アオイ

これから状況を整理しようと思う

 スペードの女王と従者のチャチャが立ち去って後、ヒカルと俺は話合いをすることにした。

 現在俺達がいるのは魔女の国。
 女しかいないこの世界には、魔法が存在していて4つの国が常に争っている。

 ハート、スペード、ダイヤ、クローバー。

 まるでトランプの柄のような名前をした4つの国にはそれぞれ女王がいて、彼女達が国を治めているらしい。

アオイ

ここまでは理解したか、ヒカル?

ヒカル

あぁ。それくらいはな

アオイ

あいつらの目的は、ワルプルギスの夜っていう日に行われる国の威信をかけた戦いで勝つことだ。

その戦いに勝利するため、あいつらは別の世界から俺達を呼び出した

ヒカル

自分達の戦いに私達を巻き込むなど、迷惑もいいところだ……

アオイ

本当にな

 ヒカルに同意して、同時に溜息をつく。

アオイ

まぁでも文句を言ってても始まらないからな。

家に帰してくれって言っても、帰す気なさそうだったし、俺としてはあいつらの言うとおりにしようと思ってる

ヒカル

お前は本当順応力が高いな。

私はまだこれが夢であってほしいという希望が捨てられないんだが

アオイ

現実逃避はよくないぜ。ほら、空見てみろよ……

ヒカル

……金色のカバが空を飛んでるな

アオイ

ここはこういう世界なんだよ……深く考えたら負けだ。

夢よりよっぽど夢っぽいが、現実なんだ諦めろ

ヒカル

はぁ……しかたないか。

それで私達は具体的にどうやって過ごしていけばいいんだ

アオイ

とりあえずは魔法を身につけて……強くなればいいと思う。

学園に通わせてもらえるみたいだし、詳しいことはそこでわかるだろ

 学園は今春休み中らしく、通うのは一週間後からだ。

 そこには魔女になる前の魔法少女達がいっぱい通っているとのことだった。

 

ヒカル

……なぁ、1つ疑問があるんだが

アオイ

なんだ

ヒカル

あいつらは、魔女になる素質がある者をこの世界に呼び出したんだよな

アオイ

まぁな

ヒカル

呼び出されたのは、私ではなく……アオイなのか? 男なのに

 そういえばそうだ。
 あいつらは魔女候補を呼び出したと言っていた。

 それを思うと、男の俺が呼び出されたのは変な気がする。

ヒカル

呼び出されたのは女の私のほうで……

魔女になる素質があるのは……実は私だったりしないか?

 ちょっとキラキラした目をヒカルはしていた。

 元々魔法少女アニメが大好きなヒカルだ。
 突然連れてこられて混乱して、不満げな態度をとっていたものの。

 ファンタジーなこの世界に、どこかわくわくしている部分もあるようだ。

アオイ

まぁ、そっちの方が自然だよな……

 あいつらが呼び出したのが女のヒカルで。
 その見た目から一緒にいた男の俺のほうを、魔女候補だと勘違いしたと考えるほうが納得がいく。

 でも……。

アオイ

けどさ、魔法陣って俺の足下にできてたよな?

ヒカル

あっ

 俺を助けようとして、ヒカルは魔法陣に巻き込まれた。
 それを思い出せば、やっぱり呼び出されたのは俺ということになる。

アオイ

……よくわからないことが多いな。

でもまぁ取りあえず、俺は女ってことでここではすごすから。

いいな?

ヒカル

あぁ、わかった。
ちょん切られるのも可哀想だしな

 とにかくここで暮らす以上、目立たないように。
 情報を集めて、できるだけここに早く馴染もうということになった。

 魔法も積極的に覚えて、あいつらの機嫌を取っておく方向でいくことにする。

アオイ

もしかしたら、いつかふいに元の世界に戻るチャンスが訪れるかもしれない。

そのときに備える意味でも、魔法の力を身につけておくことは決して無意味じゃないはずだ

ヒカル

わかった。
だがしかし、才能があるらしいアオイはともかく……私にも魔法が使えたりするんだろうか。

そもそもあいつらが言っていた『皇帝』のカードを持つ魔女候補、とはどういう意味なんだ?

アオイ

そこだよな。
わからないことが多すぎる

 小さなノックの音が聞こえて、座っていたベッドの上から立ち上がる。

アオイ

はい、今開けます!

 ドアを開ければ、そこには……

エリザベス

あなたが新しくやってきた魔法少女ね。
ワタクシは隣の部屋の魔法少女、エリザベス。

わからないことがあったら何でも聞きなさい

 なんだか物凄く……濃い人がきた。
 しかし、まぁいい人のようだ。

アオイ

よ、よろしくお願いします。
咲花アオイです!

エリザベス

本名を言わなくても、ここでは魔法少女としての名前でいいのよ。

ワタクシ達は選ばれた魔法少女。
『アルカナ』候補なんですから

アオイ

あのすみません。

よかったらその『アルカナ』って奴について教えてくれませんか……?

俺、きたばかりでよくわからなくて

エリザベス

よくってよ。
魔女達はそれぞれ『カード』を持っているのを知っているかしら

アオイ

いえ、知らないです

エリザベス

この世界の魔女には大きく分けて2種類あるの。

『アルカナ』か、それ以外かってことよ

 エリザベスによれば、魔女には身分のようなものがあるらしい。

 『アルカナ』と呼ばれるカードを持った魔女が偉く、次は『小アルカナ』、それ以外『ブタ』。
 ざっくり言えばそういうことのようだ。

エリザベス

それぞれが持っているカードは、この世界に召喚された時点で基本的に決まっているわ。

 異世界から魔女候補を意図的に呼び出せるのは、アルカナの魔女だけ。

 狙ったカードを持つ魔女候補……魔法少女とここでは呼ぶのだけれど、それを引き当てるのは至難の技だということだ。

アオイ

へぇ……

 正直に言えば、エリザベスの言ってることは半分くらいしか理解してない。

 しかし、とりあえず相づちは打っておいた。

エリザベス

アルカナカードは全部で22枚。
アルカナの魔女も同じく22人しかなれないの。

候補の魔法少女自体はいっぱいいるのだけれど、覚醒するのはたった1人なのよ

アオイ

なるほど……

エリザベス

ちなみにワタクシは『節制』の魔法少女。

『節制』の魔法少女は、私を含めて27名いるわ

アオイ

多っ!!

エリザベス

こんなに数がいても、覚醒するのはただ1人。

誰かがアルカナの魔女として覚醒してしまえば、他の『節制』候補は、小アルカナ……もしくはブタになりさがるのよ

 この3つでは、えらく待遇が違うらしい。

 アルカナが貴族なら、小アルカナが小金持ち。
 ブタは庶民だということだ。

エリザベス

だからワタクシは誰よりも『節制』のアルカナとしてふさわしくなろうと、気品を身につける努力を怠ってませんの!

アオイ

なるほど……

 気品と節制と……どう関係あるんだろう。
 まぁそこはよくわからなかったので、日本人必殺の曖昧な頷きでごまかしておくことにした。

 あとエリザベスの話でわかったのは、アルカナは各国にそれぞれ最大22名いること。

 ワルプルギスの夜の戦いに参加できるのは、アルカナの魔女だけ。
 だからこそ、アルカナの魔女を揃えることが、勝つために重要なポイントらしい。

エリザベス

ところであなたは何のカード候補なのかしら

アオイ

『皇帝』のカードみたいです

エリザベス

こ、皇帝ですって!!

 エリザベスは座っていた椅子から転げ落ち、大げさな音を立てた。

 大丈夫かな。すげー痛そうなんだけど。

アオイ

エ、エリザベスさん……?

エリザベス

まさかあの幻の『皇帝』候補があなただなんて……!

40ね……いえ、18年生きてきてこの方、皇帝のカードを持つ魔法少女に出会ったのは初めてですわ!

 今エリザベス、40っていいかけてなかった?
 実はもういい年なのか。

 通りで……厚化粧だと思ったんだよな。
 なんだか顔も古くさいし。
 縦巻きロールとか、髪型がもう時代を感じる。

 というか、40過ぎて魔法少女って名乗っていいのか……『少女』って付いてるのに。

アオイ

いやこの話題は危険だ。
俺達の世界にも永遠の18歳とかいたしな……

 エリザベスいわく、『皇帝』のカードはどの国でも召喚されたことがないらしい。

 いや、実際に召喚自体はされたようなのだが……呼び出された候補達は、魔法少女になれなかったのだということだ。

アオイ

えっとそれは……どういう意味で?

エリザベス

呼び出された『皇帝』候補は、何故か皆……男だったらしいのよ。

あぁ、汚らわしい!!

ヒカル

なるほどな。
だから呼び出されたのが、アオイだったのか

 『皇帝』のカードの持ち主は、何故かみんな男。
 俺もその例に漏れず男だったのだけれど……スペードの国の女王はそれに気づいてないということだ。

アオイ

これやっぱりバレたらまずそうだな……

 他の国にはいない『皇帝』候補として喜ばれてしまっていることもあって、バレたときの反動が恐ろしい。

 絶対にバレないように女らしくしなければと、肝に銘じる。
 女顔だったことで、命拾いしていたようだ。

エリザベス

ちょ、ちょ……そ、そこにいるのは男ではなくって!!

アオイ

えっ?

ヒカル

もしかして、私のことを言ってるんじゃないだろうな?

 どうやらエリザベスは、今までヒカルの存在に気づいてなかったらしい。

 女王様達と同じように、ヒカルが男だと思い込んでいるようだった。

エリザベス

……

 エリザベスは、急に白目になり動きを止めた。

 どうやら……気絶してしまったようだ。

アオイ

ちょ、エリザベスさーん!!

拝啓、お母さん。

しばらく俺は、そちらに帰れそうにありません。
何故か魔法少女になることになりました。

新しく始まった魔法少女生活。
前途多難で、不安しかありません!!

 

 

pagetop