セラータは動揺していた。
経った今、隊長を含めてたくさんの仲間を目の前のゴーレムに殺された。
そして、次に現れたのは、小奇麗な格好をした青年。
見た目は騎士ではなさそうだが、何者だろうか。
あなたは・・・・・・?
セラータは動揺していた。
経った今、隊長を含めてたくさんの仲間を目の前のゴーレムに殺された。
そして、次に現れたのは、小奇麗な格好をした青年。
見た目は騎士ではなさそうだが、何者だろうか。
ルーチェは静かに周りを見回す。騎士たちの残存人数を把握し、小さく息を吐く。
この程度か、とでも言うように。
そして、次はゴーレムの全長をなめるように見上げる。
6メートルはあろうかというゴーレムを表情一つ変えずに見終わると、さらに大きな息をついた。
そして、一番近くにいたセラータのところまで歩いていく。
・・・・・・?
突然、ルーチェがセラータの横っ面を本で殴り飛ばした。
鈍い音がした。歯が折れた気がする。
騎士や、ゴーレムですら一瞬動きを止めた。
セラータは何されたのか分かると、怒ってルーチェにつかみかかる。
いきなり何をするんだ、貴様!
しかし、ルーチェは全く動じない。
明らかに見下した目でセラータをにらみつける。
なぜスクデリーア・マッサを死なせたんですか
それは・・・・・・
予想外の問いに戸惑い、さらに確かにスクデリーア隊長を救えなかったことは事実だ。
何も言えずに手を降ろしてしまうセラータ。
ルーチェは何事もなかったかのように襟を正す。
全く、こちらの計画がずれたじゃないですか
まぁ、まだ全滅していないだけマシ、というところでしょうかね
計画?
何を言っているのか、セラータには分からない。
しかし、一つだけわかることは、彼は自分たちを助けに来てくれたのだろうということ。
それが得体のしれない男でも、今は構わない。
勘違いしないでください。僕はただあなたたちを助けに来たわけではありません。
何?
ルーチェは顔をあげた。
生き残った騎士全員を見回す。
僕のために、ちょっと働いてもらうだけですから。
だからご心配なく。
何か、ぞっとしたものを感じた。
この男は助けに来たのではなく、自分たちを利用しに来たのだとようやく理解する。
おい、いつまで俺様を無視するつもりだ?
おい!逃げろ!
さんざん存在を無視されて怒ったゴーレムが石の拳を振り上げていた。その視線の先にはルーチェがいる。
思わずセラータは飛び出そうとするが、踏みとどまった。
ルーチェが一切焦っていないからだ。
のんきに空を見上げている。
今夜は満月が綺麗ですね
あ、あぁ
いや、今はそれより逃げた方が・・・・・・
そう思ってハラハラしていても、ルーチェは動かない。
もしかしたら、魔法を使おうとしているのか、とも思ったが、少なくともセラータには彼が空を見上げているとしか見えない。
無視してんじゃねーぞゴラァ!!
ゴーレムの拳が振り下ろされる。
もう駄目だとセラータは目を背ける。
しかし、彼の耳に、ルーチェの独白が聞こえた。
全く、騎士隊長を倒したくらいだから、どんなゴーレムなのかと思ったら・・・・・・
ただの埃ですか
セラータが顔を上げたときには、すべてが終わっていた。
自分の目の前から、一切動いていないルーチェ。
先ほどと違い、体はゴーレムの方へ向いている。
そして、ゴーレムの方は・・・・・・
ぐっ・・・・・・・・・・・・
唸り声と共に、そのまま倒れてしまった。
呆然としているセラータ達を本で小突くと、ルーチェはすぐに騎士たちに指示を出した。
それでは、残った兵で本部のあるクアドラートまで帰還します。馬は近くの厩からお借りしましょう。怪我している騎士は今は他の騎士の肩を借りてください。
ここから20分ほどに、町もありますから。まずはそこまで向かいましょう
騎士たちはふらふらと歩いていく。
もとより、遠征から帰る途中だったのだ。自分の力で歩ける者の方が少ない。
セラータも立ち上がろうとするが、ゴーレムという緊張が消えたせいで腰でも抜かしたのだろうか。
騎士失格だなと自嘲しながら、どうやって立とうか考えていると、スッと手が差し伸べられた。
立てますか?
あぁ、すまない。助かる
ルーチェの手を借りてなんとか立ち上がる。
彼の手は、思っていたよりずっと固かった。やはり、この男はただモノではない。
ルーチェはセラータに肩を貸すと、歩き出す。
此度は、本当に助かった。礼を言う
礼には及びません
利用価値がまだあると思ったまでのことです
・・・・・・なかなか、返答に困るな
セラータは苦笑する。
助けてもらったんだ、恩返ししたって、ギルドに迷惑も掛からないだろう。
彼の言う、「計画」というものが気になるが。
そこで、セラータは彼の名前を知らないことを思い出す。
ところで、名は何というのだ?
あぁ、まだ名乗ってませんでしたね
僕はルーチェ・アルマ。しがない旅人です。よろしく
そうか、私はセラータ・ピグメント
以後、よろしく頼む
ところでルーチェ殿、其方はどこに向けて旅をしているのだ?
あぁ、「テイアマット」です
・・・・・・は?ティアマット!?