気だ。
そう高畑は感心していた。
自分の言動が憧れの××先生の迷惑、不利になってはならない。
確実にそれらは避けなければならないとしているのだから。
わかった!
あたしの命は××先生以外の人には委ねられませんが、……その他なら何でも聞きます!
……
笑みを手で覆い隠した高畑は、ゆっくり頷いて、少女の手を引いて行った。
それで大人しく、体を許してる……ってことか。随分と軽い尻だなぁ……
先生とあたしの平和な学園生活の為ですもん!
あ、でも唇と初めては死守してますよ?
軽い女性は先生嫌いですもんね?
恋愛対象として、は
よくわかっているんだか、わかっていないんだか……。
と、呆れながらも“××先生”もとい“社先生”は頬杖をついて空き教室の隅に座っていた。
高畑に目を付けられた少女、向陽は
もう少し待っててくださいね~
と何やら小さな機械をいじっている。
この空き教室の鍵は教員しか持ち出せないようになっていて、おかげで生徒がむやみに遊んで物を壊す等といった事件は起こっていない。
それを逆手に取る教師は、まぁやはり出てくる訳だが……。
設置完了しました!
準備OKです!
よし。じゃあ後は……あ。オマエさ、定期的にヤられてんのか?
いえ、高畑先生の都合次第で、あたしからは何も言いません
誘うのは苦手、ってか?
社がからかうも、向陽は至って真面目な顔で手を横に振る。
いえいえ、そもそも高畑先生には興味ないので
鋭いトゲは、綺麗な笑顔から放たれた。
さてそれでは、全ての準備が整った。
参謀は社、実行犯は向陽といったところだ。
この準備とはお察しの通り、高畑教師をおとしめる為のものである。
が、実は高畑から被害を受けているのは向陽であって社はほぼ部外者に等しい。
どちらかと言えば職員室の貼り紙によって巻き込まれただけだし、見ての通り向陽に対する同情も見受けられない……なら、どうして?
どうして先生がここまでやるんですか? あたしは何されても平気ですけど
誰もオマエの心配はしてねーよ、オレのせいでもないし
あたしの自業自得ですもんね
〝どうして〟っていうのは……そうだな。無事に高畑をこの学校から追い出せたら教えてやるよ
追い出せば教えてくれるんですね!?
あぁ
わかりました!
あたし頑張ります!
向陽は拳を握りしめて気合いを入れ直し、社はそんな彼女を眺めながらニヤニヤと笑っている。
そろそろ下校の時刻が迫っている。
決行は、もう数日後だ。
続く...