四日目の話し合いの場。
談話室に顔を見せた彼らは、頭数がおかしく減っているのに気付く。
今ここにいるのは、9人。
一人、足りない。
昨晩一人死んでいるのは通知で出ているから、10人居るはずなのに……?
そんな表情の彼らのもとに、新しい通知が今更届く。

7番、速水凛のルール違反の通告。
一度目のハンデとして、役職のを明かされた。
彼女の役職は……占い師。
一瞬にして、凛への視線の質が変わった。
それは、恐怖だったり、驚愕だったり……。

…………

凛は目を閉じ、沈黙を保っている。
何も語ることはない。そう言いたげに。
ただ、必要なことだけを言えばいい、と。

既に四日目。
2番、堂賀。
10番、水渓。
11番、高瀬。
以上三名が脱落している。
それぞれ、詳細は不明とされている。
持っている武器や能力は、一部の人間しか知らない。
知れているのは、彼らは村人であることだけ。
残り、狼一名。狩人一名。占い師一名。村人六名。
合計9名。

昨晩の占い結果を言うわ
1番、如月白雪(きさらぎしらゆき)さん
貴方は、村人よね?

名を呼ばれた女は、数少ない彼女へ興味を示さない人間だった。外を眺めていた。
ずっと初日から、そんな態度でどちらかというと無関心だった様子だった。
確認のニュアンスで問われて、その女……如月白雪は顔を向けた。

白雪

はい、わたしは村人ですが……
それよりも、速水さんに聞きたいことがあります

白雪は、キツい視線で凛を見つめて、問い返す。

白雪

あなた、一体どちらを殺したんです?
あのぎゃんぎゃん騒がしかった、水渓とか言う人ですか?
それとも、知ったことじゃないと堂々と抜かしていた高瀬ですか?

どちらを殺したのか、と白雪は問う。
殺したのは間違いない。
ルール違反の内容は、一人しか殺せないのに、もう一人が死んでいる時点で大体察する。
占い師自らが、殺しに行ったのだ。
そのこと自体はさしたる問題ではないと。
そう、流して聞いている。

それを聞いて、どうするの?
襲われたから、殺しただけよ……
殺したくなくても、そうしなきゃ私が死んでいた
ここはそういうゲームでしょう?

白雪

質問に答えてませんね
理由なんて知ったことじゃないです
どうするかを考えるのもそれこそわたしの勝手です
で、どっちを殺したんですか?

あなたに教える必要性はないわね

凛は素っ気なく切り捨てた。
鼻を鳴らして、白雪は吐き捨てる。

白雪

そうですか
まあ、そちらの目論見は察しましたよ
随分と姑息なことをするんですね

……何ですって?

丁寧な口調ではあるが、白雪の言葉には刺がある。
凛が睨みつけると、彼女は肩を竦める。

白雪

だってそうでしょう?
あなた、保身の為に殺したと思われても仕方ないじゃないですか
占い師だと疑ってかかっていた二人が死んだんですから
あなたが殺して占い師だとルール違反で明らかになれば、翌日から疑う人はいなくなる
身を守るだけじゃなく、あなたは保身の為に殺したんでしょう?

鋭い指摘だった。
証明の出来ない占い師の違反を使った証明を、彼女は理解していたらしい。
そのために一人殺したのだ、と言う。
凛は特に言い訳もしなかった。

否定はしないわ
私は、占い師ではないとあの二人には思われていたのも事実よ
確率的に適当でも当たるかもしれない、と言われたわ

白雪

……意外に素直に認めまたね
それに、納得もできました
見るに短絡嗜好の組み合わせでしたし
あの二人は早々に死ぬかと思ってましたが、やっぱり死にましたか
邪魔な奴を片付けてくれたのは、感謝してます
身の潔白まで証明してくれたのですから、速水さんはわたしの恩人かもしれませんね?

勝手に恩人にしないでもらえる?
私は私の身を守っただけよ

白雪

事実は事実として受け取るべきですよ
ついでに他人まで護るなんて、随分と余裕のある占い師さんですね?

あなた、私に喧嘩売ってるわよね?

白雪

売ってませんよ
寧ろ、その悪びれない言動に好感を抱いてます
わたし、元々話にあまり参加しなかったのは口が悪いからなんですよ
こんな風になってしまうのがオチなので

………あら、そう……

人一人殺しておいて、悪びれない占い師。
それを見て、戦慄する参加者たち。
事情を知る人間以外は、信じられない顔で彼女を見ていた。

奈々

あ、ちなみにもう一人殺したのは私ね
殺されたお返しに殺してやったぜよ!

話題が途切れたときを狙って、奈々が最悪の一言を投げ込んだ。
本来の殺人は、このクレイジーな進行役の仕業であったと刹那で皆、理解した。
同時に先日彼女を殺したのはあの二人のうちのどちらかだ、とも覚えていた人間には、分かった。

奈々

で、さ……そろそろ聞きたいんだけど
ぶっちゃけ、投票必要?
一応人狼ゲームなわけだし、意見聞いておこうと思って

進行役とは思えない雑な質問に、集まった彼らは一同の顔を見る。
誰が誰に入れるか、それによって発生するであろう因縁をみな、嫌がっている。
報復されるのではないかと。それが怖い。

数の小さいほうから、意見を求めていく奈々。
1番の白雪は肩を竦める。

白雪

人狼ゲームと言いながら、未だに追放者ゼロですものね
必要なのかどうかも、甚だ疑問です
話し合いは夜の報告と確認だけじゃ……

奈々

そう、そこなんだよ
わかってるねえ如月

白雪

人狼ゲーム(笑)みたいになってますよ?
形骸化させてるんじゃなくて、ちゃんと追放者出しましょうよ
何の為の話し合いですかこれ?

奈々

肯定ってことだね?
じゃあ次、半井のおっさん

3番の半井は顎に手を当てて考え、キッパリ言った。

半井

ここまで話し合いに消極的だとダメだな
話し合いをしている最中に殺し合いに発展してゲーム自体が破綻する

奈々

否定、1……と

冷静な半井は否定的だった。
確かに今の現状ではそれすらあり得た。

奈々

4番の武田さんはどうする?

4番の武田……静流がブタさんと呼んでいた彼は、意気消沈して項垂れていたが、顔を上げる。

武田

んあ……そうだな……どっちでもいいわ……

奈々

意見放棄、と……

意見をまとめていくと、こんな感じだった。
まず、5番。御手洗小百合。

御手洗

昼間まで……そういうことするのは気乗りしないな……

6番、山風茜。

あかねは……よく……分かりません……

7番、速水凛。

必要ならやるわ、必要ないならしないわ
その判断はあなたがするべきでしょう志田

8番、文月あや。

あや

……あやは……やりたくない……

9番、志田阿澄。

阿澄

私個人的な意見?
うーん……やるべきじゃないかな?
そういう、ゲームなんでしょう?
やらないと終わらないならやるべきだと思う

12番、志田奈々は意見を纏める側。
こうしてみると……皆否定的だったり意見を放棄している人間が多い。
精神的に既に参り始めている人間もチラホラ出てきている。
肯定が白雪と阿澄のみ。
他は全員嫌がったり放棄している。

白雪

やれやれ……これはひどい……
自分の意思で参加した人間とは思えませんね……

私達は誘拐なのだけれど……

凛の発言に、思い出したように白雪は頷いた。

白雪

あぁ、そうでしたね
失礼しました
ここまで消極的では、あまり昼間は意味がありませんか……
わたしは部屋に戻ります
数が減っては、わたしも参加せざるをえないかと思いましたが、皆様やる気のないようなので夜に備えてお昼寝してきます
それではごきげんよう

ひらひらと手を振って、彼女は去っていった。
マイペースにやっていると堂賀の二の舞になると理解していないのか、あるいは……。
そんな言動を、凛は注意深く眺めていた。
結局、昼間の追放は必要な時にやる、ということに落ち着いた。
皆、徐々に疲弊し始めていく。
殺し合いの夜は、まだ終わらない……。

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