今晩は、まずい。
みんなトリガーが外れている。
ルール違反をしてもいい、そう考えている人間が三人もいる。
止めないと……ッ!!
流石にあの子独りで、二人同時に相手させるのは……。
志田ッ!?
今晩は、まずい。
みんなトリガーが外れている。
ルール違反をしてもいい、そう考えている人間が三人もいる。
止めないと……ッ!!
流石にあの子独りで、二人同時に相手させるのは……。
もともとは、夜に私に部屋に何者かが攻撃を仕掛けてきたのがキッカケだった。
当然、要塞化されている私の部屋のドアはどんな方法でも開かない。
それはきっと相手も分かっていたんだろう。
だから――精神的に嬲りにきた。
なかにいるのは分かっている、出てこない限りはこれを続けると、ドアを執拗に攻撃してきたのだ。
あれは、恐らく鈍器か何かでドアを殴っている音だったと思う。
当然臆病なあやは面白いように反応して、錯乱状態に陥った。
神経が磨り減っているこんな状況で、そんな脅迫紛いなことをされれば、精神がおかしくなる。
それを知った上での戦術。
悔しいが、それを否定する気はない。
それも一つの手だ。
だから私は私でリスクを抱えることにした。
あやの武器をひったくって、施錠したままドアを内側から蹴り飛ばして交戦の意思があると表記すると、相手は逆に逃げていったのか静かになった。
まだされないとも限らないので、私はあやに私以外は入れないように言い聞かせて、制止する彼女を振り切って部屋を飛び出した。
勝算はある。
住吉を見つけて、何とかするつもりだった。
そうすれば、少なくてもこの状況を打破できると。
見つかるかもしれないが、その時はその犯人を殺せばいい。
そのつもりできたのに、現実は斜め上を行っている。
出会った先では水渓さんが戦っていて、私と住吉が見つかって、更に三つ巴になって……。
生きて帰れるかどうかさえ、不透明。
くっ!!
私も武器を手に取ると、彼女の後ろをついていく。
ダメだ、もう言葉じゃ……止まらない。
この状況、どうするべきか。
彼女達を……倒すしかないッ!!
今度こそ息の根止めてやんよッ!!
やってみろ!
前衛は彼女に任せよう。あの二人の得物は銃火器だ。撃ち合えばこっちまで巻き添えを受ける。
私のやるべきことは、彼女しかいない。
勝てるかどうかは分かんない。でも、やるしかない。
邪魔しないでよッ!!
何であいつの味方するわけッ!?
11番、高瀬さんの武器は……大振りの斧か。
あれは振り回すにはそれなりの体力がいるはずだ。
体力に自信はないが……やるしかない。
一撃で、仕留める!
自分のやってることを先ず見てからそのセリフを吐きなさいッ!!
無差別に人を殺そうとしている人間がどの口で言っているのかをね!
私が不格好にナイフを構えると、彼女は私を狙ってきた。
水平に切り払う斧を私は屈んで避ける。
避けた先で、刃が壁に食い込んだ。
勢いをつけすぎたのだ。
得物が大きければ、外した時の隙も大きい。
こんなことは、基本。
意気込みだけの素人なら、これが致命傷になりえる。
しま……っ!?
やばい、と思ったときには遅い。
私は既に行動を起こしている。
これでッ!
私は膝を曲げて、斧を持っている懐に飛び込んだ。
逆手で構えたナイフを彼女の太腿目掛けて、突き刺す。
ざくり、と手に肉を刺した感触がする。
あぁッ!?
悲鳴を上げて倒れる高瀬さん。
今のは、骨まで届いたはずだ。
深々とナイフが刺さったまま私はそこに蹴りを一撃入れる。
これで、足回りさえ潰せば。
殺さずに……済む。
でも代償としてもっと悲鳴が強くなった。
本当に、この瞬間は嫌い……。
耳も、眼も、全部が嫌になる。
ひより!?
住吉と銃撃戦をしていた水渓さんがこっちを振り返る。
倒れている高瀬さんをみて、彼女は激昂した。
テメェッ!!
私に銃口が向けられる。
ダメだ、目先の感情に囚われては。
彼女の背後にいる悪魔が、私にニヤリと犬歯を見せて嗤う。
速水、サンキュー
銃身を切り詰めた散弾銃。
散弾銃は、切り詰める事で近距離戦闘がしやすくなるという。
そして彼女は手練。殺しには、慣れている。
がはっ……!?
銃声は響いた。
住吉は容赦なく彼女を射抜いた。
散弾は拳銃とは違う。
点の射撃とは別種の、ばら弾を使用する特性上、面への攻撃となる。
水渓さんは背中を撃たれてそのまま倒れる。
大丈夫?
あんま無茶してくれなさんな
その身体を乗り越えて、心配したように駆け寄る住吉。
悪かったわね……
おかげで、こっちは無力化出来たわ
なに、こっちのコンビも中々でしょ
当初の目論見を潰されてこっちは大変だけどね……
まだ二人は生きている。
血の池に沈んでいるが、動けないだけの高瀬さんとは違って、死にかけらしい水渓さん。
背中を見ると、複数の穴から血のシミが出来ている。
身体の中に弾丸が残っているかもしれない。
これは……どう頑張っても、助からない。
況してや、ここには医者なんていない。
どう見ても、致命傷。
静流ッ……!!
静流ッ!!
背後で叫ぶ高瀬さん。
だが、その呼び掛けには彼女は応じない。
まだ死人の通知は出ていないから、死んではいないだろうけど。
フッ……俺の出る幕はないか
大したコンビネーションだ
恨みあっているとは思えないな
クールに呆気なく終わる戦いを眺めていた半井さんがいることを忘れていた。
ハッとしたときには遅かった。
しまった……人に見られた。
御手洗さんは既にいなかった。逃げたらしい。
それよりも、言い訳を考えないと。
だが、半井さんは首を振る。
俺はお前たちの関係に興味はない
女性の秘め事を言いふらすような無粋な真似などしないのでな
……話のわかる人だった。
そして彼は倒れる二人を見る。
始末するなら、早くしておけ
こいつらは生かしておくと全員を皆殺しにする殺人狂だ
一晩に二人はルール違反だが……
逆手に取るといい、占い師
……それしかないわね
私が占い師だと証明する方法は、ルール違反で役職が明かされること以外は、基本的にはない。
そこがルールの落とし穴だ。
身の潔白には違反が必要。この場合は……殺人が。
私は、水渓さんの堕とした拳銃を拾った。
銃なら、一瞬でカタがつく。
これを、彼女に向ければ……。
私でも、殺せる。高瀬さんを。
いいのか? という疑問は、イエスと言おう。
迷うな。どの道後悔する道しかない。
なら、少ない後悔で生きろ。
そう、決めたんだ。
よくも……静流をッ……!!
まだあたしは動け……ッ!
やめなさい
私が生温い方法をすると思うの?
さっきのひと突きで、足の神経を断っているわ
二度と立てることはないと思いなさい
武器を取りに行けることはない。
私はちゃんと神経の通っている部分を突き刺した。
先程の追撃の蹴りで、蹴り倒したのは起き上がれないようにするためだ。
片足だけで何ができる。
ナイフを引っこ抜いても失血死するだけ。
無駄な抵抗は、今の状況では出来ない。
くっ……
ごめん、静流……
あたしのせいで……
殺すことに、抵抗がないわけじゃないわ
大義名分もないし、自己正当化もしない
でもね……私には、無差別に人を殺してまで叶えたい願いなんてないわ
ただ、護りたい人がいる
それだけよ
それを奪おうとするから……私は殺すの
何を偉そうに言って……ッ!!
人殺しに加担してるくせに!!
背後で、もう一度銃声。
振り返ると……。
アンタもその一人だよ
ほら、早く殺したほうがいいよ速水
事も無し気に、倒れている水渓さんの頭部目掛けて、硝煙の上がる銃口を向けている住吉がいた。
ベレー帽ごと頭部は、砕かれていた。
水渓さんを、今、目の前で……殺したの?
静流ぅうううっ!!!!
なんてことを……。幾らなんでも、それは酷い。
高瀬さんの目の前で殺すことも、ないだろうに……。
半狂乱になった高瀬さんが、死体に近寄ろうとする。
これで、今晩死人が一人出た。
後は……私だけだ。私が、殺せば。
迷うな、止まるな、恐れるな。
ここにいる理由を思い出せ。
この手をもう一度見下ろせ。
手の色は、何色だ?
手の中にあるのは、何だ?
いまやるべきことは、何だ?
出来ることを……しろ!!
!!
私は、はい寄ろうとしている彼女の頭を狙って、至近距離で、引き金を引いた。
最後の銃声が、夜に響き渡ったのだった……。